見出し画像

【創作】「心の強い人って?」ピコスは、こう言われた

昔々、ある所にピコスという行者がいました。
ピコスは、暗い出来事が次々と起こる世のなかで、悪王の圧政に苦しまされる夜の中で、「世のなかを救いたい」と、修行を積んでいたのです。

若いころから滝に打たれたり、食を断じたりなどして「強い心」を持とうと修行を積みました。

そして、ある日強い心を得た、と、確信したピコスは、修行をしていた山を降り、街を歩き始めました。

修行を終えたピコスは、自信に満ちて顔を輝かせていました。

(心強き者こそは、この世でついぞ一人なり。誰ぞ我を下しなむ)。

ピコスは、自信満々なのでした。

自分は、どんな責めにも拷問にも負けない心身の強さがあると、信じて疑わないピコスは、奴隷を囚えて王城へ送り込む群れのなかにわざと身を投じました。

(ここから世直しをしてやる! 圧政をかける悪王め! )

ピコスは、奴隷たちと共に王城の奴隷部屋に連れて行かれました。

奴隷たちのなかで、苦役に労じていたピコスは、奴隷たちを庇い、信望を集めて、時期を選んで、反乱を起こします。

奴隷を従えている役人たちは、びっくり。

しかし、奴隷たちは体力がなく、直ぐに散々に負けてしまいます。

首謀者のピコスは、役人たちの部屋に。
殴られ、蹴られ、けれどピコスはこれ位では、絶対挫けません。

奴隷たちは、その姿を見て顔を輝かせて称えます。

けれど、食を絶たれ、その挙げ句に……。

怪しいクスリを飲まされそうになったのです。

クスリを飲まされ、目つきが怪しく、よだれを垂らし、へらへら笑う、ほかの奴隷を目の前に見せられ、ピコスは、ゾッとしました。

役人は、嗤います。

「このクスリは、一度飲むと止められなくなるんだ」

嗤いながら、言ったのです。

ピコスは、悲鳴をあげて抵抗しますが、もう遅かったのです。
奴隷たちは、そのピコスの悲鳴をあげて逃げ回る姿を見てすっかり見損ないました。

ピコスは、クスリを飲まされ、牢屋でのた打ち回ったあと、界隈に放たれました。

かつての、自信に満ちた顔はそこには影もなく、頬はこけ、目は虚ろで、へらへらと笑っていました。

そして、正気に戻ったとき、クスリを求め、彷徨うピコスの姿がありました。

「クスリを、クスリをくれ……。俺は、世のなかを救うんだ……。救世主なんだ」

路の幼女はそのピコスに向かって言いました。
「おじさん……」
「なんだ……? 」
「そんなに言うなら、おじさんは、誰を幸せにしたの? 」
「……」
「私のお母さんは、私の家族を幸せにしてくれるよ? お父さんは、おんなじように私たちを幸せに。おじさんは、周りの誰を幸せにしたの? 」
「……、だ、だれも……」

(普通に暮らしているお父さんやお母さんほどのことも、オレは出来てない……一人も幸せにできてない……

 オレは、あっという間に、………一人も幸せにできないうちに総崩れしたんだ………)。

 ピコスには、まだ、掴みきれませんでした。どうやったら、皆を幸せにすることができたのか、この世の中全体を幸せにできたのか、

 道端のコロボックルが、嗤って言いました。

(人を幸せなする方法なんて、知らないんじゃない? )
(だいたい、自分の お母さんやお父さん、身近な人さえ幸せにできてないじゃない。それで、一足飛びに世の中なんて、よく言えたもんだね、)
(まわりの人を置き去りにして、一足飛びに世間なんて、幸せにできないんだよ、)
(そういう人に限って、自分も幸せになる方法が分からないんだよ? )


そして、最後の一匹のコロボックルが
(ははは……、むりむり、人間は、一人じゃなかなか、分からないのさ。成長できないのさ。人間は、一人じゃないから、自分じゃ分からないから、周りがいて、自分がいて、だんだん見えてくる。そこが、分からないと、ピコスは、間違えたね。人に教えてもらって、教えも返す、でないと本当のことは、永久にさ、分からないよ)。

             おわり


©2024.3.20.山田えみこ





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?