前作『Flor』はなんと10年ぶりのスタジオアルバムだった。ついにグレッチェン・パーラトが動き出した!と思っていたら、間髪入れずに2作目『Lean in』が発表された。
グレッチェンは2010年代のジャズの隆盛を支えた最重要人物のひとりだ。彼女のリズムのアプローチの確かさやその表現の豊かさは「声」を必要としたジャズ・シーンに不可欠なものだった。だからこそ、グレッチェンの参加作を聴いていれば、現代ジャズの重要アーティストに出会うことができた。
そんなグレッチェンが自身の音楽を確立しようとしていた2000年代初頭に多大な影響を受けたのがベニン出身のギタリストでヴォーカリストのリオーネル・ルエケだった。セロニアス・モンク・インスティテュートで同窓だった二人は意気投合し、お互いに影響を与え合った。西アフリカを中心に世界中のリズムを探求し、それを独自の方法で表現していたリオネルの音楽はグレッチェンにとって大きな刺激になった。その後、グレッチェンは自身の音楽への最大の影響源として様々なインタビューでリオネルの話をしている。
それはリオーネルも同じだった。リオーネルにとってもグレッチェンは大きなインスピレーションだった。
リオーネルの独創的かつハイレベルな歌とギターのコンビネーションはハービー・ハンコックを魅了し、彼の音楽に欠かせない存在になっただけでなく、現代ジャズギターにおける最重要人物かつ特異点として常にシーンを刺激している。
そんな二人は何度も何度も共演し、お互いの作品にも客演し続けてきた。グレッチェンの2005年のデビュー作『Gretchen Parlato』、2009年の2作目『In A Dream』にリオーネルが参加し、リオーネルの2006年の『Virgin Forest』、2012年の『Heritage』ではグレッチェンが歌っている。そんな二人が11年ぶりに一緒にレコーディングを行い、初めての連名で発表したのが『Lean In』ということにもなる。
ちなみにこの二人はずっと圧倒的なのだが、二人の共演音源を時系列で聴いていくと二人がいかに進化してきたかがわかるのが面白い。2005年の『Gretchen Parlato』や2006年の『Virgin Forest』ではお互いのキャラクターは強く出ているもののどこか手探り状態だったが、2009年の『In A Dream』や2012年の『Heritage』になるとぐっと完成度が上がっている。足し算に過ぎなかった初期から、アレンジは洗練され、調和を生み出す技術は明らかに高まっていた。そんな二人の久々の共演となった『Lean in』では余裕が聴こえてくるし、懐の深さも感じられるようになり、さらなる高みに達している。『Lean In』は現代ジャズの最重要人物二人のコラボレーションの最高到達点であるだけでなく、グレッチェンとリオーネルが歩んできた2010年代の偉大な歩みの成果を感じられる二人の集大成的な傑作でもあると思う。
ここでは『Lean In』についてグレッチェンに話を聞いている。彼女らしい優しい言葉でこの素晴らしいアルバムについて語ってくれている。
取材・編集:柳樂光隆 | 通訳:染谷和美
協力:COREPORT | Photo:Lauren Desberg
◎グレッチェンとリオーネルの永い交流
――リオーネル・ルエケとは昔から関係が深いんですよね。
――お二人はお互いに影響を与え合っていて、僕がお二人にそれぞれインタビューした際に二人とも僕から聞いたわけではないのにリオーネルとグレッチェンの話をしていたのが記憶に残っています。あなたが初めてリオネルの音楽を聴いたときのことは覚えていますか?
――リオーネルは「あなたからヴォイスのコントロールを学んだ。グレッチェンの声はギターと良くブレンドする」って話していました。逆にあなたがリオーネルから学んだことはありますか?
――2005年、17年前のあなたのデビュー作『Gretchen Parlato』の時点で二人は共演しています。このデビュー作はリオネルと共演することがかなり大きな比重を占めているアルバムなのかなと思ったんですが、どうですか?
◎『Lean In』のコンセプト
――新作『Lean In』ではデビュー作でやっていた曲を再び録音したりもしているのが印象的です。このアルバムのコンセプトを聞かせてください。
――自分と向き合ったり、セルフケアをするって話は前作『Flor』と繋がっている気がしますね。
――あなたの夫マーク・ジュリアナが彼のアルバム『the sound of listening』の時のインタビューで近い話をしていた気がします。同じ考えが家族でもシェアされているんですね。
◎リオーネルの存在を前提にした作編曲
――さて、アルバムに収められた曲は西アフリカのリズムが入っていたり、リオーネルに合わせたようなアレンジになっています。今回のアレンジについて聞かせてもらえますか?
――たとえば、「If I Knew」はあなたのオリジナルでは珍しいタイプの曲だと思いました。かなりリオーネル寄りで西アフリカの要素多めですよね。これはどんな感じで書いたんでしょう?
◎17年ぶりに再録した「Nonvignon」
――次は「Nonvignon」です。この曲はグレッチェンのデビュー作にも入っているリオーネルの曲の17年ぶりの再演です。リオーネルも何度も録音している彼の代表曲のひとつですよね。
◎ベッカ・スティーヴンスの作曲ワークショップへの参加
――タイトル曲の「Lean In」はどんな経緯で出来たんでしょうか?
◎KlymaxxとFoo Fightersのカヴァーのこと
――次は「I Miss You」です。80年代に活動していたクライマックスというグループのヒット曲のカヴァーです。あなたはいつも他の人がカヴァーしないマニアックな曲を選びますよね。それがいつも最高なんですが。
――以前、オーブリー・ジョンソンにインタビューした際に彼女が「グレッチェンやベッカ・スティーヴンスが80-90年代の曲をカヴァーしているのを聴いて、自分もやってみたいと思ってその時代の曲をディグりました」って言ってたんですよね。あなたがやってきたカヴァーの選曲と独創的な編曲は後のシーンにかなり大きな影響を与えていると僕は思っています。
――さて、次はフーファイターズのカヴァー「Walking After You」について聞かせてください。
――タイミング的にテイラー・ホーキンスへの追悼の意味もあるのかなと思いましたが、どうですか?