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毎日読書メモ(177)『風味絶佳』(山田詠美)

2005年12月の日記より、山田詠美『風味絶佳』(文藝春秋、現在は文春文庫)の感想。

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わたしは山田詠美のそんなにいい読者ではない。

デビュー作『ベッドタイムアイズ』 から、芥川賞候補になっていた時代には何冊か続けて読んだが、自分と価値観が違うものを受容する力の小さい時代に読んだせいか、今ひとつ入り込めず。一時すごく人気のあった『ぼくは勉強ができない』 や『放課後の音符(キイノート) 』あたりも、さらっと読み流してしまった。読めばうんうん、とは思うけれど、自分とは別世界の人、わたしと友だちになってくれない人、という感覚がいつもつきまとった。

どうやら、山田詠美を受容するには、自分自身が成長しなくてはいけなかったらしい。それはわたしの問題なので、もっと敏感に感応する人もいるんだと思うけど。

『風味絶佳』は、「本の雑誌」今年のベスト10で堂々の1位に輝いた小説。軽く読みやすく書いてあるが、すごく打ちのめされる。すごいよ! これ! 食欲とか性欲とかが手に取るように描かれ、でもテーマはその先のもっと深いものであり、また、肉体を使う労働に従事するひとの誇りとか強靭さとかも表されている。恋の手触りみたいなものが1行1行にリアルに描かれていて、ドキドキする。さすが山田詠美!

もっと恋をしようとか、そんな簡単に言えることではないが、官能のスイッチをいつもonにして生きることの幸福を、この作者は知っている。知っているだけでなく、言語化してわたしたちに教えてくれることが出来る。この本を読むことで、自分のたたんであったアンテナを起こして伸ばすことが出来るような、そんな感じ。

#読書 #読書感想文 #山田詠美 #風味絶佳 #文藝春秋

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