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もしドラッカーのイノベーション理論からデザインの価値を読み解くと

デザインスクールを卒業して新規事業開発に携わっていると「どうデザインがイノベーションや新規事業に役立つの?」という質問をよくもらいます。

これだけビジネスにおけるデザインの価値が広く認知されるようになっても(参考:マッキンゼーの「なぜ今、日本にデザインが必要なのか▼」)、MBAと比べると、まだまだ自らのコミュニケーションで「デザインの価値」を経営層に伝えていく必要があるようです。

Aalto大学へ留学していた頃、"Presentation of Design Value"というデザインの価値を組織の中で伝達し広めていくための授業があったほどです。

でも、私はよくデザイン価値のコミュニケーションによく失敗します。
デザインに馴染みの薄い経営層や事業開発者にとって、デザインという言葉から思い浮かべる「形のデザイン」「ブランド」のイメージがとても強く、すぐにはイノベーションと結びつかないようです。

経営や新規事業に携わる人が必ず読んでいる共通言語の1つがマネジメントで有名なピーター・ドラッカーの「イノベーションと企業家精神」です。

1985年に出版された古典ですが、最近読み返してみると、この時代から既に「ビジネスにおけるデザインの価値」が認識されていたようです。

直接デザインという表現は使われませんが、「顧客への共感」「観察の重要性」「違和感を問いとして発する」など、デザインの大切なポイントが書かれています。

新規事業・経営・イノベーションに携わる人なら誰でも知ってるドラッカーのイノベーション理論から、ビジネスにおけるデザインの普遍的な価値を探ってみたいと思います。

7つのイノベーション機会

はじめに、ドラッカーの語るイノベーションの7つの機会を紹介します。

ピーター・ドラッカー(マネジメント の父として知られる。出典。)

1 予期せぬ成功と失敗
思いもよらずに売れたり、売れなかったりした理由を分析して機会にする。
例)ヒトに投与する薬が、動物用として大量に注文が入る。

2 ギャップを探す
業績・認識・価値観・プロセスの4つのギャップを探して、解決する。
例)コンテナ船(積み込みと輸送の分離)

3 ニーズの発見
プロセス・労働力・知識に関するニーズを発見して、提供する。
例)車の視線誘導線

4 産業構造の変化
急速に市場が成長したり、技術が組み合わさったり、産業変化を捉える。
例)お金持ちの趣味であった美術品が大衆化する。

5 人口構造の変化
人工の重心が移動することによる、社会の空気(価値観)の変化を捉える。
例)ベビーブームにのり10代をターゲットとした靴屋さんが大きくなる

6 認識の変化
人々の認識の変化を捉える。
例)テレワークが当たり前の時代に家での暮らしや道具にお金をかける。

7 新しい知識
研究や発明などによる新しい知識を生み出す。
例)印刷技術⇨コピー機

社会変化や産業構造の変化といったマクロな機会から、生産プロセスの課題や顧客の新しい価値観などのミクロな機会まで、網羅されています。

これら7つの機会を捉えるために必要なことが書かれているのですが、そこにはまさにデザインが大切にする行為や姿勢が描かれていました。

5つ紹介します。

a. 知覚とデザイン

デザインでは、顧客と深く対話したり、観察したり、サービスが利用される環境に身を置くなどして、自らの体験を通じて「気づき」を得ることを大切にします。

観察からヒントを得ること

ドラッカーもこの「気づき」を得ることを「知覚」という言葉で表現して、その大切さについて繰り返し書いています。

イノベーションの兆候を捉えるには、理論的な分析であるとともに知覚的な認識である。イノベーションを行うにあたっては、外に出て、見て、問い、聞かなければならない。このことはいかに強調してもしすぎることがない。

b. 右脳と左脳の両方を使う

ビジネスやエンジニアリングが分析型、ロジカルな左脳優位な思考を好み、デザインは創造型、クリエイティブな右脳優位な思考を好むと言われます。

ドラッカーの時代から、イノベーションに成功するにあたっては、その両方を使うことが重要だと捉えています。

イノベーションに成功する者は、右脳と左脳の両方を使う。
数字を見るとともに人と見る。機会をとらえるにはいかなるイノベーション が必要かを分析をもって知る。しかる後に、外に出て、顧客や利用者を見て、彼らの期待、価値、ニーズを知覚をもって知る。

c. 顧客・利用者のニーズを理解する

デザインの本質は、人への共感にあると言われます。
ビジネスでは、顧客やユーザーがどんな価値観を持ち、どんなコンテキストでサービスを利用するか、よく理解することを大切にします。

イノベーションを行うためには、超えなければならないハードルがあると、ドラッカーは書いています。ビジネスを提供する側は、ほとんどの場合には顧客にとっての本当の価値や期待を誤っており、そこをよく理解する必要があるということです。

さえないアメリカの靴屋のチェーンから、アメリカで最も成長性の高い人気ファッション・チェーンに変えた二人の若者は、何ヶ月もの間ショッピング・センターに行き、見て、聞いた。買い物客たちにとっての価値を探った。若者たちの買い物の仕方や店の子も荷を調べて、イノベーション機会をつかむことに成功した。

d. 一連の体験を描き出す

デザインの役割の1つに、ユーザーや提供者が体験する一連の流れを可視化するというものがあります。

例えば、カスタマージャーニーマップやサービスブループリント などの表現方法を用いて、顧客や従業員の体験を時系列で描き出します。

ドラッカーもプロセスにおける課題を見つけ出し、それを解決することが、イノベーションの機会となるということを書いています。

・医療分野でイノベーション を起こしたウィリアム・コナーは、手術のプロセスの中で不安になる部分がないかを医師に聞いてまわった
・小さな芝生用品のメーカーだったOMスコットは、何か困っていることはないかをディーラーや消費者に聞いて回った。その結果、スプレッダー(殺虫剤を散布する簡単な手押し車)を買いはすし、中堅企業に成長した。

e. 問いを発すること

問いを立てることで、既に与えられた課題ではなく、課題の発見から取組むことをデザインは大切にします。

ドラッカーのイノベーションの機会では、マクロな統計情報や、市場情報を取り扱う話もあり、一見すると、そうしたデータを読み解いていくことで、機会を見つけるような印象を受けます。

実際には、そうしたデータはあくまでも入り口に過ぎず、最も重要なことは自ら問いを発することだと繰り返し書いています。

人口構造の変化については、人工の重心の移動に伴い、時代の空気が変化する。例えば、共働き夫婦の貯蓄成功はどのようなものになるのか。10代は、相変わらず10代のように行動するか。必要なことは問いを発することである。統計を読むだけでは十分ではない。統計は出発点に過ぎない。

===
顧客の声を聞くこと、本当のニーズを知ること、本質的な問いを立てること、体験を描き出すこと、論理だけでなく知覚や創造性を大切にすること、こうしたデザインの特徴が、イノベーションの機会を発見することに役に立つということが30年近く前からドラッカーは認識されていたようです。

デザイン思考は決して最近生まれた真新しいアプローチではなく、普遍的で本質的なイノベーションを創出する行為や姿勢なのだろうと感じます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

Photo:パリで撮影

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