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interview Lex Blondin:Total Refreshment Centre/Church of Sound ”機動性のある自由、コミュニティのためのスペース”

「2010年代後半からロンドンでジャズが盛り上がっている」という話をする際にいくつかのポイントがあるのだが、その中のひとつにロンドンには様々な人が集まることができる拠点が存在していたことがある。あくまでも音楽が中心にあり、音楽をリスペクトする人が集まる中にはミュージシャンに限らず様々な人がいて、みんなが協力し、アイデアを共有しながら、自由でクリエイティブな活動ができるような「場」があった。

と書くとクラブやライブハウスを想像してしまいそうになるが、ロンドンにあった場はそうではない。ライブハウスであり、クラブであり、そのうえ、レコーディングスタジオでもあり、ワーキングスペースでもある何とも表現しがたい場所。それがトータル・リフレッシュメント・センター(以下、TRC)だった。

※TRCの入り口

ここにはロンドンだけでなく、様々な場所から様々な人が集まり、交流をし、製作をしている。僕も2019年に実際に訪れたのだが、のんびりとしたスペースだが、とても自由で居心地のいい場所であることは分かった。例えば、ここでマカヤ・マクレイヴン『Where We Come From(Chicago × London Mixtape)』が生まれている。勢いのあるロンドンとシカゴのミュージシャンがここで結びつき、新たな流れが生まれた。

その重要性に目を付けた名門ブルーノートがTRCの名を関したアルバム『Transmissions From Total Refreshment Centre』をリリースするまでになったほど。

このTRCの創始者のレックス・ブロンデルはロンドンにおいてもうひとつの重要なプロジェクトに関わっている。それがライブ・シリーズの“チャーチ・オブ・サウンド”(以下、COS)。ロンドンの教会でジャズのライブを行うこの企画は“Jazz Re:freshed”“steez”と並び、ロンドンのジャズシーンに貢献した企画のひとつだ。

ジャズ・ミュージシャンたちに演奏の場を与えるだけでなく、DJを入れたり、ソングブック・シリーズという独自のプログラムを組んだり、会場を特殊な配置で設営したりと様々なやり方で趣向を凝らし、ジャズのライブを特別な体験にすることに成功している。

つまり、レックスはロンドンのジャズシーンに貢献する全く別のふたつの「場」を準備した重要人物となるわけだ。

今回は実際にTRCにも足を運んだことのある柳樂が聞き役となり、レックスにトータル・リフレッシュメント・センターとチャーチ・オブ・サウンドについて解説してもらった。そこで何が起こっているかというよりは、どんなコンセプトや哲学で運営しているのかをじっくり聞いている。結果的にここ数年、ロンドンで起きていることの背景にあるものが浮かび上がってくるような記事になっている。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:染谷和美
協力:N.A.S.A. Creative


◉Total Refreshment Centreとは?

――まず最初に、TRC(トータル・リフレッシュメント・センター)という名前の由来を伺えますか?

オーケー。実は、トータル~という同じ名前のお菓子のメーカーがあるんだ。このプロジェクトをやろうと思い立った時に、ガールフレンドと道を歩いていたら、ふとキャンディ・ディスペンサーが目に留まったんだ。その中にあるミント・キャンディに書かれていた「トータル~」という名前をいただいたんだ(笑)

――(たまたま目についただけとは言え)このトータル~という名前は、今レックスさんがやろうとしてることを象徴してますよね。

そうかも知れない。Centreっていうのは要するにコミュニティだよね。人が集まって、何かをやるための「場」だと思う。Refreshmentは、何か新しいこと・新鮮なことをやりたいという気持ちだよね。そしてTotalはとにかく全力で、っていう意味だから、Total Refreshment Centreという名前は凄くぴったりだし、だからこそ皆に覚えて貰えるんだと思う。

※サン・ラがお出迎えしてくれます

――TRCのようなスペース、コミュニティが出来たのは、偶然の成り行きなのか、それとも以前から考えていたからでしょうか?

