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おくりびとに、想いを託して

私は都内の施設で看護師をしています。
昨日お一人の利用者さんが、老衰で帰らぬ人となりました。

この方のご家族は、都合上どうしても昨日は来ることができませんでした。危とく状態であることは、重々承知されていました。
最期に間に合わない可能性も、ご承知のうえです。

昨日の朝。
その方の意識が薄れ、呼吸も浅くなってきました。

いまわの際に、利用者さん一人きりになることは避けたかったので、できるだけその日はそばにいようと、心に決めていました。

そんなとき、ご友人がお二人駆けつけてくれたのです。

ぶじに間に合い、直接面会することができました。コロナ禍もあけて幸いでした。

水入らずでお話をし、お歌とお手紙をプレゼントしてお帰りになりました。

そのわずか30分後。

その方の心拍数が。140から40まで下がっていたのです。
心拍数140は、ずっとダッシュして走り続けている感覚。その心拍数が下がったのです。

息が絶えるのも、もう時間の問題。
わたしは、もう1人の同僚看護師と一緒に、その部屋にいつづけました。

「お友だちと最後に会えて、良かったですね。」
「うんって、うなずいているよ。」

「お手紙もらえて、嬉しいですね。お歌もとてもきれいでした。」
「ご家族もきっと、心配していますよ。」

「クリスマス会のときは、楽しかったね。あのころはがんばって歩いていました。」
「ご家族からも、すてきなプレゼントが届きましたね。」

二人で声をかけたり、お互いの言葉に返事したりしているうちに、すっと眠るように息を引き取りました。

看取りの日に。
家族の代わりはできないけれど。

あまりの命のはかなさに、看護師としての職務なのか一個人として立ち会っているのか、よくわからなくなってきました。

ですが、三年以上にわたりお付き合いのある方の最期が安らかで、本当に良かったと思うのが正直なところ。

その後、先ほどの同僚と一緒に、この方の身支度をととのえました。十分にがんばってこられたから、十二分に休んでほしい思いが一番。
いろんな気持ちが浮かんでは消えていきます。

さいごに、おくりびとが迎えに来ました。
新たな旅支度がはじまるのです。

哀悼の意を表し、一期一会の出会いと別れに、感謝のことばをつぶやきました。

ちょうど台風一過の前日でした。

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