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interview Gretchen Parlato:極上のデュオで紡ぐ「まずは自分自身を見つめてみる」ための歌

前作『Flor』はなんと10年ぶりのスタジオアルバムだった。ついにグレッチェン・パーラトが動き出した!と思っていたら、間髪入れずに2作目『Lean in』が発表された。

グレッチェンは2010年代のジャズの隆盛を支えた最重要人物のひとりだ。彼女のリズムのアプローチの確かさやその表現の豊かさは「声」を必要としたジャズ・シーンに不可欠なものだった。だからこそ、グレッチェンの参加作を聴いていれば、現代ジャズの重要アーティストに出会うことができた。

そんなグレッチェンが自身の音楽を確立しようとしていた2000年代初頭に多大な影響を受けたのがベニン出身のギタリストでヴォーカリストのリオーネル・ルエケだった。セロニアス・モンク・インスティテュートで同窓だった二人は意気投合し、お互いに影響を与え合った。西アフリカを中心に世界中のリズムを探求し、それを独自の方法で表現していたリオネルの音楽はグレッチェンにとって大きな刺激になった。その後、グレッチェンは自身の音楽への最大の影響源として様々なインタビューでリオネルの話をしている。

グレッチェン「リオーネルは私のリズム感やタイム・キーピングの感覚を後押ししてくれるので、一緒に歌うのはいつだってワクワクします」

それはリオーネルも同じだった。リオーネルにとってもグレッチェンは大きなインスピレーションだった。

リオーネル「グレッチェンとはセロニアス・モンク・インスティテュートで一緒だったんだ。僕はグレッチェンと演奏することで、声に対してどう演奏が反応していくべきなのかを学ぶことができた。自分のプレイがあらゆる意味で、開発されたし、成長したとも思う。僕は当時、彼女とデュオをやっていたんだけど、彼女の歌には境界線がないんだ。直接的に「これをやってほしい」って言われたことがなくて、いつも互いに探りながら、ある意味で冒険をするように音楽を作ることができる。それに彼女からは歌に関する多くのことを学んだんだ。ヴォイスのコントロールや声と演奏を併せることをね。彼女のヴォイスはギターとうまくブレンドするんだよ。そして、ピッチが恐ろしく正確で、リズムも正確で力強い。しかも、リスクを負うことを恐れないんだ」

Jazz The NEw Chapter 4より

リオーネルの独創的かつハイレベルな歌とギターのコンビネーションはハービー・ハンコックを魅了し、彼の音楽に欠かせない存在になっただけでなく、現代ジャズギターにおける最重要人物かつ特異点として常にシーンを刺激している。

そんな二人は何度も何度も共演し、お互いの作品にも客演し続けてきた。グレッチェンの2005年のデビュー作『Gretchen Parlato』、2009年の2作目『In A Dream』にリオーネルが参加し、リオーネルの2006年の『Virgin Forest』、2012年の『Heritage』ではグレッチェンが歌っている。そんな二人が11年ぶりに一緒にレコーディングを行い、初めての連名で発表したのが『Lean In』ということにもなる。

ちなみにこの二人はずっと圧倒的なのだが、二人の共演音源を時系列で聴いていくと二人がいかに進化してきたかがわかるのが面白い。2005年の『Gretchen Parlato』や2006年の『Virgin Forest』ではお互いのキャラクターは強く出ているもののどこか手探り状態だったが、2009年の『In A Dream』や2012年の『Heritage』になるとぐっと完成度が上がっている。足し算に過ぎなかった初期から、アレンジは洗練され、調和を生み出す技術は明らかに高まっていた。そんな二人の久々の共演となった『Lean in』では余裕が聴こえてくるし、懐の深さも感じられるようになり、さらなる高みに達している。『Lean In』は現代ジャズの最重要人物二人のコラボレーションの最高到達点であるだけでなく、グレッチェンとリオーネルが歩んできた2010年代の偉大な歩みの成果を感じられる二人の集大成的な傑作でもあると思う。

