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ある夏の夜、LINE通知100件分の議論を交わしていた暑苦しい兄弟の話

夜中の11時ごろ。オンライン通話を終えてスマホを見ると、LINEの通知が100件ほどたまっていた。

通知はすべて、我が家の兄弟三人が参加するグループトークのものだ。ちなみに筆者は末っ子の三男である。長男と次男が何やら話し込んでいたのだろう。あらたな通知は来ていないので、今はもう会話が終わっているらしい。後追いでまとめて読むことにした。

内容は、タトゥーについてだ。

きっかけは、とあるバンドが好きだという次男が紹介した1本のライブ動画。それは野外フェスのワンシーンを切り取ったもので、炎天下の中、上半身裸で熱唱するバンドのボーカルが映っていた。彼の体には、両腕、胸、腹、首、いたるところにタトゥーが刻まれている。二の腕を通った文様は、肩をとおりこして肩甲骨まで届いていた。

その動画を見た長男が、「音楽的な話は全く関係なく、全身タトゥーは嫌いだ」と言い出したのだ。「兄弟だからあえて遠慮なく言うけど」と前置いた上で。

長男の意見に対して、「否定する気持ちもわかるけど、いろいろな事情があってタトゥーを彫った人の気持ちも理解してほしい」と次男。どうやら、そのバンドマンが刻んだタトゥーには、ファンなら皆が知るような理由があるらしい。二人のやり取りに、ふっと、ため息にもならない息がもれた。

他人が好きだと言っているものにいちゃもんをつける長男も長男だが、それにわざわざ噛みつく次男も次男だ。それくらいさらっと流せよ。お前らはいったい何年兄弟をやっているのか。第一、タトゥーを嫌うかどうかはさすがに長男の自由だ。

いつかの正月、実家に一族みんなで集まったとき、酔っ払った長男が聞くに堪えない失言を口にしたことがあった。そのときも次男は、まっさきにキレて長男をぶんなぐった。そんな、我が家の恥部とも言うべき思い出を反芻しながら、二人のやりとりを追いかけ続ける。表情は終始、苦笑いだ。

話は、タトゥーをしたバンドマンの件から徐々にそれて、「息子がタトゥーを彫ったらとりあえず殴る」と主張する長男と、「殴る前に話を聞けよ」と主張する次男の構図になっていた。どちらの言わんとすることもわかるが、とりあえず落ち着こう、と言いたい。もう話は終わっているから意味ないのだけど。

しかし、私の落ち着こうよという思いが届いたのか、熱はそのあたりがピークだったらしい。最後には、「倫理観の違いだから仕方ねえな」「熱くなり過ぎたな、ごめん」というずいぶん丸い結論に着地していた。それができるなら最初からやれ、というのはさすがに野暮だろうか。

本格的に険悪にならずに終わったのは何よりだけれど、そもそもいい歳こいた大人が暑苦しいことやってんなよ。いい加減大人になれよ、と思う自分がいる。

しかし一方で、本当に大人になられたら、こういうやりとりが見られなくなったら、それはすこし寂しいんだろうな、と思う自分もいる。

丁々発止で暑苦しくやりあう長男と次男。そしてそれを、一歩引いて冷めた目で見守る三男。これが我が家の兄弟の形なのかなと、なんとなく納得した出来事だった。

おまけ

長男から、個別のLINEで「馬鹿な兄貴たちでごめんな……」と詫びが入っていた。こちらこそ、こんなところでネタにしてごめんな。いつかこの文章を読む日があったら、どうか文句を言ってくれ。そのときは俺も、きちんと熱を込めて返すから。

執筆:市川円
編集:彩音

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