《インタビューを受ける側のためのインタビュー講座》を始める理由:柳樂光隆
今、大学で音楽を学ぶみなさんは将来、ライブをするようになったり、作品をリリースするようになることがあるかもしれません。その時にプロモーションが必要になることがあると思います。
自分のInstagramやTikTok、TwitterなどのSNSアカウント、もしくは他の誰かのSNSでプロモーションをすることもあるでしょう。メディアが持っているWebサイトやメディアのYouTube、もしくは雑誌や新聞、ラジオを使うこともあるかもしれません。その際は誰かと対談をしたり、インタビューをしてもらったり、レビューを書いてもらったりすることになると思います。
それらの中でもミュージシャンのオーソドックスなプロモーションの手法のひとつに《インタビュー》があります。
ライター(や編集者)と対話をして、ライターの質問に答えたものをまとめてもらって、それを記事にしてもらうやり方です。よく考えたら、ライターや編集者が用意してきた質問に答えて、それを記事にしてもらうのはかなり特殊な状況です。初対面の人と1対1で向き合って、ひたすら質問攻めにされる状況に置かれることはミュージシャンをやっていてもなかなかないことだと思います。
しかも、ライターによっては専門的な質問を次々に投げてくる人もいるし、詩的な言葉での対話をする人もいる。人によっては機材や楽器のこと、音楽理論のことだけを聞く人もいるし、社会問題や思想・哲学などの話を聞く人もいるかもしれません。インタビューの方法やテーマやトピックの選択はライターによって様々です。ミュージシャンはそんな特殊な状況にいきなり置かれて、全てを自分で考えて対応することになります。インタビューがセッティングされたら、誰にも教わらずに、自分でシミュレーションをして、自分で話す内容を考えて、自分の言葉で話さなければなりません。
音楽ライターの僕は多いときには年間100本以上のインタビューをしてきました。今でも年間50本くらいはやっています。「数百本のインタビューをうけてきた大ベテラン」から「初めてインタビューを受ける新人」まで様々なミュージシャンに話を聞いてきました。
自分の経験が積み重なっていくにつれ、僕はインタビューを受ける側にもインタビューについての研修みたいなものがあってもいいと思うようになりました。
デビューしたころは思うように話せなかったミュージシャンがキャリアを重ねていって、何度も取材を受け、何度も対話をするようになっていくと、徐々に話が上手くなっていき、それにつれて記事のクオリティも上がっていきます。記事のクオリティが上がって、その記事が広く、もしくは深く読まれるようになると、その記事がプロモーションに良い作用をもたらすようになります。
インタビューの数をこなす中でミュージシャンは対話をすることに慣れ、対話のための技術を身に着けていきます。でも、僕は慣れることや上手くなることだけが理由だとは思っていません。むしろ、なぜインタビューをするのかという根本的な「目的」への意識、そして、インタビューという方法の「仕組み」を理解することのほうが重要だと僕は考えます。目的をもって、その仕組みに沿って話をすることで、自分が語りたいこと、伝えたいこと、もしくは語りたくないこと、伝えたくないことを的確に選ぶことができることこそが最も大きなことだと思います。
この講座では
・そもそもなぜインタビューをやるのか
・インタビューとはどういうものなのか
というところから始め、その後、
・インタビューのやり方=インタビューの受け方
について解説します。
僕2010年ごろからライターの仕事を始めて、これまでにおそらく1000本を超えるインタビューを行ってきました。ロバート・グラスパーやサンダーキャット、エスペランサ・スポルディングからジョン・バティステ、パット・メセニーやロイ・ハーグローヴ、上原ひろみや石若駿といった国内外のジャズ・ミュージシャンが中心ですが、フライング・ロータスやジェイコブ・コリアー、くるりやceroなどジャズ以外のアーティストへの取材も行ってきました。音楽専門のライターの中でも質量ともにこれだけの仕事をしている人はかなり少ないと思います。この講座では、僕がそこから得た経験をみなさんにシェアしたいと思っています。
将来、みなさんがメディアやインタビューを上手く使うことで、自分がやりたいことの実現に近づくためのヒントを提供できたら幸いです。
そして、いつか僕がどこかの媒体から依頼を受けて、あなたのインタビューを担当する日が来ることを願っています。
柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
※ヘッダー画像:with Roy Hargrove
※柳樂光隆が過去に行ったインタビュー
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