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【創作小説】見上げれば、碧いそら⑩

今までの話は、こちらのマガジンに収められています⬇

加藤さんが、捻挫した。

私たちは、どうなるのか? 今まで、加藤さんが居るから試合は保っているようなものだった。

加藤さんが、手を突き指したときも そうだったが、加藤さんの存在が大きく思える。これからは、ホントに加藤さん抜きか? いえ、試合自体どうなるのか? チームには、控えが居ない。

みんな、真っ青になってる中、吉永さんが言った。

「加藤さん、今までありがとう」

チームのみんなは涙声になって、加藤さんに次々とお礼を言い始めた。

「加藤さん……」

加藤さんは、ベンチで治療を続ける。審判が、
「この試合、棄権しますか? 」
チームに補欠はいなかった。
私たちは、顔を見合わせる。
(どうしよう……棄権するしかない? )
相手コートの3組の連中は、ニヤニヤしている。
自分たちの勝ちを確信していたのだった。

空の上を、ヘリコプターが飛んでいく。妙に低くてうるさい。

………、ヘリコプターが去ったところで私たちのチームは顔を上げ、お互いの表情を確認し、審判に声を掛けようとした。

「棄権」のひと言を……

「ちょっと、待って下さい! 」
コートの外で応援していた6組選抜チームの律花が声をあげた。
「この場合、例外的に代わりを入れることは出来ませんか? 」
私たちは、顔を見合わせた。
「これは、不可抗力です。特例として、認めてくれませんか? 」

その場に居たものたちが、ぞくぞくと声をあげ始めた。
「やらせてあげて」
「代わりを認めてやってくれ! 」
「こんなんじゃ、勿体ない」
「いい試合じゃないか? 」
やがて、それは大きなシュプレヒコールになる。
「やらせてあげて! 」

審判は、ゴクッとつばを飲み込んで、狼狽しながら言葉を発した。ほぼ、畏れと共に、
「ひ、控え選手を1人自由に入れることを認めます……! 」

私たちは、試合を続けることになった。
代わりに律花が名乗りを上げ、皆に認められてコートに入る。

律花は、軽くウォーミングアップに身体を屈伸させたり捻ったりした。そして、顔を両手のひらでぱんぱんと叩き、私たちに向かって声を掛ける。

「よろしくね! 2年6組のチーム!! 」



            つづく


©2023.12.7.山田えみこ




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