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《Jazz The New Chapter 4 for Web》ペドロ・マルチンス & アントニオ・ロウレイロ ・インタビュー Talks about 『Caipi』OutTakes

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カート・ローゼンウィンケルにインタビューした時に、「次のアルバム『Caipi』にはペドロ・マルチンスアントニオ・ロウレイロというブラジルの若いミュージシャンが参加している」という話を聞いた。立ち話してる時にカートは「なんでアントニオやペドロをすでに知ってるの?」という感じだったが、僕の友人の音楽評論家がアントニオの1stを発見したんだというような話をしたりした。

あとから、ペドロ・マルチンスのアルバム『SONHANDO ALTO』を聞いて驚いた。ディスクユニオンのサイトには若干18歳だと書いてあったことにも驚いたが、それよりもそのギターだ。その18歳の音は既にカート・ローゼンウィンケルの影響を消化しつつ、自身のカラーが生まれ始めているようだった。そこからは明らかにカートやブラッド・メルドー以降のUSコンテンポラリージャズのサウンドが聴こえていた。

そういえば、僕が初めてアントニオ・ロウレイロに関心を持った時に感じたのも、彼のドラムに宿るコンテンポラリージャズの要素だった。

そんなわけで、この2人にジャズの話を聞いてみるインタビューを思いついた。その話はJazz The new Chapter 4の誌面に載っているので確認してほしい。

ここではそのアウトテイクとして、『Caipi』の話を中心にお送りする。

取材:柳樂光隆/江利川 侑介 翻訳:湯山恵子

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【ペドロ・マルチンス インタビュー】

――まずは生まれた年や出身地など、簡単にプロフィールを聞かせて?

「本名はPedro Henrique de Azevedo Martins。ブラジルのブラジリア生まれで現在23歳だよ。」

――あなたがジャズと出会ったきっかけは?

「父親のナイロン・ギターを抱えて、父と自宅中でジャムったのがジャズと出会いかな。仕事から疲れて帰宅すると、いつもうちの父親は何時間も思いっきり演奏を楽しんでいたんだよね。その姿を見たのが、間違いなく「ジャズのスピリット」に初めて触れたきっかけ。僕が9歳のとき、父がジャズ・スタンダードのコンピ盤を買ってきて、僕は楽曲に合わせて(ギター)演奏していたんだ。」

――音大やレッスン等でジャズを学んだこと?

「ジャズ系の音楽学校に通ったことはないけど、地元(ブラジリアにある)公立の音楽学校、EMBでクラシック・ピアノを少し習ったよ。」

――学生時代にどんな感じで音楽を勉強していたの?

「(演奏を研究したりする)ミュージシャンに関する僕の音楽形成はこんな感じ。素晴らしい作品を発掘し、夢中になると、そのアーティストのことを本当に理解しているのは自分だけだと思い違いをしていてね。夢中になったアーティストの世界にドップリと浸るんだ。そして、そのアーティストがまるで自分の一部になるまで情報収集したら、次(のアーティスト)に進むんだ。数えきれないほどのアーティストを研究したから具体的に名前は全部挙げきれないけど、例えば現在はヴィラ=ロボス(Villa Lobos)に夢中だね。僕は正式に(音大やジャズ・スクール等で)学んだことが一度もなかったし、偉大な先生や師匠についていたこともないから、僕は相手が誰であろうと自分の周囲にいる全ての人達から学ぶようにしている。他人の弱みや悪い点を常に指摘することで自分を肯定したい人達が一部いるけど、結局同じように自分自身の音楽も批判する羽目になるから、それって「罠」だよね。僕は自分の耳をできるだけオープンにするように心がけていて、たとえ恥をさらすような(演奏の)中、もし一瞬でも美しさを感じたら、それは(=その演奏は)アリだと思うんだ。」

――プロとしてのキャリアのスタートはどんなきっかけ?