ああ、自分が好きなプロデューサーやアーティスト達と、何かを作れる場を設けたいとずっと思っていたんだ。元々、さっき言ったような意味でのセンターをずっと作りたくてね。最初は、ウィリアムと一緒に、今の場所からすぐ近い所でスタジオを始めたんだ。これは当時、自分で紙にも書いたから覚えてるんだけど……同じようなことを考えてる人たちが出会う場所、そして自分たちやそれぞれのプロジェクトについて話し合える場所、そこから何かが生まれ、更にそれをプロフェッショナルなレベルまで高められるような場所を作りたい、と考えていたんだ。

例えば、そういうミュージシャンが出入りする場所で、エンジニア出来るけどまだ仕事をやったことがないという人が、コーヒーなんか淹れて、ミュージシャンと話し込んでいる内に「じゃあ一緒にやろうよ」という流れになって、そこに更に「自分はアートワークがやりたい」という人が交わって……という、そんな「輪」が広がればいいな、と思ってね。お互いが助け合えて、何かが生まれる場を作りたい、という気持ちは最初からあったね。

※いろんなところに絵が描いてあったり、写真が飾られてたり、あらゆるところにアートが。

前提として、まず自分が楽しくてやっていたから、当初はビジネスとして取り組んでいるつもりもなかったんだ。ただ、2012年にスタジオが出来て、2013年にはコンサート事業の話も出てきて、あっという間にそっちの方に(ビジネスとして真剣にやっていく)移行していったんだ。

場所を作って最初に声をかけたのが、僕が好んでディグしていたミュージシャンのサッカー96コメット・イズ・カミングキャピトル・K。「あなた達を凄くリスペクトしているんだ」ということを伝えて、一つ屋根の下で制作もライブもやって貰うようにしたんだ。そしたら、それが余りにも楽しそうだったからだろうね(笑)口コミで広がって、一緒にやりたい、という人がどんどん増えていったんだ。TRCも11年間やってるけど、最初からやっている事はそのころから特に変わってないと思うよ。

※キャピトルKはTRCのレコーディングスタジオのエンジニアでもある

――僕も実際にTRCに訪れたんですけど、結構広いし、部屋も多くて、かなり規模は大きいですよね。あれだけのスペース、ひいてはプロジェクトを回すだけの人脈なりコネクションは最初からあったのでしょうか?また、今のこのTRCの発展は計画していたものなのでしょうか?

基本的には自然な成り行きだったと思うよ。一人、知り合いが出来ると、そこから芋づる式にだから。2012年にスタートした段階で、自分はいろんな音楽が好きだったけど、一番夢中だったのはポストパンクのような、80年代初頭の音楽だったんだ。趣味が近いプロデューサーのキャピトルKと出会って、彼のローファイだったりダビーだったり、一辺倒ではないスタイルに刺激されて、僕も音楽的な視野が広がっていったんだ。

ライブ・ベニューとしてTRCをやっていく中で、サッカー96がライブをやりに来て、それをたまたまシャバカ・ハッチングが観に来て、ライブが終わったしばらく後も残って……そこから(そういった交流から?)だんだん、ジャズ・シーンのようなものが生まれてきたんだと思う。例えば2015年にはブレイン・チャイルド・フェスのオーガナイザーのマリナ・ブレイクが「一緒にフェスをやらない?」という話を持ち込んできたり、場所を続けていく過程で、自分たちの世界が、皆の手によって拡げられていったんだよね。

そのフェスでジョー・アーモン・ジョーンズヌバイア・ガルシアテオン・クロスといったUKの若手のジャズミュージシャンたちが演奏していて、彼らはその後どんどん知名度を上げていって、有名なヴェニューでも演奏するようになっていった。そして、僕もジャズとヒップホップを分け隔てなく演奏するような世代のミュージシャンたちのシーンが見えてきて、そこはすごくエキサイティングだって知った。そういう動きが勝手に広がっていくと、僕のマインドもどんどん広がっていく。やはりこういうプラットフォームを持っている人間としては、一度知り合った人とはその後も連絡を取り合って、常に次の機会を作るようにしようと考える。

今のTRCの状況だけをいきなり見ると「シャバカみたいな大物をどうやって掴まえたんだ?」と思うかも知れないけど、昔はシャバカだって何者でもなくて、僕らのやってることに興味を持ってくれて、一緒に場を作ってくれた仲間の一人だったんだよ。

そもそも若くて面白いプロデューサーやミュージシャンに場を与えよう、ということ自体がなかなか無いことなんだ。だから、場を作って、面白そうな人が来ればどんどん受け入れて、その場を盛り上げていれば自然と一人また一人と新しい人がやって来る。TRCはまさに、そんな流れだったと思うよ。

◉自由でクリエイティブなスペースの運営方法

――なるほど。TRCは特殊な場所だと思うんですが、レックスさんにとってTRCのモデルになった場所、インスピレーションを与えてくれた場所は他にありますか?

