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バナナシェイクを飲んだ日に ♯1

好きだったのに嫌いになってしまった。
すごく好きだった。ついさっきまで。その証拠に私は今、めちゃくちゃおしゃれをしている。

1週間前にデートに誘われたときは嬉しくてどうにかなってしまうかと思った。梅雨のせいでパサついた髪は、努力によってサラサラになった。間食は控えて、軽めな運動と早めの睡眠。我ながら頑張った1週間。あなたに捧げた1週間。ドキドキとワクワクと希望に満ちていた。デートするだけで充分。それ以上は望まないように。魔法使いだったとしたら、確実に充実した楽しくなる魔法かけられた、そんな1週間だった。

そんなにも好きでたまらない人とデート。夢の中にいるみたいだった。待ち合わせ場所にいるあなたはいつものスーツと違って、肩の力が抜けたスマートでおしゃれで自分をよく理解してる、そんな格好だった。ふわりとして、いつもとは違う空間で、少し歪んでいるような、お互い緊張に包まれた初々しい時間。幸せな瞬間だったのだ。確かに。確実に。

すぐに入ったカフェは可愛くておしゃれで、写真に撮りたい、インスタにあげたいという気持ちを抑えたくらい。元々知ってたのか、調べたのか。どっちでもいい。こんな素敵な空間にあなたといられるなんて幸せです。

私はマスカットティーを頼んだ。少し大きめのティーポットから1杯分を丁寧にカップに注ぐ。私の喉をじっとりと潤していく。あなたはバナナシェイクを頼んだね。それを一気飲みしたね。そして迷わずバナナシェイクをおかわりしたよね。あなたがバナナシェイクを飲んでから、ずっと引いてしまってね。おかわりしたのが許せなくて、簡単に言うと嫌いになった。

あんなに好きで仕方なかったのに、こんな一瞬で嫌いになるなんて。たまらなく好きだった人といい感じになりそうなこの状況で、嫌いになるなんてもったいなくない?素敵な人というのは確か。格好良くておしゃれ。バナナシェイクさえ飲まなければずっと好きだったはず。だから私は目の前にいる、元好きで現嫌いな、この人を再び好きになろう。

そしてこのお店でバナナシェイクを飲みながら愛を語らおう。あなたのことをもう一度好きになれますように。私は2杯目のマスカットティーをカップに注ぐ。

頑張ります!一生懸命頑張ります!!