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Interview Jeanette Wong (SFJAZZ):ジャズの博物館ではなく日常に取り入れられる音楽の提供のために(7,500字)

サンフランシスコにはSFジャズという団体がいて、彼らが運営するSF ジャズ・センターは西海岸ジャズの拠点になっている。

彼らはSFジャズ・コレクティヴというグループを運営していて、その活動はアメリカのジャズシーンにおいて重要な意味を持っている。SFジャズ・コレクティヴが特別なグループであることは以下の別記事で解説しているので是非読んでほしい。。

ここではそのSFジャズ・コレクティブを運営しているSFジャズについて深堀するために、Associate Director、Artistic ProgrammingとしてSFジャズの運営に携わるジャネット・ウォンさんに話を聞くことができた。

SFジャズの概要から、コンセプト、その活動の目的、更にはジャズ観などをスタッフから直接聞くことができた機会だった。なぜあんな豪華メンバーを集めて、なぜあんなアルバムを制作しているのか、これらはどんな目的に繋がっているのか。それらを日本語で伝えることができる貴重な記事になったと思う。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:染谷和美 | 編集:山室木園
協力:Blue Note Tokyo , SF Jazz


◉SFジャズとは

――まずは基本的なところからうかがいます。そもそもSFジャズ、SFジャズ・センターってどういう団体、場所なのでしょうか。

 SFジャズは40年前に始まりました。もともとは「ジャズ・イン・ザ・シティ・フェスティバル」を起源としていて、当時は会場をあちこち移動しながら、創設者ランダルが毎回テーマを決めて、それにあったアーティストを集めて行っていたものなのですが、これが大きな成功を収めて「サンフランシスコ・ジャズ・フェスティバル」へと発展していきます。それはフェスにとどまらず、春や夏に2〜3ヶ月くらいの期間でユニフェスが同時に行われるようになり、それが徐々に年間を通し行われるプログラムとなり、2013年にSFジャズ・センターを構えます。オペラやバレエの施設やシアターが点在する、とても芸術的に恵まれた立地に位置していて、そこで大小の会場を巻き込みながら活動を進めています。いまは年間で400本以上のショーをやっていますね。そのなかで、SFジャズ・コレクティヴは代表的なバンドとして存在しています。常設ホールだけでなく、外部のホールとの連携、また教育活動にも力を入れて、学校や放課後の活動などパートナーシップを結んでいる機関でエデュケーション・プログラムを展開しています。そこでは演奏の実践だけでなく、デジタル・コンテンツの作成や配信などもやっています。メインホールは700名を収容するオーディトリアムで、こちらはレイアウトが変動するので、複数のステージを設けたり、ダンスフロアにしたりしています。また「ジョー・ヘンダーソン・ホール」という100名収容する小規模な会場でも活動しています。

◉SFジャズ・コレクティヴとは

――そこでSFジャズ・コレクティヴはどういう役割を担った存在ですか?

SFジャズ・コレクティヴは今シーズンで20周年を迎えます。その記念プログラムを今度の日本公演に持っていきます。基本的にレジデント・アンサンブルとして存在していて、全米から厳選したオールスター級のメンバーが参加しています。個々の演奏が優れているのはもちろんですが、一緒に演奏した時のコレクティヴとしての一体感が優れていることも重視しています。S Fジャズは、コンポーザー・ワークショップから派生していますので、作曲力にも重点を置いています。ミュージシャンごとにコミッションとして作品を作ってもらい、それを1カ月かけてワークショップを行い、新曲発表していきます。またアレンジもコレクティヴでやっているのですが、これまでだと年間でモダンジャズの巨匠を一人テーマとして取り上げ、トリビュートとしてみんなで取り組みます。

今期は20周年を記念して、コレクティヴの歴史を振り返ろうという試みで、みんなで持ち寄ったアイデアを一つの大きな作品にする、シェアするということに取り組んでいます。

――S Fジャズにはミュージカル・ディレクターはいるが、いわゆるリーダーはいないと読んだことがあります。それについてはどうですか?

