カレーパーティ

お昼頃の新幹線に乗ったような気がする。
いつも、東北に行く時はワクワクする気持ちでいっぱいだった。新幹線も好きだし、お弁当も美味しいし、着いたらみんなに会えるから。
でも今回は苦しかった。早く会いたいな。その思いしかなかった。

駅に着いたら、いつもならホームまでお母さんが迎えに来てくれていた。
ホームに居ない時は、改札口を出たところで待っていてくれた。お父さんが一緒の時もあった。
わたしを見つけると、嬉しそうな満面の笑みで手を振ってくれた。
お疲れさま、いつものお気に入りのお店でご飯食べて行こうか。

つい、駅のホームで、改札口でお母さんの姿をさがしてしまった。さすがに来てるはずがないのに。その事がたまらなく寂しくて悲しくて。
あんなに元気だったのに。

でもお母さんからLINEはたくさん来ていた。お兄ちゃん家族が車で迎えに行ったよ、駅周辺が改装されて随分変わったからわかりにくいでしょう、どこどこへ行くといいよ、合流できたかな?

あぁ、大丈夫。お母さんにもうすぐ会えるから。こんな事で泣いてられないぞ。
それにお母さんの前では絶対に泣かないんだから。
わたしは気合いを入れて、お母さん達の待つ自宅へと向かった。

「ただいま!」
玄関のドアを開けて、大声で2回叫んだ。
「おかえりー」
リビングの方からお母さんの声がした。安心すると同時に猛烈に泣きたくなった。でもぐっと堪えた。
息子と急ぎ足でリビングへ入ると、お母さんは座ったまま「いらっしゃい」と迎えてくれた。
ちょっとやつれてるような感じ。疲れているような。でも、いつものお母さんだった。心底、ほっとした。あぁでも、癌なのかお母さん。見た目では、わからないのになぁ。

カレーはすごく美味しかった。お父さんとお母さん2人で作ったんだよ、と言っていた。デザートにはケーキも用意してくれていた。兄とわたしの息子が12月生まれなのだ。一緒にお祝いもしてもらえた。息子もすごく嬉しそうだった。お母さんも笑っていて嬉しそうだった。でも、やっぱりしんどそうで、夜は早めに寝てしまった。

おじいちゃん(母の父、わたしの祖父)には、まだ打ち明けていなかったので、その話はなるべくしないようにしていた。
お母さんとおじいちゃんが寝た後で、お父さんとお兄ちゃんとお母さんの病気のことで改めてきちんと話をした。

お父さんはすごく冷静だった。
「レントゲン写真を見せてもらったけど、素人でもわかるくらい…なんだよなぁ。
良くはない状況だから、お前達も、覚悟はしといてほしい。気をしっかりと持って。」
お父さん。お父さんはどんな気持ちなんだろう。辛くないわけないのに。
「俺は、まぁこの年齢だし…ある程度は受け入れられると思う。でも、お前達はまだ若いから…お前は、辛いだろうと思うよ。」
あの時の、お父さんの言葉が忘れられない。
なんて優しい人なんだろうって思った。
「でもなぁ、まさかだよなぁ。まさかだよ。」

本当に。まさか、だよ。
わたしはたまらなくなってボロボロ泣いていたけど、お兄ちゃんはずっと黙ってた。

この先、どうなっていくんだろう。どうしたらいいんだろう。明日にはもう東京へ帰らないといけないのに。
離れる事がたまらなく不安だ。ずっとそばにいたい。だけど、お母さんはそれを望んではいなかった、ような気がする。

お父さんも、「お前は自分の家族と、仕事と生活を大事にして。お母さんのことは、俺がいるから。」と言ってくれていた。だから、なんとも言えない気持ちを残したまま、次の日わたしと息子は東京へ帰った。

その数週間後に、お母さんが入院して歩けなくなってしまうなんて。あっという間に、見た目も「病人」になってしまうなんて。その時はまだ思ってなかった。せめて、このままの状態がしばらく続いてくれたら。そう願っていたから。

だから、このカレーパーティーに本当に行って良かったと思ってる。みんなで一緒に笑ってしゃべってカレー食べてケーキでお祝いして、
本当に幸せな時間だった。お母さんからも、
「夢のような幸せな時間だった、ありがとう」ってLINEがきていた。わたしもだよ、お母さん。当たり前のことだと思ってたけど、本当に当たり前ではないんだよね。幸せな、幸せな時間だったよね。

#家族 #お母さん #病気 #癌 #カレー #パーティ #幸せ

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