うーん、当時は無かったかな。(コマーシャルな施設よりも)自分としてはスクワット(不法占拠)だね。あとは、コロラマ(Colorama)という場所があって、そこには友達と出入りしてたよ。ロンドン中心地の、古い印刷工場だった建物を作り変えた場所なんだけど、そこにジャクソンって奴がいてね。そいつはトンプソン・ツインズのメンバーの息子で、いろんな機材を持っていたんだよ。レゲエのサウンドシステムが山積みになっててね(笑

(スクワットに関しては)元映画館だった場所では映画が観れたり、あるいはバーだった場所は当時の雰囲気がそのまま残っていたり……そんなような建物の中で、皆が好きなようにやっている、そういう場所が自分にとっては刺激になったなあ。やってることは展覧会であったり、コンサートであったり、人それぞれだけど、皆プロダクティブだった。そういった場所がハックニーやニューキャッスルにあった。スクワット・カルチャーが自分にとっては刺激的だった。集まってドラッグをやるとか悪さをするというよりは、皆で協力して何かをやっていこうという気運のある、そういう場所だったね。何かを目指してというよりは、(スクワットのような)オーガニックに物ごとが生まれていく、そういう場所がインスピレーションになったよ。

――自然に人が集まって、好きなことをやっていける、そういった自由で安全な場所を確保するための、デザインというか思想みたいなものが必要だと思うんですけど、そういうことをするために、TRCの管理者としてあなたはどんなことをやってきたんでしょうか?

安全に、という意味はどういう意味だろう?僕らが追い出されたりしないために、という事かな?(笑)

――いや、TRCも自由だけどある種の秩序はあるというか、完全にアナーキーな状態ではないと思うんですよね。

ああ、なるほど。スタジオに関しては、それぞれのスペースを借りている人が家賃を払ってくれるので、それを集めると全体のスペースの家賃になるので、そういった出費を皆にお願いしてるくらいかな。ルール的なものは特に決めていないよ。基本的には大きなハウスシェアのような感覚で運営していて、スタジオの数は今十二部屋あるんだけど、そこに週一回お掃除の人が入って、みたいなね(笑)一緒に参加している人たちが、リスペクトし合える人であればオーケーという感じなんだ。ノールールなのになぜ成り立つかと言えば、やっぱり皆が知り合いだからだと思う。

それとブレイクアウト・スペースという名前の共有の場所があって、そこに行けば誰かがいて、話もできるし、ランチもできる。自分のスタジオで一人でこもりきりにならないし、悩みの相談もできるんだ。

※たぶんここがブレイクアウト・スペース。ライブもライブ録音もパーティーも行われる。
柳樂が写っててすいません。

とにかく、細かいルールというのは特にないんだ。たまには皆の分のコーヒー代を払う、とかはあってもね(笑)

そういう(共有)スペースがあるのが大事で、例えばギグが終わった後の深夜って、開いているレストランがなかなか無いんだ。でもTRCなら開いてるし、話もできるし、ジャムで音を出すこともできる。そこで次の作品の話になるかも知れないよね。

※ブレイクアウト・スペースにはキッチンもあります

ジャムってたら話がまとまって、翌日にはアルバムのレコーディングを始めた、なんてこともあったよ。建物の構成としてミニマムで、こじんまりとしているっていうのも、話がまとまりやすい理由であり利点だと思う。ギグの行なわれているスペースのすぐ隣にリハーサル室があって、そこでリハーサルをやっていたバンドが、機材をそのままギグ・スペースに持ち込んでお客さんの前でやるっていう、そういう流れが可能になっている。そんなマジックが発生する場所っていうのは、世界的にも珍しいと思うよ。そういった機動性みたいなものを、僕からも推奨している。時にそれはクレイジーでマッドネスな事にもなり得るけど、いいアイディアなら「いいじゃん、やっちゃおうよ!」って僕も盛り上げていくし。