そう、独特ですよね(笑)。現在はクリス・ポッターがミュージカル・ディレクターを務めていますが、このバンドは「コレクティヴ」というとおり極めて民主的な集団なんです。もちろん人が集まれば、意見が分かれることもあるし、必ずしもみんながみんな同じ方向性であることはありません。基本的に曲を提出した人が仕切るというやり方にしていますが、それに対して意見が出れば、それを受け入れるもよし、それを使って何か作るもよしと、その状況を眺めて、うまくオーガナイズされているかをクリスが見守っているという感じです。マネージメントとのやりとりをクリスが担当してくれているので、スケジューリングやアルバムの制作など、アルバムは私も彼と一緒にプロデュースしたことがありますが、クリスが入ってくれています。とにかくみんな一緒にやることを楽しみにしているので、議論はあっても言い争いになることはありませんね。

――リーダーなしで成立するのは、すべてのメンバーがそれぞれのバンドではリーダーだってことも関係あるかもしれませんね。偉大なメンバーしかいないということも大きいですよね。この人選についてもお聞きしていいですか。

参加が決まった段階で、サンフランシスコでのレジデンシー期間の日程を確保してもらいます。海外のツアーもあり、国内も最低2回はツアーするというのを契約に盛り込んでいます。ただ過去20年の歴史の中には途中で別プロジェクトに移らねばならなくなるミュージシャンもいて、その時々で対応は違いますが、適任と思われるリストをあげて、マネージメントにあたり、契約に至ります。

条件としては、それぞれのバンドにおいて優れたリーダーであり、優れた実力の持ち主でありながら、SFジャズ・コレクティヴは曲作りに重点があるので作曲能力も大きなポイントになります。ジャズ・ミュージシャンだったら即興演奏ができればいいという考えもあるかもしれませんが、それだけでなく曲が書けることも大きな条件です。

◉SFジャズとカリビアンの音楽

――あと、SFジャズ・コレクティヴにはカリビアン・ルーツのミュージシャンや南米出身のミュージシャンが在籍しているのが特徴的だと思います。これはコンセプトに含まれていますか?

それもS Fジャズの哲学に組み込まれていますね。ジャズに影響を与えた音楽、影響源を含めてすべてジャズだと考えているので、「アフリカンから生まれた音楽がカリブの国々を通ってアメリカで発展したジャズの歴史」をリスペクトする意味において、カリブの人々を巻き込むのは重要だという考えを持っていますから。

――カリビアンの貢献を重視することは歴史や教育上は重要なことかと思います。S Fジャズ・コレクティヴの音楽にもその要素を取り入れるというコンセプトは当初からあったのですか。

影響はとても大きいと思います。これまでに(ブラジルの)アントニオ・カルロス・ジョビンを取り上げたことがあります。

そのほかにも、たとえば(プエルトリコ出身の)ダビッド・サンチェスが音楽にパーカッションを持ち込むことによって、元の曲にはなかった要素が入り込み、彼の歴史が入ってきます。

また、コレクティヴで毎晩ストレート・アヘッドなジャズだけを演奏するとなると、オーディエンスが限られるということもあり、幅広く聴いてもらうという意味でも広く影響源を取り入れた音楽を展開するという意味もありますね。

――そもそもL Aはスペイン語圏の人が多く住む地域かと思います。S Fジャズ・センターの立地も関係しているのでしょうか。

その通りです。この地域には素晴らしいミュージシャンが存在して、著名なカリビアン・ミュージシャンも多く活動しています。SFジャズがこのエリアにあることはとても意義あることだと思います。パーカッション奏者のジョン・サントスは創設者ランドルの友人だったこともあり、彼がこの地域に住んでいたので、いろんな人を紹介してくれたり、コネクションを作ってくれたりすることは当初からあり、それはSFジャズにとってとても大きいことだったと思います。なので、アフリカ、カリブにルーツがある人との繋がりは当初からあったと思います。

◉作曲の重視と新曲の制作

――先ほどから離されているようにS Fジャズは「作曲」を重視しているのが大きな特徴です。ワークショップとの関連も話されていましたが、S Fジャズ・コレクティヴにとっての作曲の重要性をもう少し詳しく聞かせてもらえますか?

これはとても時間のかかるプロセスなんです。私たちは質の高い音楽を作りたいと思っているので。まず年の初めにテーマが決まります。そのテーマをみんなに振って曲を書いてもらうんですが、曲とは言わず「ムーブメント」(※交響曲やソナタ、組曲など、多楽章形式の作品を構成する、独立した部分)的なものを作ってもらうこともあります。みんながサンフランシスコに来るひと月前には曲として完成していなくてもいいので、ある程度の状態には仕上げてから持ってきてもらいます。

2〜3週間のリハーサルを行って、試聴的な感じでライヴをやります。リハは朝10時から夕方5時くらいまでみんなで同室に集まり、ああだこうだとやるので、見ていてとても面白いですよ。誰かがアイデアを持ってきたら、それに対してこうやったらどうだろうと、みんなで提案をしています。その過程をバンド全員でやっていくので、いつも非常に興味深いです。

そういえば昨シーズン、ケンドリック・スコットは期間中に曲を完成させたんですが、規定時間外にもスタジオに戻ってきて作業していましたね。そんな形で一人ひとりがそれぞれに曲を完成させていきます。

――メンバーはみんな何枚もリーダー・アルバムも出していて、オリジナル曲も人気曲もたくさんある。それをアレンジするのであれば、すぐにできるのに、なぜあんなに忙しい人たちを1か所に集めて、時間を割いてゼロから曲を作らせるのでしょうか?