ここでは『Lean In』についてグレッチェンに話を聞いている。彼女らしい優しい言葉でこの素晴らしいアルバムについて語ってくれている。

取材・編集:柳樂光隆 | 通訳:染谷和美
協力:COREPORT | Photo:Lauren Desberg

◎グレッチェンとリオーネルの永い交流

――リオーネル・ルエケとは昔から関係が深いんですよね。

彼とは知り合って20年。学生時代からの付き合いだし、お互いのプロジェクトにも参加し合ってきた。いつかデュオをやりたいって気持ちは二人の間にずっとあったんだけど、実際にやるとなると時間もかかるし、準備も必要。なかなか実現しないまま20年経ってしまっていました。でも、今、ようやく実現できるタイミングが来たってことだと思います。

――お二人はお互いに影響を与え合っていて、僕がお二人にそれぞれインタビューした際に二人とも僕から聞いたわけではないのにリオーネルとグレッチェンの話をしていたのが記憶に残っています。あなたが初めてリオネルの音楽を聴いたときのことは覚えていますか?

はい、すごく覚えています。あれはセロニアス・モンク・インスティテュートで募集が出ていたアンサンブルのオーディションの時でした。私たち二人が大勢の受験者の中の最後の二人。私がラストで、その直前がリオネル。私は彼のパフォーマンスが漏れてきた音を聞いていました。その前、はじめて彼の姿を見た時に西アフリカのベニン出身で、身長が高くて、あまりに美しいルックスをしていたのが印象的で、話をしたらものすごくジェントルで、優しくて。そんな彼の演奏は「あれ、これってギター?いや、ギターも鳴ってるし、もしかしたらパーカッショもやってるかも」って印象でした。さらに彼の歌声も聴こえていた。彼がどんなに優れているのかはみんな知っていたし、私も知っていたけど、生で聞いたのはその日のドア越しが初めて。本当にすごいし、スペシャルだなって思いました。そこで2人とも合格することができて、アンサンブルで共演するようになりました。

――リオーネルは「あなたからヴォイスのコントロールを学んだ。グレッチェンの声はギターと良くブレンドする」って話していました。逆にあなたがリオーネルから学んだことはありますか?

彼のギターはパーカッションみたいな響きがあるんです。彼のリズム感やタイム感は本当に深くて、彼が感じ取っているグルーヴの感覚もすごくユニーク。にもかかわらず彼の音楽には安定感もある。聴き手を招き入れるような演奏をするし、一方では聴き手に挑んでいくような・聴き手を迷わせるような演奏もする。彼の音楽には駆け引きのようなものが感じられる演奏が含まれているんですよね。だから、アーティストとして何度聴いても飽きることがないし、何度聴いても同じものはなくて、常に新しいものが聴こえてくる。例えば、それはリズム、フレージング、楽器から繰り出すテクスチャー。テクスチャーに関してはアコースティックな楽器に限らず、エフェクターを使ったり、ペダルを使ったりして、厚みのある豊かなテクスチャーを生み出します。その上に自分で歌まで歌ってしまうし、その声が本当に美しいし、声域もすごく広い。しかも、その歌にもパーカッシブな部分がある。それらすべての部分から私は影響を受けています。

学生時代、授業でリオーネルと一緒に歌っていると、彼の歌はオルタナティブなメロディとして、私が歌うメインのメロディに絡んでくるのを感じたんです。それにより音楽のパーカッシブな側面が浮かび上がってきます。彼の歌はヴォイスの使い方が楽器的なんです。そんな彼の歌から織り成されるファブリックの豊かさみたいなものからも私はとても感銘を受けました。

――2005年、17年前のあなたのデビュー作『Gretchen Parlato』の時点で二人は共演しています。このデビュー作はリオネルと共演することがかなり大きな比重を占めているアルバムなのかなと思ったんですが、どうですか?

あのデビュー作から17年も経ったなんてびっくり。彼のことは学生時代から知っていて、NYに移住したタイミングも同じ。だから私がNYでギグをやるとなると、「NYにいる数少ない知り合い」ってことで彼に頼んでいました。デュオでやることもあったし、バンドと一緒なこともあったけど、頻繁に共演していました。つまり、リオネルは私の最初期のコラボレーター。あれだけの人に気軽に声をかけることができた私は本当にラッキーでした。今にして思えば、キャリアの最初にそれが出来たことはスペシャルなこと。私はこの人と音楽を作れることは特別なんだって最初からずっと思っていたし、その感覚は今も変わっていないですね。

