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懐かしく愛しい日々

先日、私は夢の中で幼かった頃の息子に会った。

この時、私は夢だとは気づいていなくて、最初に実家の裏の道を歩いている所から始まった。

その道は、昔、私が子供の頃に登下校で通ったり、幼なじみと遊んだ道だ。でも、高校を卒業して大学に入り、こうして大人になったら、その道を歩くことは無くなった。更に、結婚して実家を出て以降は、実家へは車で行き来するので、ますます家の裏の方へ行くことは無くなった。

夢とはいえ、ここを歩くのは何十年ぶりだろう。私はこの道を一人で歩きながら、「わぁ、この角の家、昔と全然変わっている!」とか「この家は昔のままだなぁ」とか「この辺りも古くなったなぁ」とか、子供の頃の記憶と照らし合わせながら、とても懐かしくいろんなことを感じた。

やがて角っこを右に曲がって真っ直ぐ進む。ここは塀のある家が続いている。ブロック塀の奥にある住宅を覗いて「昔、ここでよく遊んだなぁ・・・」とか思いながら、私はテクテク歩いた。

道の突き当たりは大通りだ。

この大きな通り沿いに、私の実家がある。

車がたくさん往来する大きな通りのはずなのに、何故か、そこは山裾の細い道になっていた。

夢の中の山には木がたくさん生い茂って、その枝を大きく道へ垂らしている。緑色の葉よりも、赤黒い葉の方が多かった。初めて見る不思議な木々だった。

そんな木々の茂みを横に見ながら少し歩くと、私の実家があった。

家の前に止めてある父の車の横をすり抜け、玄関の引き戸を開ける。

ガラッと開けると、玄関上がってすぐのフロアに私の息子がいた。まだ幼児だった頃の息子だった。私が育休明けで仕事に復帰した時から保育園に入園するまでの数年間、実家の両親に息子を預かってもらっていた時があったのだけど、その頃の息子が目の前に居たのだ。

私は「あっ!」と驚いた。その瞬間、意識はピューンと20代後半の私に飛んだ。「そうか、私は息子を迎えに来たんだ。」と思い込んで合点する。

息子は私を見るなりキャッと笑って、「かぁ!(お母さんの意味)」と叫び、嬉しそうに私に飛びついてきた。

私は「〇〇!」と息子の名前を呼んで、ギュッと抱きしめた。

この感触、この匂い、このぬくもり、小さな息子の身体を抱き留めて、愛しさで胸が一杯になった。この小さな可愛い人は私の子供で、私はこの子のお母さんなのだ。なんて誇らしく嬉しいのだろう。

息子も小さな手でギュッと私にしがみつき、私の胸に顔を埋めた。

親子でハグをして温かい気持ちになり、「さぁ帰ろうか」と言いかけたところで、ハッと目が覚めた。

一瞬、ここはどこ?となったけど、少ししてあれは夢だと気づいた。

しかし、まだ私の手には息子のぬくもりが残っている。

小さな笑顔も、抱きしめたときの身体の感触も、少し甘い子供特有の匂いも、私の顔に当たる息子の髪のフワフワした感じも、全てまだ私の感触としてしっかり残っているのに、あれは全て夢の世界の出来事だったのだ・・・。

夢とは思えないくらいリアルな印象なのに、目を覚ました瞬間、一瞬のうちに全てが泡のように消えたことに戸惑いを感じながら、「あぁ、私はとっても幸せな子育て期を過ごしてきたんだなぁ・・・」と思った。

あの頃の私。

毎日が一生懸命だった。

不器用で未熟な母親だったけど、私なりに必死で頑張ってきた。

そして、誰よりも深く強く、惜しみなく愛情をたくさん注いできた。

幼い息子のはち切れんばかりの笑顔。

母親の私へ真っ直ぐ向けられる息子の純真な心。

それに応えよう、この子の良さを壊さないように大事に守ってあげなくては・・・と奮闘してきた。それと引き換えに、この子の母親として楽しく幸せな時間を過ごしてきたのだ。

キラキラと輝く愛しい日々。

でも、全て終わったんだなぁ・・・。

あの甘美な時間は終わったのだ。

全ては記憶の世界。もう二度と返ってこない日々。

そう気づいたら、涙が溢れてきた。

◇◇

今思えば、子育てで大変だったのは、本当に一瞬だったなぁ。

渦中に居るときは「いつ終わるのか」とゴールが果てしなく遠い先にあるような気がしたけど、済んでしまったら本当にあっという間だった。

当時は、私も夫も若くて無我夢中だった。失敗もたくさんあったけど、2人で助け合いフォローし合った出来事は今では懐かしい思い出だ。

そう、私たち夫婦にとって、幼い息子と過ごした甘い日々は無形の共有財産であり、最高に幸せな体験だった・・・。

◇◇

しかし。

こんな夢を見たからといって、息子が亡くなったわけではなく(汗)、息子は元気でピンピンしていて、20代の今を謳歌して楽しそうに生きている。

私たち親はセンチメンタルになっているけど、子どもは何処吹く風で飄々としている。

あの夢を見た次の日、久しぶりに息子と会った。私の目の前には、昔の面影が薄れた大人の息子が居る。

「私に『お母さん』を経験させてくれてありがとう」

すっかり大きくなった息子に、私は心の中でそっとつぶやいた。

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