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映画『1秒先の彼女』〜埋もれた大切な記憶〜

あれは確か、私がまだ6歳か7歳くらいの頃だろう。私は田舎に生まれたため、近くには小さな商店がようやく1店舗あるような場所だった。暑い夜に父親、母親、兄、姉で誰ともなく『アイスを食べよう』と言って、誰か代表者を決めてその近くの商店に全員分のアイスを買いに行くのが、当時のなんとなくの習わしで、暑い夜の楽しみでもあった。本当に今から40年も昔の話である。まだ、父親も母親も若く元気で、この時間が永遠に続くくのだろうと漠然と感じていた昔、昔の何気ない記憶である。

誰にでも普段は忘れてしまっていて、思い出すことのない『大切な思い出』があるものである。ただ、忙しい毎日に埋もれて忘れてしまっているだけである。
そんな懐かしい記憶をなんとなく思い出させてくれた映画がこの『1秒先の彼女』である。

1.スタッフ、出演者

 監督 チェン・ユーシュン
 出演 リウ・グァンティン, リー・ペイユー, ダンカン・チョウ
 台湾映画
 製作 2020年

2.ストーリー

郵便局で働くシャオチーは、仕事も恋もパッとしないアラサー女子。何をするにもワンテンポ早い彼女は、写真撮影では必ず目をつむってしまい、映画を観て笑うタイミングも人より早い。ある日、ハンサムなダンス講師とバレンタインにデートの約束をするも、目覚めるとなぜか翌日に。バレンタインが消えてしまった...!? 消えた1日の行方を探しはじめるシャオチー。見覚えのない自分の写真、「038」と書かれた私書箱の鍵、失踪した父親の思い出…謎は一層深まるばかり。どうやら、毎日郵便局にやってくる、人よりワンテンポ遅いバスの運転手・グアタイも手がかりを握っているらしい。そして、そんな彼にはある大きな「秘密」があったー。 失くした「1日」を探す旅でシャオチーが受け取った、思いがけない「大切なもの」とは…!?

3.感想、考察

この映画は、原作は『失ったバレンタイン』で、台湾ではバレンタインは夏(旧暦の7月7日)にやってきて、主に男性から女子にプレゼントを渡す習慣があるようです。(初めて知った)この主人公のシャオチーは気になっている彼との楽しみしていたバレンタインデーがまるまる1日なくなってしまったことから、その1日を解明すべく行動に移って行くのである。ここまで聞くとサスペンスか?と思ってしまうが、雰囲気は全くそんな感じはなく、ほのぼのとした感じで笑いを交えて進んでいく。
さて、このシャオチーが消えた1日を探す中で見つけたものとは・・・。

私は台湾の気候が大好きである。台湾の日差しはとても柔らかい感じで、冒頭でも触れたような少し昔の古き良き日本の雰囲気を思い出させてくれる。

台湾といえばホウシャオセン、エドワードヤンなど台湾ニューシネマと言われる有名な監督がいて、私も大好きではある久しく台湾映画を見ていなかったので、久しぶりに出てきた監督『チェン・ユーシュン』監督には期待である。

さて、見終わっての感想として、心温まるいい映画だったとは思う一方で、印象に残ったのは、少しメインとは違うポイントである。

この主人公の父親は主人公が小さい時の失踪してしまうのだが、その場面が妙に印象に残ってしまった。1人意識が朦朧とした様子で、家から買い物に行くと出ていく場面で学生である主人公と会うわけだが、その日を境に失踪してしまう。

『幻の光』という映画でも主人公の旦那(浅野忠信)が失踪する場面があるのだが、大切な家族を捨ててでも、失踪する人間の気持ちはよく理解はできないが、なんとなく人には『魔』がさす瞬間がきっとあるのだろう。それは周りから見ると無責任で非情な人間に見えてしまうものではあるが、いつそのような状態に自分が陥ってしまわないとも言えないものである。人は社会性のある生き物ではあるが、何気ない時にその『しがらみ』や『煩わしさ』から一切解き放たれたいと考えることもあるのだろう。

お父さんは、映画の後半に出てきて生きていることがわかるのだが、そこには新しい生活、家族が存在しているのである。

世間ではネットを中心に、自分との価値観や常識が違うひとに対する誹謗・中傷が横行しているが、その人たちは自分が明日いきなりその対象のような考え方に変わったり非難を受ける側に自分がなることがあることを考えたりしなのだろうか?
私はいつでも自分が『向こう側』になり得ることを理解し、表面的な『同情』や『マジョリティー』的な傲りを持たないで人間でいたいと強く思う。人は案外簡単に『向こう側』に落ちてしまう脆さを持っているのだから。    

4.印象に残ったセリフ

 『我々のようにテンポが人より遅い人間は、利息のように時間が溜まって、
                    今日のように1日自由に動ける日が来る』

 
よく思うのだが、人の人生の幸福の総量は同じだと持っている。だから、悪いことがあれば、それと同じだけのいいことがあって人生の帳尻を合わせてくれるだと信じている。でもこの映画を見て少し価値観が変わった。人生に複利の考え方を当てはめると、人生の幸福の総量は増やせるではないかと。その増やしかたはまさにお金の複利の考え方だ。毎日の何気ない『良い行い』『親切』『思いやり』。日々のほんの少しの利息が5年、10年の複利となって、結果的の大きな資産を形成するのでなないだろうか。そう考えると日々を『丁寧に』『大事に』生きることが精神的にも実利的にメリットが大きそうだ。生きる上でいい発見であった。

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