◎『Lean In』のコンセプト

――新作『Lean In』ではデビュー作でやっていた曲を再び録音したりもしているのが印象的です。このアルバムのコンセプトを聞かせてください。

最初に二人でこのプロジェクトのために素材となるべき曲を集めようと話した。自分たちがインスパイアされた曲、特にパンデミック中に私たちがアーティストとして考えていたことがあるので、そういうものを反映した曲を集めていこうということになって、結果的にオリジナル曲だけじゃなくて、ロック、R&B、トラディショナルなど、様々なタイプの曲が入ることになりました。

詞に関しては、タイトルの『Lean In』に象徴されるように「まずは自分たち自身のことを見つめてみよう(フォーカスしてみよう)」ってことがテーマになりました。自分たちの気持ち、感情、置かれている状況、そういったものを一旦は受け止めて、それらを大事にできるように自分自身で考えてみて、それらを理解しようと努めること。嫌なことがあったらそれを無視して追いやろうってことじゃなくて、すべてを一旦見つめて、受け入れること。それが自分をより良い自分にしていくことに繋がり、引いては他の人たちに手を差し伸べることにも繋がるんじゃないかと思ったから。このアルバムを通じて、聴いてくれた人に何らかのインスピレーションを与えることができて、自分の人生を大事に思う気持ちになってもらえたらとうれしい。ポジティブなものもネガティブなものも、喜びもあれば苦しみも、どんな感情も人生の一部だし、それがすべて繋がっているのが自分なんだってことを感じてもらえたらなと思っています。だから、このアルバムに収録した曲は二人にとってそういった意味を持った曲ってことになりますね。

――自分と向き合ったり、セルフケアをするって話は前作『Flor』と繋がっている気がしますね。

そうだと思います。常に自分に思い起こさせたいことだし、常に実践したいことでもあるから。つまりは前作から振り返ってみると、私はまだそれを学び終えていないってことなのかもしれない。だからこそ、このテーマはその重要性が失われていないんでしょうね。

――あなたの夫マーク・ジュリアナが彼のアルバム『the sound of listening』の時のインタビューで近い話をしていた気がします。同じ考えが家族でもシェアされているんですね。

そうですね。願わくば、自分のパートナーには同じ考え、同じ信念、同じものを大切に思う人であってほしい。その意味で私とマークは同じような考えや気持ちをシェアできる相手だと思います。何かあった時に一番最初に伝えたいのは近くにいる家族ですから。そこでわかり合えてから、その先にいる人たちにも届けられたらいいなって思うので、家族はスタートでもありますよね。

◎リオーネルの存在を前提にした作編曲

――さて、アルバムに収められた曲は西アフリカのリズムが入っていたり、リオーネルに合わせたようなアレンジになっています。今回のアレンジについて聞かせてもらえますか?

私の曲に関してはリオーネルがプレイすることを想定して書きました。このプロジェクトにフォーカスするって段階で、お互いが持っていた素材を共有したんですけど、私はLAで、リオーネルはルクセンブルグ。私たちはzoomですらなくて、メールのみでやり取りをしました。お互い素材はたくさん持っていたので、削ったり、形を整えたり、例えば、向こうから送られて来たものを私が選別したり、私から彼に送って意見をもらったり。私の方から送ったものはほぼデモの状態のもので、私の声だけで作られたものでした。パーカッションやリズムに関しては骨組みだけを提示するって感じでした。それに彼がギターをオーバーダブして送り返してきたんですけど、私にとってはパーフェクトなものばかりでした。なので、製作は一部を除いて、ほぼリモートでのやり取りでしたね。

――たとえば、「If I Knew」はあなたのオリジナルでは珍しいタイプの曲だと思いました。かなりリオーネル寄りで西アフリカの要素多めですよね。これはどんな感じで書いたんでしょう?