SFジャズとしては、新しいものを作って、それをプロモートしていくことに力を入れたいんです。そのために参加した人はかならず未発表の作品を提出するということを契約に盛り込んであります。それをみんなで作り上げることになるので、おっしゃる通り、正直なところ時間も予算もかかります。でも、2〜3週間リハーサルをすること自体がミュージシャンにとっても贅沢なことなんです。ある意味、我々はその環境を彼らに提供してあげられるということでもあるんです。

これでも現代のテクノロジーのおかげで昔よりは随分楽になっているんですよ。みんなで曲を作るにあたって、毎回アーカイヴを振り返っているんですが、昔は譜面でやりとりしていたようですし。もちろん今でも写譜してもらって、最終的にはすべて楽譜にしていますけどね。多くのミュージシャンがi-Padを持ち歩いている時代ですから、その当時に比べて楽になっていることはたくさんあるんですよ。ちなみにバンドの作業としては、アイデアのある人がそれをどんどんクラウドにアップロードしていき、それぞれのメンバーはそのアイデアをもとにまた新しいアイデアをアップロードしていきます。私たちは現代ならではのやり方も取り入れています。

――SFジャズ・コレクティヴのみんなに曲を作ってもらうことは、S Fジャズ・センターの音楽教育の部分と関連しているのでしょうか。

そこに注目いただいてとても嬉しいです。メンバーがレジデンスでサンフランシスコにいる間、”SFジャズ・ファミリー”と呼んでいる生徒たちや先生など、我々に関わっている人たちと交流を持ってもらうことになっています。たとえば、リハで来ている間にファミリーたちと共演する機会を与えたり、私たちがアフタースクールで教えている人たちを呼んで、メンバーと共演してもらったり。リスニング・パーティではみんなで感想を言い合ったり、メンバーと音楽の影響について語ろうとかテーマを設けてやることもあります。バンド・メンバーには私たちのアンバサダー(大使・使節)としていろんなことをやってもらっているんです。そういった様々な活動を通して、どんどん仲良くなっていく様子を見るのも楽しいですね。

――子供たちへの教育についても聞かせてください。

まず、教える子供たちの年齢に合わせて内容を決めています。例えば、同じ曲を扱う場合でも、その譜面で(難易度を)加減をするようにしています。5〜15歳まではそれなりに簡単な譜面を与えます。

私たちはベイエリアのハイスクールの学生たちを対象にオーディションを開催して、ハイスクール・オールスター・バンドを組んでいるのですが、彼らを対象にするときはもう少し譜面のレベルを上げます。

サンフランシスコにもコンセルヴァトワール(音楽院)があり、そことパートナーシップを組んでいます。教授を含めてジャズやアメリカン・ミュージック・プログラムを教えている人を対象に、バンドのリハをオープンにして見学できるようにするなど、教育者にもいろんな機会を与えるようにしています。教師向けのプログラムもやっていて、そこで学んだものをそれぞれのクラスに持ち帰って生徒にシェアしてもらうようにしています。

◉巨匠のトリビュートを行うこと

――地域との連携もすごいですね!ところで僕はもう何年もS Fジャズの年一でリリースされるアルバムを聞いていますが、そこでは一人の巨匠を取り上げています。選ばれるラインナップはどんな狙いで、どんなプロセスで選ばれるのですか?

