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【日本美術でChillする】♯2 国宝 「十便十宜図」のうち 池大雅筆「釣便図」


池大雅「釣便図」(「十便十宜図」のうち)

ここは、人里離れた山中の粗末なすみか。
不便なこともあるけれど。
いやいや、ここにはここの「便」がある。
 
窓の外には渓流が流れている。
わざわざ大仰に用意しなくとも、
窓から糸を垂らせば、釣りが楽しめる。
客が来れば酒を振る舞う。
釣れた魚をアテにしよう。

釣便
不蓑不笠不乘舠 日坐東軒學釣鰲
客欲相過常載酒 徐投香餌出輕鯈


リラックスした表情で釣り糸を垂らすのは、この家の主人か。線描は思わず目で追いたくなるほど表情豊かで、見る者を飽きさせない。色も華美になりすぎず、しかしメリハリがあって面白い。

絵を描いた大雅は、書家としても名高い。格式ばった美しい字ではないが、その素朴な字は、気ままな暮らしまでも想像させる。

文人画(ぶんじんが)
中国では、仕事や政治に疲れた官僚たち(=文人)が、自らの心を癒すために「文人画」を描いた。その題材は、彼らの置かれた現実とは対極にある、理想的な山水の風景などであった。わが国には文人に相当する身分はなかったが、その形式や精神性を踏襲した絵画が、とくに江戸時代後期以降に発達した。日本の文人画は、「南画」とも呼ばれている。

池大雅(いけ・たいが)1723~76
日本文人画を大成させた画家・書家。京都の裕福な町人の子に生まれ、7歳には本格的な中国の書を学んでいたという。多くの文化人らと交わり、尊敬された。妻の池玉蘭(ぎょくらん)も、女流画家として有名。

国宝「十便十宜図」じゅうべんじゅうぎず
池大雅・与謝蕪村合筆 2冊20面
紙本著色 17.9×17.9㎝
江戸時代・明和8年(1771) 川端康成記念会所蔵

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