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《Jazz The New Chapter 4 for web》カート・ローゼンウィンケル・インタビュー OutTake

Link ➡ 『Jazz The New Chapter 4』

2013年の11月にカート・ローゼンウィンケルがバッド・プラスと来日公演を行った時のことだ。カートとバッドプラスのインタビューの司会をして、帰ろうとしていたら、カートがギターショップにギターを観に行くから、一緒に来てもいいよってことになって、ついていった。なぜか移動は電車だったので、カートと電車に乗って、雑談しながら移動をした。その時に、「今、3枚のアルバムを作っている。そのうちの最初に出るのはブラジル音楽のアルバムだと思う。タイトルは『Caipi』だよ」って教えてくれて、「iPhoneの中にすでにかなり出来上がったデモが入っているんだ」と言って見せてくれた。でも、さすがに聴かせてはくれなかったけど。今思えば、『Caipi』は3年前にはほとんど完成していたことになる。

ちなみにギターショップでは2時間ギターを弾き続けて、ボサノヴァとかブルースとかスタンダードとか、いろんなものを弾いていたんだけど、徐々に変化して最終的にあのカートっぽい感じに時になっていく様はマジカルでさえあった。そして、立ち話では「僕の10代のころのギターヒーローはオジー・オズボーンのランディー・ローズとラッシュのアレックス・ライフソンだったんだよね」とか「10代のころからフュージョンの○○だけはノーサンキューだったな笑」とか、いろいろ話してくれた。実はカートは物静かだけど、けっこうフレンドリーな人でもある。

2016年の夏にカートが来日した。その時に、「もう新作ができていて、そろそろ出そうだ、ペドロ・マルチンスとアントニオ・ロウレイロっていうブラジルの新星が参加している」っていう話だった。「え、マジで!? だったらインタビューしたい」、と伝えたら、「目の前で自分と一緒に音源を聞いて、その場で話をするならいいよ」というなかなかにトリッキーな答えだった。そんな取材はしたことがない。でも、楽しそうだし、即答した。取材の場所でもあるSong Xの事務所に行くと、なぜかカートは上機嫌で、喫煙所にいるサラリーマンの集団を見て「おい、ナギラ、ジャパニーズ・ヤクザがいるよ!僕はヤクザ・ムービーが好きなんだ。」とか言っていた。インタビュー時もなんだかゴキゲンでよく喋ってくれた。

これはその時のインタビューの一部だ。ここに載せていない部分は、『Jazz The New Chapter 4』のブラジル音楽特集に掲載している。ここに載せたのは、予想以上によく喋ってくれたので、クラプトンの話とかが、誌面に収まり切れなかったからだ。カートのインタビューの後にはペドロ・マルチンスとアントニオ・ロウレイロのインタビューも掲載している。僕に初めて『Caipi』の話をしてくれてから3年の年月がかかった理由は誌面で読んでもらえたらうれしい。

取材:柳樂光隆 通訳:湯山恵子 編集協力:本間翔吾
協力:SONG X JAZZ

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――まずこれ、誰が参加してるの?。

「サックスにマーク・ターナー、ヴォイスにペドロ・マルティンスで、彼は1曲、「Hold On」でドラムも叩いてる。アントニオ・ロウレイロは「Casio Vanguard」で歌っていて歌詞も書いてる。あとは、エリック・クラプトンが「Little Dream」でギターを弾いてる。それからヴァイオリニスト、フレンチ・ホルンのプレイヤーがいて、「Kama」ではもう1人別の、ベルリン出身のドラマーが参加してる。それ以外は全ての楽器を自分で演奏したんだ」

――そもそもなんでブラジル音楽のアルバムを作ろうと?

