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ボクは徳永進一!叔母さん盗るな!ー6ー

最初からは、こちら⬇それぞれの回の終わりに次の回の貼り付けがあります。

前回、こちら⬇

竜二と、ボクは、夜明けまえの波止場で、釣りで勝負をしていた。竜二の竿には、鰹の一本釣りのように次々とサカナが掛かってくる。ボクは、ゼロ。なんだ、このロコツなサカナの贔屓のしようは……!少しはボクにも掛かってもいいじゃないか……!

ボクが、クサクサして釣り糸(いちおう、餌をセットすることは出来た)を垂らしていると、やっと一匹釣れる……。ボラだ。

「ひょ、ひょーい!釣れたな!坊主!」
竜二は、これに気がついて言う。
「ボラは、泥臭いが大きい分ハゼよりは食べ手があるぜ!さばいて焼いてやろうか!!」
(は……!?)
竜二は、しゃきーん!と、ナイフを取り出す。
きらきらと、ナイフを光らせてしゅばばば……!と、見事にさばく。
「ひえー!竜二!サカナが痛がるよ!」
と、都会育ちのボクは言うのだが……

竜二は、ふと、手を止めた。
「進一……、生き物はな、獲ったら食うものは食ったほうがいいんだ……無駄死にさせるな」
竜二は、バケツにごじゅっぴき一杯に入ったサカナを指差して言う。
「お前が、この『釣りラウンド』の負けを認めるなら、この可哀想なサカナちゃんは、他のは全部 放してやるぜ」 
ボクは、可哀想なボラを見ながら、頭を縦に振りまくった。
「なあ、進一。世の中は、自然から離れてしまったな。ちょっと、遠すぎるくらいに。人間も、自然の生き物なのに」
竜二は、そして、ボラ解体作業を続けながら、
「肉になる動物が可哀想だから、肉は食べないとか、そんなことを言って、肉を食べるのをやめる人がいる……命を守って」
竜二は、少ししんみりと作業を続けながら、
「ペットが、売れ残ると処分されるから可哀想。ペットショップなど無くなればいいという人がいる……命を守って」
ボラは、解体され終わろうとしていた。
「なら、肉屋はどうなる?ペットショップを経営する人は……、職を失って、路頭に迷えばいいのか?」
竜二は、星空を見上げていた。
「なんか、違うと思うんだ。動物を守るため、肉屋の仕事を奪う。犬猫を守るため、ペットショップの主を路頭に迷わす……なんか、違うと思うんだ」
竜二は、とつとつと続けた。
「でも、どうすればいいのか、俺にも分からないんだ」
竜二は、ボラの身に串を刺して、いつの間にか用意した七輪で、焼きだした。
そして、ボラが焼けて ボクに差し出すと、
「ほら、命だ」
ボラは、こんがりと、食べ物屋で、他の出された食べ物と変わりない姿でボクの前に出された。
「大昔、人間は 自然と共存していた。その頃は 人間はどうだったんだろうな。自然は、世界は……、今より拗れてなかったような気がするんだ。今の人間は、問題を好きこのんで作っているような気さえする。同じ人間が、無駄に傷つけて、痛めつけ合う、そんな必要もない場合も。心の問題。新しく出てきたADHD、HPSの問題。引きこもり、いじめ、格差、少子化、パワハラ、セクハラ、DV、誹謗中傷……同じ人間がいたぶり合って。
環境問題、ナショナリズム、戦争、民族問題、食糧問題、温暖化……。いったい、世界はどうなってるんだ……」
そう語っている竜二の目はサングラスで見えなかったが……。
波止場の向こうの海の上は明るくなる。
そして太陽が昇る気配。




              つづく

©2023.7.20.山田えみこ



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