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グローバルスタンダードのストックオプション導入 : 信託型ストックオプションからの切替に込めた想い

enechain HRデスクの清水 恒季です。

enechainは創業5年目を迎えたスタートアップで、国内最大のエネルギー取引のマーケットプレイスを運営しています。GTV (マーケット取扱高) は累計1兆円を超え、社員は2023年10月時点で136名となりました。

弊社ではシリーズA前から信託型ストックオプション (以下、信託SO) を導入していましたが、今年5月に発表された国税庁の見解を受け、2023年9月に信託SOをすべて消却し、有償ストックオプション (以下、有償SO) を全社員に新規で発行するというリストラクチャーを行いました。

このnoteでは、その内容を背景にある思想とともに書いていきたいと思います。



目指したのは、従来のSO思想の継承 × グローバルスタンダード

今回のSO制度のリストラクチャーにあたって、経営陣、ファイナンス・アカウンティング、リーガル、そしてHRでチームを組み、半年間にわたって議論を重ねてきました。
その中でリストラクチャーのコンセプトとして掲げたものは以下です。

➀信託SOの導入思想 (メリットと捉えていたこと) をできる限り維持する
②グローバルに競争力のあるSO制度を新規導入する

信託SOは、導入当時取り得る選択肢の中でベストな (最も競争力のある) SO制度と考え導入しました。その信託SOの課税関係が見直しとなり切り替え検討をせざるを得ない中で、どこまで競争力あるSO制度にできるか。その鍵を握るのが、信託SOに込めていた会社として大事にしたい思想を継承しつつも、グローバルスタンダードを大胆に取り入れることだと考えました。

enechainは創業当初からグローバルを意識し、創業翌年にはシンガポールオフィス、その翌年には欧州オフィスを立ち上げており、シリーズAを実施する際にも一貫してグローバルの軸を持った意思決定をしてきています。

国内スタートアップをリードするような存在でありたいという意識は経営陣の中にも常にあり、CFOの藪内を筆頭に、今回のSO制度設計についても日本固有のローカルな慣習にとらわれずにゼロベースで「enechainにとってのあるべきSO制度とは何か」を議論してきました。

参考:藪内が登壇したCFO・VC幹部座談会記事 (NIKKEI Financial)


リストラクチャーの詳細

従来導入していた信託SOと今回発行の有償SOの要件比較は下図です。


➀ 信託SOの導入思想 (メリットと捉えていたこと) をできる限り維持する

信託SO導入時、メリットと捉えていた点は以下でした。

  • キャピタルゲインの最大化
    権利行使価格を冷凍保存できる

  • 税率メリット
    キャピタルゲインに対して譲渡所得の税率が適応される (と考えていた)

  • 入社後の事業貢献度に応じたフェアなSO配分
    SOの割当数を将来決定できる

enechainでは、社員全員にSOを配っています。“Building energy markets coloring your life” というMissionは社員全員で追いかけたいものであり、事業成長に対して社員全員が当事者意識を高く持ってほしい、それが社員のリワードにも直結し、全員がハッピーになる世界を目指したいという考えからです。

壮大なMissionを追いかける中で、時価総額としても国内スタートアップをリードするような規模感をターゲット目線に置いており、キャピタルゲインの課税率は全社員にとって大きな影響を持つものであったため、今回の給与所得課税見解を受け信託SOはすべて解消とせざるを得ませんでした。

幸いenechainはシリーズA後のアーリーフェーズのスタートアップであったため、有償SOの権利行使価格や払込価額もまだ低く抑えられる状況でしたが、これは ”今だから” という話なので、社員のキャピタルゲインを守るためには今回でできる限り多くのSOを発行したいと考えました。また、それをいかに従来のフェアネスの思想に沿って行うかという課題の中で、結論としては以下の方式をとっています。

  • 信託SO使用時に運用していたポイントルール (「グレード × 評価」の軸で定めた配布ロジックに則ってポイントを付与しSO発行数を決定) を今回のSO発行でも適応