2019年にジャズギャラリーからフェローシップ関連のコミッションを受けて、オリジナル曲を書いてくれと頼まれて書いた曲です。だからこのプロジェクトよりもずっと前の曲なんですけど、実は最初の段階で私の頭の中にはリオネルが加わることが想定されていたんです。実際にジャズギャラリーでやった時はリオネルの参加が叶わなかったので、今回ようやく彼に入ってもらうことができて、やっと完成した曲とも言えます。ここではベルが入っているんですけど、それはマーク・ジュリアナが最初のバージョンから演奏してくれていたもの。彼が鳴らすベルがずっと流れていて、私はそれにインスパイアされるように、ヴァースやコーラスやリズムを乗せて仕上げていったんです。今回、そこにギターやハーモニーなどのリオネルの天才的な手腕が加わったことで完成しました。録音ではマーク・ジュリアナがドラムを叩いてくれて、友達のバーニス・トラヴィスがベースを弾いてくれて、更にうちの子供たちが英語で、リオネルの子供がフランス語で「イエス!」って叫んでくれているので、子供たちのエネルギーが感じられる仕上がりになりました。

◎17年ぶりに再録した「Nonvignon」

――次は「Nonvignon」です。この曲はグレッチェンのデビュー作にも入っているリオーネルの曲の17年ぶりの再演です。リオーネルも何度も録音している彼の代表曲のひとつですよね。

これは私にとって意味深い曲なんです。リオネルと知り合ってから、彼が最初に聴かせてくれた曲なんです。だから、この曲と私の関係は20年前にさかのぼる。セロニアス・モンク・インスティテュートを卒業して、NYに引っ越して、その後のプランを立てていた頃に時間があったから「だったらデュオでレコーディングしようよ」って感じで、友達のホームスタジオでカジュアルにレコーディングしたことがあった。その時、リオネルが「この曲は僕が書いたんだけど、どうかな?」って見せてくれた。私たちのコラボレーションはこの曲から始まったと言っても過言ではない曲でもあるから、すごく印象的な曲になっている。リオネルはこの曲を何度も演奏しているから、この曲は私がいなくても演奏できる。一方、私もこの曲を何度も歌っているんだけど、私にとってこの曲は歌うときは常にリオネルと一緒。だから私にとっては彼と一緒に歌う曲なんです。

今回「Nonvignon」を再び録音すべきかどうかを話し合ったときに「この曲が持っているメッセージは今、新しい意味を持っているんじゃないか」って話になったんです。この曲は「ブラザーズとして、シスターズとして、みんなで力を合わせていこうよ」って人々のつながりの美しさを歌っている曲。そのメッセージを今、改めて届けたいと思ったんです。

「Nonvignon」はパッと聴くとシンプルだと思う人もいるかもしれないですよね。コードも少ないし、みんなで歌えそうな感じですし。でも、あのタイムをキープしながら歌うのはすごく難しいんですよ。リズムに乗って歌っているつもりでも、気が付くとズレていたりするんです。リズムに騙されてしまうような曲なんです。だから、私はリオネルのリズムをキープしながら、それに置いていかれないように気を付けながら、同時にリオネルには自由に飛び回るように演奏してもらえるようにしつつ、私自身はしっかり地に足を付けていなきゃいけない。そうじゃないとこの曲を歌うことはできない。この曲は私にとってチャレンジングな曲なんですよ。

◎ベッカ・スティーヴンスの作曲ワークショップへの参加

――タイトル曲の「Lean In」はどんな経緯で出来たんでしょうか?

パンデミック中に友人のベッカ・スティーヴンスがオンラインでワークショップをやっていたんです。その頃、私は煮詰まっていて「誰かに背中を押してもらいたい」「何かインスピレーションが欲しい」と思っていました。だったら、ベッカのクラスをとってみるのはどうかなと思って、勢いで登録してみたんです。そのおかげで生まれた曲がいくつかあって、その中のメインのひとつがこの曲でした。具体的なガイドラインをもらったわけではないんですけど、信頼できる人と「曲を書く」プロセスを共有できたことによって生まれた曲といえると思います。なので、そのインスピレーションに関する謝辞はクレジットに込めています。

ちなみにこれもマーク・ジュリアナがインスピレーションをくれました。彼が叩いていたパーカッションのループを耳にして、そこに私が曲を乗せたのがこの曲です。マークのパーカッションから始まって、4つのセクションが展開していくんですけど、そこにリオーネルがハーモニーを乗せてくれて完成しました。インスピレーションを友達から貰うことができたり、友達が先生になってくれることもあるんです。それって素敵なことですよね?お互いが先生になったり、生徒になったりするような関係って、謙虚な気持ちになれる関係だと思いますから。

◎KlymaxxとFoo Fightersのカヴァーのこと

――次は「I Miss You」です。80年代に活動していたクライマックスというグループのヒット曲のカヴァーです。あなたはいつも他の人がカヴァーしないマニアックな曲を選びますよね。それがいつも最高なんですが。

