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山崎ナオコーラ『かわいい夫』(毎日読書メモ(435))

山崎ナオコーラ『かわいい夫』(夏葉社、その後河出文庫)を読んだ。単行本の表紙はチッチとサリーだよ、これは萌える!(ちなみに河出文庫版は表紙がヨシタケシンスケでこれもいい。ヨシタケシンスケは『母ではなくて親になる』の表紙も描いているので、つながってる感はある)
元々、西日本新聞に連載していたエッセイを単行本化した本で、新聞連載時のイラストはちえちひろ。ちえちひろも『鞠子はすてきな役立たず』などの表紙を描いていて、河出書房新社で山崎ナオコーラを売っていくにあたって、イメージ戦略を作っているな、と思う。

新聞連載が2014年の春先で、その頃、作者は流産と、父の闘病と対峙している。
少し間をあけて、後半のエッセイ(書き下ろし)が書かれていて、そこでは父は亡くなっていて、作者は再度妊娠し、妊婦としての暮らしが描かれている。そこから『母ではなくて親になる』にゆるやかにつながっていく時期になるようだ。うっすらと、母ではなく親になる、という認識も描かれているが、この時点では「性別非公表」といったジェンダーフリーを直截に訴える表現はまだそんなに強くない。
但し、他人の価値観に流されないこと、人にどう思われるかを考えてくよくよしないこと、などと強く訴えている。一方で、生身の人間としての自分は人に対して何かを強く言ったり、自分の主張を通そうとしたりすることは得意ではなく、エッセイの中での自分だけが、(別人格ではないのだが)、自分はこう考えるということを強く打ち出すのだ、と、物書きとしての人格を意識して書いていることを端々から感じさせる。

何回も何回も「自分は容姿に恵まれていない(端的にブス、と書いていることも)」「夫の収入はかなり低い」と書いていて(この本だけではない)、ちょっと鼻白むところもあるが、それは、人が客観的に思っていることは現実として受け入れる。でも、自分がその状態が嫌だとか、違う自分(と夫)になりたい、とはこれっぽっちも思っていない(強がりではなく)、ということを、様々な角度から何回も何回も書いている。それは自分に言い聞かせることが目的ではなく、そこを起点として、自分がどう生き、どう書いていくかを丁寧に表現しているのである。

他の作家のエッセイでは書かれない角度から自分の生活を表現しているので、作家になる、というのはこういうことなんだな、というのが、見える。こうあってほしい、という願いはなく、あるがままの姿を受容する人になりたい、という願いは難しい(稽留流産で最初の子どもを亡くしたことで、逆に五体満足に生まれてほしい、という願いを抱かなくなった、という表現にはっとした)。
芯の強さ、信念、そういうものを文章として送り出すことが作家としての使命だ、と思っている姿が恰好いい。

引き続き他の本も読んでみるよ。


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