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愛しい隙間は言葉にしたい

夏休みがおわる3日前、父が猫をつれて帰ってきた。まだ生後一か月もたっていない、子猫。

実家には犬がいるから最初は反対したけれど、結局飼うことになった。当たり前だけど、猫ばかり可愛がらないようにしないとね、と家族で話し合って。

突然家族になった子猫。今まで老犬とのんびり過ごしていたけれど、そうもいかなくなった。

子猫は好奇心旺盛で、少し目を離すといろんな隙間に入り込み、高い場所へよじ登る。どこに行ったのか分からなくなるから、ちょっとダサい鈴をつけた。

* * *

夏休みが終わる2日前。

朝、まだ涼しいうちに犬の散歩へ出かける。

散歩中もちらちら私のほうを見てくる愛犬は、ほんとうにかわいい。最近耳が遠くなったけれど、少し大きい声で名前を呼ぶと、いつも笑って振り返ってくれる。

朝の散歩は気持ちいい。朝露はアクセサリーみたい。

散歩から帰ってくると、子猫がごはんを待っていて、みゃーみゃーと足に絡みつく。踏まないように気を付けながらミルクを用意する。ご飯の前に体重を測ると350g!記録して、明日増えているか確認しよう。

目や鼻がまだ発達していないのか、器を目の前に置いても気づかない。片手でひょいと持ち上げて顔を器に近づけてあげると、一生懸命ミルクを飲み始める。

すると器が少し大きかったのか、前足がミルクの中に突っ込んだ。濡れたのが気持ち悪かったのか、前足をぶんぶん振ってミルクを撒き散らす。あー!とこちらが慌てても、目もくれずにミルクに夢中。

ごはんの後はトイレを教える。専用の砂の上にそっとおろすと、もぞもぞしながら用を足す。猫はトイレを覚えるのが早いらしく、数回教えたあとは自分でトイレへ行くようになった。すごい。

お腹がいっぱいになったら、ねこじゃらしのおもちゃで遊ぶ。何にでも興味を持つし、怖いもの知らずだ。おもちゃに夢中になってソファから転げ落ちても、何てことないって表情でまたすぐに同じことをしている。その様子がおかしくて笑う。

その間も犬と目を合わせたり、名前を呼んだり、なでたり。犬が寂しくならないように注意する。右手に猫、左手に犬と忙しい。

疲れたら一緒に昼寝をする。

お腹が空いたらのそのそと起きて、冷蔵庫から食べ物を探す。すーすー寝ている犬と猫のお腹の動きにしばらく目を奪われて、そっと撫でると、手のひらから体温とやわらかい毛の感触が伝わってくる。平和だなあ。


犬と子猫が昼寝をしている間、私は高校野球を見たり、夕ご飯の準備をしたり。

時間はたっぷりあるけれど、不思議とスマホを見る気にならない。なんだか何も吸収したくないし、何も吐き出したくない気分だった。

日が傾き始めると、犬はそろそろ散歩の時間だよね…!?とそわそわし始め、上目遣いでアピールしてくる。

夕方の散歩もいい。一人と一匹の伸びた影。耳のかたちまで映し出す影が愛しい。

歩くのがずいぶん遅くなった犬の歩幅に合わせると、自分の中に流れる時間までゆっくり過ぎていく。いつもが慌ただしすぎるんだよなあ、と気づく。

夕空は包まれるようにやさしい色で、うっすら霧のかかった岩手山がきれい。

散歩から帰ってくると、子猫が待っていて、みゃーみゃーと足に絡みつく。踏まないように気を付けながらミルクを用意する。

目の前の生き物と触れ合っていると、一日はあっという間におわる。夏休みの最後3日間はこうして過ぎていった。

次帰省するのは、年末かな。子猫はきっと今より大きくなって、このちょっとダサい鈴も入らなくなってるんだろうな。ちょっと寂しいけど、楽しみが増えて嬉しい。

* * *


毎日が愛しくて素晴らしいなんて思わない。でもそんな毎日の隙間に感じる、ほっとする瞬間は確かにある。

たまには頭で悶々と考えた言葉じゃなくて、見たまま、感じたままを自分の言葉で描写するのもいいよね。

この文章を読み返した年末の自分が、犬の健康と子猫の成長を喜べることを願って。



最後まで読んでくださり、とても嬉しいです!ありがとうございます。