  • これまで各社員が獲得してきたポイントに加え、将来の獲得見込みポイントまで含めて今回の発行SO数を算出

  • 将来の獲得見込みポイントは「現グレード × 標準評価」で算出し、今後昇進や期待値を上回る評価を得た際には、追加発生するポイント分のSOを都度追加発行する

  • 入社前の内定承諾者にも、同様のロジックを用いてSOを今回で付与


② グローバルに競争力のあるSO制度を新規導入する

今回のリストラクチャーにあたり無償型税制適格SOの導入も検討しましたが、全社員有償SOでの発行としたのは、グローバルスタンダードへの強い意識が背景にあります。

信託SOを放棄する中でグローバル目線で競争力のあるSO制度とするため、従来の日本のスタートアップ固有の慣習にはとらわれず「パフォーマンス分にはできるだけフェアにリワードできるSO制度にしたい」と考えました。
具体的には、(1) 社員が上場前に退職した場合、および (2) 会社がIPOではなくM&Aによるエグジットを選択した場合 のいずれにおいても、社員のべスティング分のSOについては権利行使を認める設計としています。 (注:日本国内スタートアップの多くでは、上場前の退職並びにM&Aエグジットの場合はSOは失効する設計となっています)

無償型税制適格SOは、現状の法律・オペレーションに則ると上場前の退職時やM&A時にはキャピタルゲインにかかる税率が給与課税率 (最大55%) となるリスクが大きく、これもまたグローバルスタンダードとは乖離しています。有償SOであればいずれの場合でも譲渡所得課税 (約20%) となり、事業貢献度に応じた真にフェアなリワード制度になると考えました。
(今後の追加発行分については、税制改正等の変化に応じてSO種類を都度是々非々で検討予定)

一方で、社員には一つのマイルストーンであるIPOまで一緒に走り抜いてもらいたい (走り抜くには相応のPainが伴う中で、走り切ることに対するリワードをしっかり設けたい) という強い思いもありました。
そのことから、べスティングや退職時要件の設定については下記としています。

  • グローバルスタンダードのべスティング期間 :4年、うち最初の1年間のクリフベスティング(*) とする

  • べスティングの起点は、上場ターゲット時期にべスティング満了となるよう逆算した時期、もしくは入社日いずれか遅い方で設定

  • 上場前退職者についてもべスティング済みのSOについては権利行使可能とするが、行使は退職後一定期間以内で会社が定めた指定日に限定 (権利行使価格の払込発生により退職者にも相応の金銭的コミットを求める形)

(*) 起点日から4年をかけて権利行使できるSO数が均等に増えていき、4年後にすべてのSOが権利行使可能となるが、起点日から1年間は権利行使ができない


社員の反応

有償SOの発行に伴い全社員に払込が発生することもあり、開催した説明会では上記のような制度に込めた想いも丁寧に伝えていきました。
その甲斐あって、反応は総じてポジティブなものとなっています。

米国スタートアップ界隈のSO制度と比較して、どのくらい達成できるかなーという視点で説明会を待ってたけど、満額回答でビックリ。

SO付与に関する理念が素敵で感銘を受けました。
SOの存在が事業の推進剤になっていくことを信じられました。
私も"Giver"としてみんながHappyになれる世界に貢献していきたい所存です。

enechainはValueの1つとして “Thrilled with unknown?” を掲げています。
信託SOからのリストラクチャーは前例がなく、全社員を対象にグローバルスタンダードを取り入れたSOを発行していくことも、非常に未知な挑戦ではありましたが、自分たちらしい、かつ競争力のある、誇れる制度ができたのではないかと考えています。


enechainでは一緒に働く仲間を募集しています
今後の入社者にも既存社員と同様のロジックでSOを発行していく想定です。enechainで働くことに興味を持っていただけた方はぜひHPの「ENTRY」からご応募ください!


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