これは84年の曲。当時、ラジオだったのかMTVだったのか覚えていないんですけど、この曲がかかった時に時間が止まってしまったかのように魅了されて、衝撃を受けたんです。まだ私は8歳だったけど、私は心から歌いたいと思った曲だったのを覚えています。本当に素敵な曲なんですよね。多くの人は私のことをジャズシンガーだと思っているかもしれないけど、私はいろんなことをやっているんです。だから、私のバッグにはこんなにいろんな曲が入っているってことを示せるいい例なんじゃないかと思ってます。そういう自分がバッグに入れて抱えている曲に関しては、いつか何かのタイミングやろうと常に機会をうかがっているんです。

カヴァーするにあたって、オリジナルをリオーネルに聴いてもらって、その後にアレンジしました。オリジナルバージョンはバラードなので、私のバージョンとは全然違っていますけど、キーは変えていません。まずベースラインでグルーヴを示すように書いて、そこにアカペラを乗せて、それをリオネルに送りました。それに対して、リオーネルが彼の演奏を乗せてくれて完成しました。カヴァーをやる上で私が目指しているのはオリジナルに対する敬意。「こんなにいい曲があるんだよ」ってことを伝えたいから。私がこの曲がいかに好きで、それを自分なりに解釈したいと思っていて、それを実際にやってみたらこういうストーリーになりましたってことを心を込めて伝えたいんです。それはオリジナルが優れているからこそ可能なことなんですよね。

――以前、オーブリー・ジョンソンにインタビューした際に彼女が「グレッチェンやベッカ・スティーヴンスが80-90年代の曲をカヴァーしているのを聴いて、自分もやってみたいと思ってその時代の曲をディグりました」って言ってたんですよね。あなたがやってきたカヴァーの選曲と独創的な編曲は後のシーンにかなり大きな影響を与えていると僕は思っています。

わぁ!それはすごい… 何が起こるかわからないものですね… 私が最初に『Lean In』について話したことの繰り返しになりますけど、私はまずは最初に自分がいいと思うことをやって、それが誰かのインスピレーションになったり、誰かの力になったらいいなっていつも思っているんです。つまり、オーブリーの件はそれが実際に起こっているってことですよね。私がやったことが誰かのインスピレーションになって、その人なりの表現が生まれたところまで繋がっている。それが実際に起きているのはすごくうれしいです。

――さて、次はフーファイターズのカヴァー「Walking After You」について聞かせてください。

これも90年代に好きだった曲。私はフーファイターズデイヴ・グロールも好きだったから。彼らは曲作りが素晴らしいので、聴くたびにほんとによく書けているなって思うんです。この曲は特に大好きだったので、いつかやってみたいなって思っていました。

自分なりに歌いやすいキーを見つけて歌ってみた音源を、オリジナルと一緒にリオネルに送りました。それを聴いたリオネルがこのアレンジを考えてくれました。さらに終盤でマーク・ジュリアナに入ってもらうアレンジを加えて、息子のマーリーにリフレインを歌ってもらって完成したのがあのバージョンです。オリジナルはデイヴが書いたラブソングで、当時の恋人に向けて書いた曲だから、デイヴ本人はもう歌いたくなかったり、あまり聴きたくない曲になっているのかもしれないですよね。でも、私が歌うことで普遍的なラヴソングとしてみんなに改めてシェアすることができたんじゃないかなって思っています。

――タイミング的にテイラー・ホーキンスへの追悼の意味もあるのかなと思いましたが、どうですか?

実はちょうどレコーディングが終わったタイミングでテイラーが亡くなってしまったんです。今回はテイラーへの追悼として作ったバージョンではなかったけど、実際にレコーディングが終わった時に「これをテイラーが聴いてくれたらどう思うんだろうね」ってことは頭をよぎっていた。オリジナルのバージョンにかなり近いグルーヴでカヴァーを作ることができたし、息子のマーリーが歌っている部分は「I‘m on Your Back」(あなたの後をついていく)って歌っているので、結果的にトリビュートになったと思います。たしかに聴く人によってはトリビュートを意図したものに聴こえる人もいるかもしれないですよね。そこは聴き手に委ねてもいいかもしれないなって思います。

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