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デザイン思考の「インサイト」とは?ー新しい見方を誘発する3つのインプット

新しい事業を創出する最初のステップとして、インサイト(洞察)あるいは機会を発見するための、リサーチと分析活動を行うことがあると思います。デザイン思考でいう前半の部分のDiscover(発見)とDefine(定義)が目的とする活動で、標準デザインモデルの左側のひし形にあたります。

Double-diamond design process from British Design Council 2019

このインサイト(洞察)を発見するための、デザインリサーチ活動を進めて結果を分析している時に、よくあるディスカッションが
・インサイト(洞察)って、そもそもなんだっけ?
・良いインサイトってどんなのだろう?
など、インサイト自体に関するものです。

インサイトという概念が漠然として捉えどころのないため、実際にインサイトを言語化する際に、考え込んでしまうことがあるのではないでしょうか。

そんな時、私が必ず振り返る本があります。
意思決定の心理学者であるGary Kleinが書いた"Seeing What Other's Don't See"という本で、インサイトの本質が書かれた良書です。

こちらの本を参照しながら、「インサイトとは何か?」「どんな種類のインサイトがあるのか?」について書いていこうと思います。

インサイトとは

インサイトは日本語に訳すと"洞察"であり、辞書を参照すると、

物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと。

とあります。

これを事業機会の探索活動という文脈にあてはめると、どう解釈したらいいのでしょうか。Gary Kleinは次のように、インサイトを定義します。

“an unexpected shift in the way we understand things. It comes without warning. It's not something that we think is going to happen and that's why it's unexpected. It feels like a gift and in fact it is.”
「物事の見方が予期していなかった変化をすることである。それは突然来るものです。起こると思っていたものではない何か、だから予期しないです。それはギフトのように感じられるものでしょう。事実、ギフトなのです。」

一言で言えば、「これまでにない物事の見方」のことだと言えます。

そもそも、インサイトを発見する活動を行う理由は、競争相手やこれまでのプロダクト・サービスが提供してこなかった価値を創造するためです。だから、新しい物事や課題に対する"捉え方”を発見することが重要であり、その新しい捉え方がインサイトなのだと解釈できます。

このインサイトは新しい見方であるため、自分自身も予期していなかったものになるはずです。そして、ギフトのようにやってくると言っています。

3つのインサイトの種類

新しい物事の見方だと言われても、具体的にはどのような形があるのか想像がつきにくい概念であることには変わりがありません。

Triple Path Model

この図は、新しい物事の見方に至るまでのプロセスを表しています。

インサイトを導く3つのインプットの形として、3つの形があります。
1:矛盾ー物事(現状のプロダクト・サービスでもいい)の矛盾を発見し、これまで考えていたストーリーの見方を変えること。
2:関連ー偶然や好奇心から新しい類似性を見つけること。この新しい相関を見方に組み入れる。
3:絶望ー創造的な絶望と訳され、行き詰まりから逃げること。古い考え方を捨てる必要があり、捨てることで新しい見方を獲得する。

デザインリサーチを通じて、これら3つの発見をすることがインサイトを導くきっかけ(Trigger)になります。デザインリサーチの分析を始めた時点でこれら3つを意識するといいと思います。多くの人が、"関連"(類似する項目に注目)を見つけようと意識すると思いますが、"矛盾"や"絶望"の部分に着目すると、新しい視点が得られるかもしれません。

例:ダイソンのケース

心理学者が書いているため、難しい用語(心理学の専門用語)が使われまだ分かりにくいと思うので、吸引力が落ちない掃除機で有名なダイソンの例を考えてみます。

1:矛盾ー今使っている掃除機は当たり前のようについている紙パックだけど、紙パックのなかに見えるゴミは正直、不快に思う。
2:関連ー工業用製粉機が使っているサイクロンテクノロジーと、掃除機の機構は類似している部分があるなあ。
3:絶望(行き詰まり)ー紙パックは目詰まりするし、どうにかならないかなあ。

このように、デザインリサーチやビジュアルリサーチを行い、インサイトを言語化することが出来れば、今までの掃除機に対する見方が、徐々に変化していく可能性が高まります。また、インサイトを言語化することがアイデア(ソリューション)を出す前の前提条件(precursor)となっていることが分かると思います。

最後に良いインサイトと悪いインサイトの境目を考えてみます。
例として、外出自粛中の在宅勤務での生活についてのリサーチを考えると、

X 人々は家で上手い気晴らしがなく困っている。

◯人々は家で延々と続くと感じる単調な時間を、楽しい時間に変換する方法を探している。

例があまり良くないかもしれませんが、
・文章が充分に具体的であること
・イノベーションのヒントとなっていること
・新規性があること
・これまでに予測していた見方ではないこと

あたりが制約条件になってくると思います。

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インサイトを発見するために絶対の方法というのは存在しませんし、ギフトと言われるような新しい見方を獲得する不確実性の高い目的です。それでもデザインリサーチ、分析活動を通じて、この記事で書いたような新しいデータをインプットしていくことで、インサイトが訪れる確率が上がると考えています。

参考になれば幸いです。

Photo from Bergen train, Bergen, Denmark

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