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翻訳できない世界のことば【梨の読書記録⑤】

一目惚れって、したことありますか?

対象は人それぞれだと思いますが、誰しも一度は、目を奪われてしまうほど、魅力的なもの・こと・ひとに出会ったことがあるのではないでしょうか。

ちなみに私は、空間に対して一目惚れをすることが多いです。
例えば、カフェとか。
(なにこれ、素敵すぎる…) と、思ったカフェには、ついつい通いつめてしまいます。

でも、1つ悩みがありまして。

すっごく素敵なのに、なぜかこの感覚を言い表す言葉が見つからない。
自分の感動を、どうにか表現したいのに!言葉がない、言語化ができない…!となってしまうのです。人に”好き”を薦めるのが、未だにへたっぴです。

自分の感覚を言葉にすることは、なかなか簡単なことではありません。それが、万人に伝わるようにするには、相当の熟考とセンスともろもろが必要になるような気がします。

そんなモヤモヤを覚えていたときに、知人から教えてもらったのが、こちらの本。

『翻訳できない世界のことば』

「翻訳できない」とは、『りんごといえば、apple』のように、1つの言葉を、1つの言葉で言い表せない、という意味。

本書が出版されたのは、2016年。
当時から、イラストレーターとして活動されていた、エラ・フランシス・サンダースによって書かれた本です。

しかも、本書を執筆したのは、彼女が20代だった頃。最初に投稿した「翻訳できない世界の11の言葉」というイラスト入りの短い記事は、なんと19歳で書いているようです。

年齢ですごい、すごくないと言うのは短絡的かもしれません。
ただ、本書を読了した最初の感想は、これほどの感性と想像力と言語化能力を、20代で持っている筆者が素敵、ということでした。

こう言っていても伝わらない気がするので、彼女の文章のなかで印象に残った一節を書き出してみます。

この本が、読者のみなさんにとって、忘れかけていたなにかを思いだすものであったり、または今まではっきりと表現したことのなかった考えや感情に言葉をあたえるものであればと願っています。

言葉は、わたしたちが相手を正確に理解するのを助けてくれるし、文化のちがいから絶えまなく生じる疑問を解決し、境界をこえさせてくれるのです。

翻訳できない世界のことば はじめに より抜粋

誰かの話を聞くたびに、”言葉”の重要性を実感します。
でも、何が重要なのか、何に対して重要なのか、はっきりと表現できませんでした。

だから、この文章を読んだとき、まさに言葉をあたえられたような感覚を抱きました。

本書を読むと、そんな瞬間がつぎつぎと訪れます。

印象に残った言葉を、2つ紹介します。
ネタバレ必須です。まだ読んでいない、かつネタバレを避けたい方は、名残惜しいですが、ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました!


【スウェーデン語】mångata (モーンガータ)

自然がつくりだす光や色って、なんでこんなに美しいんだろう。
写真を撮っていると、そんな思いで満たされる瞬間がたくさんあります。

目に映すだけじゃもったいないくらい、美しくて、時がとまるようで。

その光や色をおさめてみたい。
そう思って撮ってみるけれど、なかなか思うようにはいきません。

mångataとは、「水面にうつった道のように見える月明かり」という言葉。

筆者が添えていた言葉に、共感がとまりませんでした。

漆黒の夜の海にうつった月明かりがまっすぐに渡っているシーンには、きっと目を奪われるでしょう。

「それな!!!」と思わず口に出してしまいそうでした。
自分の感覚が言葉になる、自分の感覚が誰かと通じ合う。それがかけがえのないことだと、改めて感じました。

このシーンを言葉にしようと思ったスウェーデンの先人たち、そして、この言葉を本書で取り上げようと思った著者に、感謝を伝えたくなりました。


【タガログ語】kilig (キリグ)

嬉しくてたまらなくて、何も手がつかなくて、にやけがとまらなくて、じーっとしていることがむずかしい。

そんな感覚になったことはありませんか?

誰かから嬉しい言葉をもらえたときとか、誰かと思いが通じ合ったときとか。
動いていないと、体の奥底から溢れ出るものでどうにかなっちゃいそう。

そんな瞬間を、きっと多くの人が経験したことがあると思います。

kilig は、身体の奥底からあふれ出す、わくわく感を表現するような言葉。

これが印象に残ったのも、筆者が添えていた言葉がとても素敵だったからです。

タガログ語で、おなかの中に蝶が舞っている気分。たいてい、ロマンチックなことや、すてきなことが起きたときに感じる。

ロマンチック、すてき、ときめき、わくわく…。

そんな感覚を、”おなかの中に蝶が舞っている気分” と表現する感性がステキ!と思いました。

皆さんは最近、kiligになったことはありましたか?
本書で紹介されている言葉を知って、自分の感覚を確かめてみる。そんな読み方も、おすすめです。


💐日々ひみつさんのイラストをお借りしました💐


2023/09/13


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