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恩田陸『祝祭と予感』(幻冬舎)

恩田陸『祝祭と予感』、表紙のイメージでわかるように、これは『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ短編集。『蜜蜂と遠雷』が直木賞と本屋大賞をとったあとも、発表されたのは『失われた地図』とか『錆びた太陽』とか、尖った作品だった恩田陸が、ここでいきなり世相に迎合するようにスピンオフかよ、と思わないでもなかったし、ページの上下が妙にあいたすかすかな本186ページで1200円なんて恩田陸らしくもない、とも思ったが、なんのなんの、これは予想以上に『蜜蜂と遠雷』の凄さを読者に思い知らせてくれる本だった。『蜜蜂と遠雷』読んで2年たっていて、普通なら、登場人物の名前とかキャラなんて忘却の彼方にあってもおかしくないのだが(まぁ確かに映画は見たよ)、読み始めてみると、どの登場人物も、名前もキャラも明確に記憶にある。残念ながら明石君は出てこないが、マサル、亜夜、塵の3人のみならず、審査員だった三枝子、ナサニエル、塵の師匠ホフマン、作曲家菱沼、亜夜の友達奏、みんな、小説の中でくっきりと人物像が浮かんできて、世界がきちんと構築されていたことがよくわかる。特に好きだったのは、菱沼が「春と修羅」」を作曲するきっかけとなったエピソードを描く「袈裟と鞦韆」と、奏が自分のヴィオラと出逢う「鈴蘭と階段」。『蜜蜂と遠雷』同様、音楽家が自分を見つめて描いたリアルとはちょっと違い、やや説明的に過ぎる部分もあるが、予想以上に心が震えた。この本単独で読んでも今ひとつわからない、という意味ではあくまでもスピンオフではあるが、愉しい読書であったことにはかわりはない。

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