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凪良ゆう『流浪の月』(東京創元社)

今年の本屋大賞を受賞した凪良ゆう『流浪の月』を読んだ。
とても不思議な小説だった。本屋さんは、こういう本を売りたいんだ、と不思議な気持ちになった。
Amazonのページに書かれた本の紹介:「あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説」
これは、あらすじになっているのか? 本屋大賞が発表された頃、読んだ紹介では、少女誘拐事件の犯人と被害者が、長い月日を隔てて再会、みたいに書かれていたので、要するにこれはストックホルム症候群の話なんですか?、と思った。思いながら本が来るのを待って読んだ。そうしたら全然ストックホルム症候群ではないのに、周囲の人にストックホルム症候群だと見なされてしまった人たちの物語であることがわかった。
だってそこには愛はない。なのに執着がある。
自由奔放に生きる母親の被害者となってしまった主人公更紗。空気を読もうとしなかった母親を反面教師にして、周囲の空気を読んで生きようとするが、全然出来ていない。そして、自分を傷つける人から逃げるために他の人を傷つけることとなるが、傷つけられた人(文)自身にも大きな葛藤があった。それはひたすらに更紗の一人称で進められた物語の中からも窺い知れるが、最後に文のモノローグが入ってくることで、二人の世界が補完され、一体となる。
途中から現れる梨花の存在によって、ある種の健全さと救いが物語にもたらされるが、そこに至るまでは、脇役も含め誰もが病んだ人ばかり。逃げ場はないのか。更紗が文を求めるのはそこにしか逃げ場がないからなのか。その逃げ場は唯一の理想郷なのか。
自立、って何だろう、とか考えたりもした。
よりよく生きるってどういうことだろう、とか。
誰もが自分の最善を選ぼうとしてもがいて生きているんだと思うし、更紗と文の選択もその道筋の中にある。そしてそれ以外の選択肢がこの本の中にはない。
幸せ、なのかな。
幸せを追求しようとは思っていないのかな。
じゃあ更紗のお母さんは幸せなのかな。
愛とか価値観とか善悪の基準とか、自分が無意識に求めているものは絶対的に必要なものではないのかも、という驚きを与えてくれた本だった。

#読書 #読書感想文 #凪良ゆう #流浪の月 #東京創元社 #本屋大賞 #ストックホルム症候群

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読書、ヴァイオリン、オーケストラ、ビーズ、マラソン、ウルトラマラソン、観劇、美術館、ガレット・デ・ロワ、顔ハメ、ちょっとだけ乗り鉄。
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