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正しい消化器がん検診の受け方(胃がん編)〜まだバリウム検査受けてるの??〜

2021年5月16日に予防医療普及協会によるオンラインサロンYOBO-LABOの講演内容をもとに一部改変・追記して記事化しています。

ピロリ菌やばい

ピロリ菌が悪者だ。ということを知っている、もしくはなんとなく聞いたことがある、という方は一昔前と比べるとずいぶん増えてきた印象があります。

堀江貴文さんの書籍「ピロリ菌やばい」や、有名ブロガーのももちゃんのオフィシャルブログでの紹介なども影響し、より身近な問題と感じられているのだと思います。

実際、一般的な胃がんの99%はピロリ菌が関与してしています。

特に東アジア諸国で見られるピロリ菌は欧米型のピロリ菌と比較して胃がんの発がんを強力に惹起することが知られていて、世界における胃がん患者の約75%は日本・韓国を含む東アジア諸国が占めています...!!(年間推計1,033,700人の新規発症、死亡者数も年間推計782,700人と肺がん、大腸がんに次いで第3位) [1, 2]

ピロリ菌の感染経路(いつ?どこで?)

そもそもピロリ菌にいつ、どうやって感染するか?についてですが、多くの場合は赤ちゃん〜5歳くらいまでの子供の頃に感染が成立します。

昔は井戸水なんかを飲むと感染する、なんて言われていましたが、最近では井戸水なんて見たこともない人が多いはずです。

(実際、衛生環境の悪い発展途上国においては未だに環境からの感染も多意図されていますが、)衛生環境の整った現在の日本における主な感染経路は両親や、おじいちゃん、おばあちゃんなどの家族内感染が約80%と推測されています。[3]

ピロリ菌に感染するとどうなる?

一度感染すると、ピロリ菌は胃の中に住み着いて、「除菌(=菌の退治)」をするまで、胃の中を少しずつ荒らしていきます。

この胃が荒れていく変化を胃の「萎縮」と呼びますが、この胃の「萎縮」は胃の出口(幽門)側から胃の入り口(噴門)側へと、段々と進んでいきます。

ピロリ菌の除菌をすると、この胃が荒れていく変化(萎縮性変化)はそれ以上進まなくなりますが、一度萎縮してしまった胃は、基本的には元通りには戻りません。

この萎縮した胃の範囲(ダメージを受けた胃の範囲)の広さ別に、軽度・中等度・高度に分けると、胃がんのリスクはそれぞれ7〜9倍、14〜18倍、61〜70倍と増加していくと報告されています。[4, 5]

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なので少しでもダメージが少ないうちに、早くピロリ菌の検査をして、もしピロリ菌がいたら早く除菌する、ということが大切です。今では中学生の段階でピロリ菌を調べるような取り組みをしている自治体も全国的に増えていて、嬉しい限りです。

生まれた年代別、ピロリ菌感染率

衛生環境の向上や、自治体の取り組みに加えて、2013年にピロリ菌による胃炎に対して除菌治療が保険適応になったことより、全国的に除菌治療が一般化し、感染率は著しく減少しています。

実際、生誕年とピロリ菌感染率の関連を見てみると
1940年代以前生まれ:約75%
1950年代:約40%
1960年代:約25%
1970年代:約20%
1980〜1990年代:〜10%
2000年代以降:〜5%
程度と推測されます。[3, 6]

除菌治療で胃がんのリスクは約1/3に

一般的に、除菌治療を受けると将来的な胃がんのリスクは約1/3程度まで低減する、と言われています。仮にピロリ菌に感染してしまっていたとしても、萎縮が進む前の早い段階で除菌治療を受けることで、限りなく胃がんのリスクを低く保てる可能性があります。

しかし前述したように、除菌しても完全に元通りキレイな胃(一度もピロリ菌に感染したことのない人と同じ状態)に戻るわけではないので、「除菌したら安心」、ではなくて、一度でもピロリ菌にかかったことのある人は、定期的な検査を受けることが大切です。

一般的には毎年(もしくは隔年)の胃内視鏡検査(胃カメラ)が推奨されます(※厚生労働省の指針では、2年に1度のバリウム検査、もしくは胃カメラを50歳〜推奨しているが、実際は年齢や萎縮の程度など、個々のケースにおける胃がんリスクよって必要な検査頻度は一律ではないと考えられる)。

バリウム検査 vs. 胃カメラ

日本と同様の環境下にありながら、隣国である韓国においては、国家を挙げたがん対策が功を奏し、大幅な胃がん検診受診率の向上と死亡率減少効果が見られています。[7]

韓国の癌対策プログラムであるNational Cancer Screening Program (NCSP)の25万人規模を対象とした調査結果によると、5年間で1度でも胃内視鏡検診を受検した者は、未受検者と比較して胃がん死亡率が47%減少していたとする一方、日本で長年推奨されてきた胃バリウム検査による胃がん死亡率の減少はわずか2%だったとしています。[7]

この死亡率減少効果の差...衝撃的じゃないですか!?

国内の研究ではこれほど大規模な報告はありませんが、鳥取県および新潟市の小規模症例対象研究において3年以内の内視鏡検診受検により30%の胃がん死亡率の減少効果が報告されています。[8]

これらの結果を踏まえて2015年、厚生労働省も「がん検診のあり方に関する検討会」中間報告書で対策型検診としての胃内視鏡検査の実施を推奨し、日本でもやっと内視鏡検査が検診の中心的役割を担うようになりつつあります。

もしまだ毎年会社の言うがままにバリウム検査受けている人がいたら...ハッキリ言って現状、胃カメラ検査一択です。

今日のまとめ

①とにかく早く、ピロリ菌の検査を受けましょう
②ピロリ菌がいたら、早く除菌しましょう
③除菌した後も胃がんのリスクはあります。定期的な検査を受けましょう
④胃がん検診はバリウムではなくて胃カメラ一択です

参考文献

[1] Ferlay J, Colombet M, Soerjomataram I, et al. Estimating the global cancer incidence and mortality in 2018: GLOBOCAN sources and methods. Int J Cancer 2019;144:1941
[2] Hayashi T, Senda M, Suzuki N, et al. Differential Mechanisms for SHP2 Binding and Activation Are Exploited by Geographically Distinct Helicobacter pylori CagA Oncoproteins. Cell Rep. 2017;20:2876
[3] 加藤元嗣ら. Helicobacter pylori感染の疫学. 日本内科学会雑誌. 2017; 106: 10-15
[4] Ohata H, et al. Progression of chronic atrophic gastritis associated with Helicobacter pylori infection increases risk of gastric cancer. Int J Cancer. 2004;109: 138-43
[5] Yoshida T, et al. Cancer development based on chronic active gastritis and resulting gastric atrophy as assessed by serum levels of pepsinogen and Helicobacter pylori antibody titer. Int J Cancer. 2014; 134: 1445-57
[6] 加藤元嗣. 函館市の中学生におけるピロリ検診の実情と今後のあり方. 道南医学会ジャーナル. 2018; 1: 1-6
[7] Jun JK, Choi KS, Lee HY, et al. Effectiveness of the Korean National Cancer Screening Program in Reducing Gastric Cancer Mortality. Gastroenterology. 2017;152:1319
[8] 厚生労働省がん検診事業の評価に関する委員会. 今後の我が国におけるがん検診事業評価の在り方について.平成20年3月.

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