Flexicurity:北欧の経済と幸せの好循環
年明けの日経新聞の一面に「資本主義、創り直す」という記事のタイトルが目に入りました。
内容を見てみると、北欧スウェーデンの小さな静かな町で、水力を活かしたグリーン電池を量産する新産業ができていること、国民が起業にも挑戦しやすい環境が備えられていることが書かれています。
北欧といえば、医療や教育が無料であったり、子育て支援が充実していて、国から生活を保障されている社会福祉国家のイメージが強いと思います。
一方で、ESG投資やサステナブル分野でのスタートアップや起業家を、多く輩出し、世界トップクラスのインパクト投資を誇ります(出典:VCによるインパクト投資額で、遂にスウェーデンが英独を抜いて欧州トップ)。
「どうして、北欧は高い幸福度と経済の成長を両輪で、維持していくことができるのだろうか?」といった問いが浮かびます。
その1つのキーワードが"Flexicurity"と呼ばれる「柔軟性」と「安全性」を兼ね備えた社会の仕組み(コンセプト)です。
2022年が始まりこの先、理想の社会モデルの参考として北欧型のFlexicurityについて簡単にまとめてみようと思います。
Flexicurityとは
Flexicurity = Flexible(柔軟) + Security(安全)という造語です。
企業が柔軟に解雇を行うことができる、一方で、失業者に対して、失業給付であったり、リスキリングと呼ばれる職業訓練を手厚く提供する社会戦略のことです。
企業が柔軟に解雇できる
失業給付が手厚い
リスキリング(再教育)による再就職支援が手厚い
この3つを掛け合わせることで、企業にとって成長しやすい労働市場を担保しながら、個人(従業員)にとってもキャリアの転換に挑戦しやすいモデルとなっています。
企業にとって、解雇を柔軟に行うことができるということは市場環境の変化に敏感に対応することができます。
例えば、私の留学していたフィンランドでは、ノキアの衰退以後、次の成長ドライバーとなるIT・デジタル領域への配置転換が急速に進みました。それは、職を失った人たちが失業給付を得てデジタル分野の再教育を受講し、新しいキャリアをスタートさせたことも、重要なポイントだと聞きます。
Flexicurityが生まれた背景
デンマークを例に挙げます。
まず、日本とは大きく労働市場の性質が大きく異なることに注意が必要そうです。北欧では、アメリカのように転職によりスキルアップや昇進を狙っていくことが一般的です。
日本のように内部昇進や年功序列により、同一企業で長く勤務することでの成長を図っていく社会とは土台が異なります。
その前提で、デンマークでは、1990年代に高い失業率を抑制するために導入したのが職業訓練の強化でした。
不況の中において、職を失った労働者に対して、質の高い再教育を提供することで、新しい職についてもらう仕組みがあります。
日本にも失業者向けの職業訓練はありますが、デンマークの特徴は、再教育プログラムが企業や経営者が真に求められる内容になっています。
というのも、カリキュラムの内容は、経営者団体や産業別・職業別の労働組合が話し合いの場をもち決め、地方自治体が運営する職業訓練学校で実施されるそうです。
毎年のように更新され、近年ではデジタル領域のエンジニアなど、社会からのニーズが高い領域のプログラムを充実させています。
Flexicurityによる幸せと経済の好循環
では、このような労働市場の柔軟性と、個人のキャリアの安全性がどうして「幸福」につながるか考えてみたいと思います。
自分の能力を最大限に活用してチャレンジできること(生産性UP)と会社に依存しなくても生きていけること(自律性)、そして、チャレンジし続けられるから得られる所得の向上(経済性)がうまく回っているからだと考えています。
もう少し、個人レベルで考えてみます。
例えば、労働市場が硬直していて、スキルアップが測れないケース(逆)を考えてみます。
企業とスキルの不一致
⇨成長の停滞⇨活躍する機会がない⇨窓際族化⇨所得の停滞
⇨幸福感も低下
あるいは、
企業とスキルの不一致
⇨成長の停滞⇨活躍する機会がない⇨窓際族化⇨退職⇨再就職先がない
⇨幸福感も低下
といった負の循環となる可能性があります。
一方で、フレキシキュリティの高い社会の場合
企業とスキルの不一致
⇨解雇⇨給付金の受領⇨質の高い再教育⇨再就職⇨生産性UP⇨所得の向上
⇨幸福感も向上
といったポジティブな循環になりやすいと言えると思います。
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日本は労働市場の硬直、転職よりも内部昇進でのキャリア構築など、北欧と異なる環境にあり、経済と幸福度の共にあまり良くないと言われていますが「ジョブ型雇用」や「副業の推進」など新しい兆しがあります。
世界のよいところを参考にしつつ、日本型の好循環を生み出される仕組みが定着していくといいなと感じています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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