「僕が9歳の時、うちの叔父が僕と従兄弟たち(=叔父さんの子供)を集めてバンドを始め、僕らは毎週日曜にひたすら練習したんだ。叔父さんはマジ真剣で、当時の目標は僕らをプロのミュージシャンに育成することだった。同じ曲を8時間ブッ通しで何度も何度も練習しても、叔父さんは(僕らの演奏に)全く満足していなかったね。でも、楽しかったよ。僕が12歳の頃には(地元の)ブラジリア中で演奏し始めた。」

――あなたが優勝したMontreux socar guitar competition 2015について教えてもらっていい?

「自分のソロ・キャリアに専念するために、ある時ギタリストや音楽監督として関わっていたプロジェクト全てを辞めることにしたんだ。ツアーで旅をする機会が突然なくなり、アーティスト稼働も収入も減ってしまった模索の1年間はちょっと辛かったね。でも、その頃にfacebookフレンドの3人がこの(ギター・コンテストの)応募者用ウェブ・リンクを送ってくれたから、参加することにしたんだ。」

――そもそもカート・ローゼンウィンケルと知り合ったきっかけは?

「2008年にサンパウロでカートのライヴを観に行った後に一緒に記念写真を撮ってもらったのが最初だけど、本当の意味で知り合ったのは、モントルーで開催されたコンテストだね。」

――カート・ローゼンウィンケルの『Caipi』に関しては、どんなオファーされて、アルバムに参加することになったの?

「モントルーで優勝してレコーディングの権利を勝ち取ったんだけど、そのアルバムを録音した後に、カートが僕のアルバムにも参加してくれないかって声をかけてくれたんだ。
『Caipi』制作には面白い歴史があるんだ。カートがこの作品に着手したのは10年前。その3年後の2008年、リオ・デジャネイロを旅した彼は友人に未完成の5曲を渡したんだ。それから少し経ってから僕がリオへ行った際、非常にラッキーなことにその未完成素材を僕も聴くことになった。とても新鮮な素晴らしい楽曲で、、、聴いた瞬間恋に落ちたね。とにかく楽曲の美しさに圧倒され、 何年もの間ずっと僕の人生の一部となっていたんだ。そして、2015年についにカートと出会い、アルバム『Caipi』を仕上げる手伝いをすることになった。摩訶不思議で素晴らしい体験だったね。」

――『Caipi』には演奏だけじゃなくて、共同プロデューサーとしても、関わっているけど、アルバムではどんなことをしたの?

「まず、ブラジルの自宅でかなりの作業を進めたね。ヴォーカルを9曲分、キーボードを3曲分、ドラムを1曲、それからパーカッションをもう1曲で自分で演奏した。カートは一部細かいところをリクエストしてきた箇所もあったけど、他のことに関しては全て自由に「自分が感じるままにクリエイティヴに録音して」と言ってたね。僕らは2回に分けて15日間で、(共同プロデュースを美しく施した)ポール・ステイシー(Paul Stacey)と『Caipi』のミックス作業に入った。ロンドンにあるポールのスタジオでね。

――カートが主催するハートコア・レコードからリリース予定のあなたのアルバムについてコンセプトがあれば聞かせてほしい

「タイトルは『Vox』。これは、自分の身の回りで起きていることを表現したアルバムだね。僕の故郷、そしてこれまで旅した場所で経験してきたことの融合だよ。ブラジル的な楽曲が中心だけど、例えばモダン・ジャズのような普遍的要素も沢山混ざっている。プリ・プロ用に書いた楽曲をカートと聴いた時に、彼にプロデュース依頼したんだ。非常にパーソナルな、自分の書いた楽曲を何曲かカートに最終的に聴いて貰った時にね。当初僕はギター・トリオのアルバムを考えていたんだけど、カートは僕の自作曲を凄く気に入ってくれて、この方向性でいいという話になった。その後、自分が隠していたものを全面に出すという過程に入り、カートは別に細かく説明せずに、すんなりと自然に僕からベストなものを上手く引き出してくれた。素晴らしいアルバムを制作する上で彼は大きく関わっているよ。圧巻だったね。」


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【アントニオ・ロウレイロ インタビュー】

―― カートは『Caipi』を作るにあたって、このプロジェクトに必要なピースとして、あなたやペドロ・マルチンスフェデリコ・ヘリオドロ(Frederico Heliodoro)といったブラジルのミュージシャンを招いたととおもうけど、カートはあなたたちのどんなサウンドが欲しかったと感じてますか?

