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手に伝わる温かさに、笑顔をつなぐ

私は都内の施設で、看護師として働いています。入所者は主にご高齢の方々。基礎疾患を抱えている方が多いため、感染症を持ち込まないように細心の注意を払っています。

折しも2023年末。コロナ禍が終息したとしても、感染症対策に変わりありません。日々の健康観察、出勤時の検温・うがいと手洗い励行、マスク着用。毎週のPCR検査も、都からの指示で実施しています。

とくに有効な対策は、出勤時の手洗い!
職場でも「出勤時ルーティーン」として、すっかり定着しました。全員が、玄関をくぐると洗面所へ直行するのです。

自転車・バイク通勤している職員も多く、みな職場につく頃には手足が冷え切っています。凍るような朝の空気にさらされ、指先の感覚がなくなるほど。さっそく手を洗うと、「あったか〜」という言葉がついつい漏れ出てきます。

それもそのはず。なんと洗面所の蛇口から、お湯が出るのです。職場に洗面所は数多くあれど、お湯が出るのは玄関前だけ。

冷え切った手が、温度をとり戻す瞬間。手の外側からお湯の温かさが伝わり、並行して温かい血液が身体の内側から流れ込んでくる感覚。

すると洗面所の四方八方から、同じような声がきこえてきます。

「あったか〜」
「あったかいよ〜」

まさに今、隣で手洗いしている同僚も同じ心境なのです。早朝から妻として母として家庭を切り盛りしたあと、子どもを送り出し職場に無事たどり着いた安堵感と、温まりゆく手先。出勤の道中で、身体が冷え切っていたことを思い出しました。

子ども優先で自分自身の準備は後回しだったこと。反面、出勤すれば自分の裁量で動ける自由があることも知っています。

同時に、家庭から仕事モードへと気持ちの切り替えが行われます。今日一日、苦楽をともにする同僚と一緒に、出勤前から暖を取る不思議。とどこおりなく検温しマスクを交換して、いざお仕事がスタートします。

やむを得ない事情で、離れて暮らす家族の笑顔を守るため。毎月会いに来てくれるお孫さんや、お手紙をくれるご家族に安心してもらえるように。

手洗い一つで、職員もみな手先が温まりました。思いがけないルーティーンに、心もほっとする瞬間でした。

無事に一日過ごせますようにと祈りつつ。無事に職務を終えて、無事に帰宅できますようにと願いを込めて。

自分の行動に意味があるとすれば、目の前にいる入所者さんと、見知らぬ誰かの笑顔をつなぐことと信じて。



■この記事は、ことばと広告さん主催の「モノカキングダム2023」にエントリーするために書きました。テーマは「あったか」。さいごまでお読みいただき、ありがとうございました!

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