「自分ではブラジル音楽のアルバムだとは思ってなくて、いろいろな影響があってブラジル音楽の影響はとても大きいんだけど、全部自分から出てきたものなんだ。ぼく自身のステートメントなんだ。ブラジルに行ったりミルトン・ナシメントが大好きだったりっていう影響はあるんだけど、そういった経験に他の経験も加わって、それらが1つのものになってぼくの音楽として出てくるんだ。だから、これはブラジル音楽じゃなくて、カート・ローゼンウィンケルの音楽なんだよ。」

――ちなみに今回、自分でたくさん演奏して、多重録音して作ってるよね?そういうアイディアでやろうと思ったのは?

「プロダクションとコンポジションの過程では普通のことだよ。」

――自分でたくさんの楽器を演奏するって普通じゃないけど・・・

「そうかもね。ピアノ、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、ヴォーカル、シンセサイザーをやっかたらね。」

――なんで、専門のミュージシャンじゃなくて、自分で全部やったの?

「ぼくはキャリアを通してギターを弾いてきたけど、家に帰って曲が思い浮かぶとレコーディングするんだけど、そういう時はレコーディングするべきものを全て自分で演奏するんだよ」

――エンジニアリングとかミキシングは誰?

「録音は自分でやった。ミックスはポール・ステイシー。ロンドンのポールのスタジオに行った。ペドロにはブラジルからロンドンに来てもらって3人でプロデュースしたよ。彼ら2人はコプロデューサーだ。」

――へー、ポール・ステイシーってオアシスとかやってる人だ、すげー。あと、ペドロとかアントニオとかって、ブラジルの若くて才能のあるミュージシャンだけど、まだ世界的に全く知られてないよね。日本ではちょっと注目を集めているんだけど。まだ無名と言っていい彼らを起用しているのはたぶんカートが初めてだと思う。

「彼らは有名になるよ。ぼくはラッキーだったね。ぼくがペドロをビッグスターにする。彼は新星なんだ。」

――ちなみにこのアルバムに何かコンセプトみたいなものはあるの?

「コンセプトなんてないよ。でも、音楽はあるよ。さっき言ったけど、『Caipi』はすごく自然な流れでできたものなんだ。何かを意図してやろうとしてできたものでもないし、意図しようともしていないんだ。大事なのはその音楽がぼくから出てきたっていうこと。いろんな素材がぼくの人生に入ってきて、それが音楽を生み出す。意味のある経験が自分の中に入ってきてミックスされるんだ。」

――カートって結構コンセプト考えて作り込むタイプかと思ってたけど、これに関してはなんとなく「出てきたもの」っていう感じなんですね。

「そう、自然発生的なものなんだ。頭で考えて作るんじゃなくてね。」

――なんかカートってギター弾く時とかも小節とかを自由に乗り越えていったりするじゃない?そういうのも自然に出てきたものを後付けしたりすることもあるの?

「そう、自然なものだ。音楽を聴いて何かを気に入った時にできるだけ理解しようとするんだけど、それは常に個人的な理解なんだ。他の人間にはなれないからね。だから自分自身のやり方で表現する。音楽を聴いている時にある瞬間から何かを学んだりして、たとえば、ジョン・コルトレーンのレコードを聴いてこのやり方がいいなと思ったり、それを頭の中に入れておいたとしても、自分でやる時は自分の指や楽器、心を使ってやらないといけない。だから、コルトレーンを聴いて同じようなことを表現しようとしても、結局は演奏する個々のフィルターを通したものになるんだよ。僕は何かルールを破ったりしようとしているわけじゃないんだよ笑。自分が持っているものの中からベストなやり方を探しただけなんだ。自分の中から出てくる音楽に従って行動する。それがぼくのやろうとしてることのすべてだよ。ある曲ができて、それが演奏するにはとても難しい曲だとしたら、この曲の演奏の仕方を学ばなきゃって思うんだ。自分でもどんな曲ができるかわからないからいつもチャレンジになるけどね。演奏できるようになるためにはそれしかないんだ。」

――ところで、エリック・クラプトンの参加はなんで?