バンドのメンバーが話し合って選んでいます。自分たちに影響を与えてくれた人たちというところで、モダンなコンポーザーから選び出して行くのですが、その時々でテーマが決まっていたりもします。

大きなテーマとしては「ジャズはつねに進化している」ということ。私たちはジャズを前へ前へと進めていこうという考えをもっています。パンデミック中は少し趣旨が違ったものもありますけどね。いくら名のあるミュージシャンでも、私たちが取り上げたアーティストをみんなが同じように深く知っているわけではないので、コンポーザー・ワークショップでは、そこを均(なら)していきます。みんながテーマにしているアーティストに親しんでいくプロセスとして役立っていると思います。

パンデミック後は、マービン・ゲイ「What’s Going On」のアニバーサリ・イヤーでもあったので、この曲を取り上げました。

去年のテーマは“ニュースタンダードとは何か?”だったので、それに基づいて選んでいます。「今の時代に響くか」「曲にその可能性があるか」を意識しています。現在はダイバーシティも意識して取り上げていますね。

――「ジャズが今も進化し続けている」を伝えるプログラムであることは僕も同意します。たとえばカバー曲を選ぶとき、教育機関がセレクトするときは、歴史を時代順に追ってやっていったり、クラシックな超名曲を選ぶ印象がありますが、S F ジャズが選んでいるのは、今のミュージシャンとの繋がりが強い曲を選んでいる気がします。いろんな部分で他の教育機関とは違うと思っているのですが、いかがでしょうか。

先日、エデュケーショナル・チームと10月からのカリキュラムの打ち合わせをしたんです、そこで興味深かったのは、今回は誰をトリビュートするかという議題で、担当者が強調していたのは「子供たち、若い世代にとっては、古かろうが新しかろうが、彼らにとっては初めて聴くもので、どちらも同じなんだ」ということでした。

私たちもミュージアム(博物館)のような形にはしたくなく、若い人たちが日常に取り入れられる音楽を提供したいんですよ。現在だったらヒップホップポエトリーとのコネクション、あるいはラテンの影響なども見せていきたいですよね。そういうものが加わって成長して広がっていくことを示したいと思っています。そして、「それら全てひっくるめて”ジャズ”」ということを伝えたいんです。

――最近はヴォーカリストを入れることも増えているのは、そういった考えにも関係していますか?

そうですね。ここ2年間、ヴォーカルの入ったものをやっています。もちろんインストも続けていますが、バンド・メンバーがシンガーのためにアレンジを考えるのが面白いですね。これまでシンガーがいなかったところに、今回はグレッチェン・パーラトマーティン・ルーサー・マッコイを初めて迎えました。お互いを知ることによって、新たな作品を作り上げる光景は見ていて面白いですよ。

――なるほど。少し話題が変わりますが、S F ジャズ・コレクティヴは7〜8人編成でやっていることが多いです。通常こういった教育機関が運営するフォーマットで言うと、リンカーン・センターがそうですが、ビッグバンドでやることが少なくない印象があります。この編成はどうして?

ビッグバンドだと人が多すぎますよ(笑)。コレクティヴは最も多い時で9人ですね。9人でも多いって思っています(笑)。コレクティヴの規模だとフルアンサンブルのサウンドも提供することが可能で、かつワークショップでの活動でも小回りが効くんです。9人くらいが一緒にやりやすいちょうどいい規模なんです。それにお互いの顔も見られて、競争も生まれ、チャレンジもあります。それなりの時間がかかるプロセスだとこのくらいの人数がいいと思いますね。

◉寄付で運営される非営利団体

――S Fジャズ・センターの運営はかなりの部分を寄付で運営されていると思いますが、それについても聞かせてください。

基本的にノンプロフィット(非営利)の組織なので、かなりドネーション(寄付)に頼っているところがあって、そこはメンバーシップという形をとっています。メンバーにはディスカウントやさまざまな活動への参加権などの特典を設けています。また寄付だけでなく、チケットセールスの収入、いろんな組織からの援助、政府からの支援もあります。全体的には70%がチケットセールス、30%がなんらかの支援ですね。かなり多額の寄付をしてくださる方もいるので、コレクティヴの活動にいくら、教育にいくらと預金しておいて、そこから利子が上がってくるので、わずかではありますが、それぞれの活動に還元しています。そうやってワークショップの運営も可能になっています。

――では最後の質問です。ジャネットさんはご自身も作曲家であり、教育者でもあります。そんなあなたにとってここで仕事はどんな体験になっていますか?

ここで仕事ができるのは本当に幸せだと思っています。ここでの仕事がコンポーザーたち、ミュージシャンたちの支援になりますし、それが子供たちの教育にも繋がっていることにやりがいを感じています。ここで日々メールを捌きながらも、すぐに彼らのリハーサルを覗きに行けるのも、私の音楽活動にプラスになっています。過去、他の機関で仕事をしたこともありますが、ここまでサポートにこだわっている団体を知りません。このオーガナイゼーション、仕組みを伝えていけることがいちばんのやりがいだと思います。

(2023 8.10 ZOOMにて)

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