「カートが約10年間も温めてきたプロジェクトだから、この作品に必要な、音楽面で広げていく可能性が僕らにあると確信したのかもしれない。このアルバムに参加し、カートが彼の作品に期待している音楽が現実となっていく過程を学べたことは僕にとって光栄であり、喜びだね。」

――『Caipi』にはミナスのサウンドのサイケデリックでクロスオーヴァーなフィーリングがあると思うんだけど、最初にこのサウンドのアイデアをカートから聴いたときにはどう思った?

「初めてカートの音楽に触れたのは、昔カートがトニーニョ・オルタと共演したOuro Preto Jazz Festival だった。カートとトニーニョは一緒にプロジェクトを組んでいたから、僕ら(ブラジル人)やアメリカ人の多くのミュージシャン同様にミナス ジェライスからの音楽的影響を受けていたことは明らかだったね。でも、ソングライティング(カートが書く歌詞は最高!!)を通して彼が(ブラジルを)旅をしたことは、とても嬉しかったし、インスピレーションを受けたね。今回はポルトガル語の歌詞を使用しているからブラジル的な雰囲気があるんだけど、僕もカートの新作で歌詞を1曲書いたんだ。」

――あなた自身のアルバム『So』では自分の演奏を多重録音しているあなたから見て、『Caipi』の多重録音サウンドを聴いたときはどう感じた?

「カートは全てにおいて素晴らしい概念を持ち、どの楽器演奏も本当に素晴らしいんだ!だから、僕は多大なインスピレーションを受けたよ。 」

――『Caipi』ではどんなことをしましたか?

「僕が歌詞を書いた「Casio Vanguard 」1曲でヴォーカルを録音しただけだよ。でも、ライヴだと、ロック的なヴァイブスが色濃く出るんだよね。カートとステージに立つ時、僕はドラムス/パーカッション・セット、シンセ、ヴォーカル担当。カートのバンドにはビル・キャンベルっていうドラマーがいるからね。必然的に(ライヴだと)凄くいい意味で、アルバムの音とは違う感じになるよ。」

――カートのレーベル、ハートコアレコードからアルバムをリリースするらしいね。

「Heartcoreレーベルでのリリース・オファーをカートから貰い、光栄だよ。楽曲とプリプロはいくらか出来上がっているけど、カートはまだ聴いていないんだ。というのも、現在僕はカートの新作とツアーに集中しているし、その他にはAndré Mehmariと共作したニュー・アルバムのことや第一子である息子が誕生したことに専念しているから!」

――そういえば、サンラックスが好きらしいね。彼の音楽のどこが好きか聞かせて

「うん、大好き!!インターネットでSon Luxの楽曲を偶然見つけたんだよね。『We Are Rising』の楽曲と入り組んだアレンジが大好きで、ベルギーで見た彼らのライヴはショックを受けるほど圧巻だったよ!!!」

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KURT ROSENWINKEL - Caipi

ソングエクスジャズ SONGX042

Kurt Rosenwinkel: acoustic & electric guitars, electric bass, piano, drums, percussion, synth, Casio, voice
Pedro Martins: voice, drums, keyboards, percussion
Eric Clapton: guitar
Alex Kozmidi: baritone guitar
Mark Turner: tenor saxophone
Kyra Garéy: voice
Antonio Loureiro: voice
Zola Mennenöh: voice
Amanda Brecker: voice
Frederika Krier: violin
Chris Komer: french horn
Andi Haberl: drums
Ben street: bass
1. Caipi
2. Kama
3. Casio Vanguard
4. Song for our sea*
5. Summer Song
6. Chromatic B
7. Hold on
8. Ezra
9. Little Dream
10. Casio Escher
11. Interscape
12. Little B *Japan Bonus

SONG X JAXX - KURT ROSENWINKEL - Caipi(Japan Edition)

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