「エリックとは確か2011年に会った。僕がNYのヴィレッジヴァンガードに出演した時に、彼が友達と一緒に来て、「マディソンスクエアガーデンのギターフェスティヴァルで「Crossroads」を演奏してくれないか」って言ってきたんだ。それで一緒に演奏して、友達になった。エリックは僕にいつも「何か音楽を送ってくれ」って言っててね。彼はずっと『Caipi』のことを気にかけていたんだよ。だから、ミキシングでロンドンのポールのスタジオに行った時に「エリック、ロンドンに2週間いるから遊びに来てよ。」って言ったら、すぐに来てくれてね。「せっかくだから弾いてくれよ、1音でいいから。」って言ってギターを渡してマイクをセットしたら、エリックが目の前で演奏を始めたんだ。その時、エリックはとてもハッピーだったみたいだよ。ちなみに彼はHeartcore Recordsも手伝ってくれているんだ。彼は僕らのサポーターのような存在だね。」

――今、Heartcoreって名前が出たけど、Qティップの新作のレコーディングにもたぶん参加してるよね?

「うん、そうだよ。」

――写真とかを見る限り、ロバート・グラスパー・エクスペリメントのマーク・コレンバーグやケイシー・ベンジャミンと一緒に、ぼくの友達のビッグユキも参加してるよね。

「彼は素晴らしいよね。大好きなんだ。一緒にレコーディング・セッションもやったよ。」

ーーQティップとのアルバムのことは話せる?

「あはは、ノーアイデアだって言っておこうかな」

――自分のレーベルに名前をつけるくらい『Heartcore』っていうアルバムは大事なアルバムで、Qティップとも一緒にやった経験とかはすごく大事なの?

「そうだね。Heartcoreっていうのはぼくにとっては音楽に対する姿勢であり、ジャンルに限らずぼくが愛している音楽でもある。だからHeartcoreっていうのはレーベルの名前としては完璧だった。ジャンルじゃなくてアティチュードを表しているからね。レーベルとしてやることは、ジャンル限らず世界中のアーティストと契約すること。それがHeartcoreだ。それがレーベルの説明だね。」

――最後に多重録音の『Caipi』をライブステージでどういうふうにやるの?

ペドロ・マルチンスアントニオ・ロウレイロとバンドを組む予定だよ。ビル・キャンベルがドラムで、ピアノはベルリン出身のオリヴィエ・トラマー。来週からベルリンでリハをやる予定なんだ。アルバムが出たらそのメンバーでツアーに出るよ。そのうち日本でもライブをやるつもりだ。」

――そういえばね、2013年の3月に『Star Of Jupitar』のバンドでアーロン・パークスとエリック・レヴィスとジャスティン・フォークナーとのカルテットで来日したじゃない?その時に僕は江利川と一緒に打ち上げに行って、そこでカートたちと飲んで、写真を撮ってそれをFacebookに上げたんだよね。そしたら、アントニオ・ロウレイロが「カートと友達なの?僕はカートの大ファンなんだ!」っ熱烈な長い書き込みがあってね(笑

「ははは、そうなんだ。僕らの関係ってすごく面白いんだ。ペドロと初めて会ったのはモントルーのコンテストなんだけど、そのずっと前に僕はペドロとサンパオロで会ったことがあったらしいんだ。全く覚えてないんだけど。17歳くらいの彼とぼくが一緒に写ってる写真があってね。驚いたよ。」

――そうなんだ。僕はアントニオがカートのファンだって聞いていたから『Caipi』にアントニオ・ロウレイロが入ってるって聞いたときは、「うわー、アントニオの夢が叶っちゃったかも!」って思って、興奮したよ。

「『Caipi』にまつわるストーリーはすべてがすごく運命的なんだ。そういういろんなことが結実してできた作品なんだ。」

➡ カート・ローゼンウィンケル『Caipi』Review

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