機動性のある自由、これがTRC、自分たちの特性だろうね。

――ミニマムでコンパクトである一方で、シカゴのレーベルのインターナショナル・アンセムの人たちが来たりだとか、端から見ていると、ミニマムではなく、凄く大きな、広がりがあるもののように見える訳です。なぜTRCではすごく大きなことができるんでしょうか?

やっていく中で、僕らのあり方っていうのが、ある意味理想形なんじゃないかな?仕事のやり方もそうだし、場所としてのあり方もね。いわゆるノーマルな、どこにでもあるものとは違うんだけど、そこにみんなが理想形を見出してくれたのが大きいんじゃないかと思う。

要するに、TRCならリハーサルもレコーディングも出来るし、そのままライブだって出来るんだぞ、ってことが知られるようになった。僕らの所に来るミュージシャンやプロデューサーは、素人ではなくて、ある程度の仕事をやって来たプロフェッショナルな人たちなんだけど、それでもこの場所の機動性にみんな驚くから。

ある意味、ミュージシャンやプロデューサーにとって、この場所は究極のプレイグラウンドなんだと思う。やってる事はただの遊びじゃないけどさ(笑)

※トイレの入り口がかわいい

TRCに集まって来ている人の顔ぶれもそうだけど、そこから出る作品の、アートワークも含めて「質」にはとにかくこだわっているのもあるね。やはり自分がまず音楽のファンであり、コンシューマー、消費する側の人間でもある。その立場、その観点も大事にして、作品やポスター、サウンドのミックスまで含めて、最大限のケアを投じていいものを作る、ということをやってきた点は大きいと思うよ。

2015~17年くらいからやってきた僕らがやっていたレゲエ、ダブ的な要素があるものも、UKジャズ・シーンがUKの様々なメディアでも話題になった時に、次はどこに注目したらいいんだろうって感じになった際にラジオのホストの人たちからも、僕らが質のいいものを出していたからこそ、TRCに注目しよう、聴いてみようって思ってもらえた。僕らのクオリティから「信用」みたいなものが生まれていたと思うよ。

※レコーディング・スタジオにはアナログシンセが揃っている

海外の人たちも「UKで何かやってみたい、どこがいいだろう?」と思った時に、TRCなら機材もあってスペースもあって、レコーディングもライブも出来る、一緒にやりたい人がいれば、僕たちが過去に共演したUKの人たちに声をかけて呼ぶことだって可能だし、そういうことをやってきた。だから、インターナショナル・アンセムの人たちから声をかけられたころには、僕たちのやっていることがSuper Goodであることがすでにかなり認知されてたってことだと思うね。品質にこだわってきたこと、これが僕らの大きい部分だね。インターナショナル・アンセムとはDJのティナ・エドワーズが繋いでくれたんだけど、ギグもやってレコーディングも出来るような所を、という相談された時に「それなら他を当たる必要はない、TRCだね!」ってティナが言ってくれたんだ。そういう感じで評判が海外にも伝わっていったんだよね。

アーティストの人選はもちろんだけど、機材や環境、それから音楽のテイスト、ヴィジュアルの見せ方、参加している人たちの名前も含めて、きちんと選んでいいものを出して来た、ということが大きいと思う。

※「マカヤのジャケはこの天井なんだぜ」とその辺にあるいてたお兄さんが説明してくれた。このジャケの写真は彼が撮ったもので、この方は写真家だそう。
※チャーチ・オブ・サウンドのアートワークの写真も上のお兄さんが撮ったものだそう。
モーゼス・ボイドによるアート・ブレイキー曲集ライブ。

◉チャーチ・オブ・サウンドとは?

――TRCはずっといろいろなことをやってきた訳ですが、それとチャーチ・オブ・サウンド(以下、COS)というイベントはどのようにリンクしているんでしょうか?

リンクしているのは僕だけ(笑)。COSは友達のスペンサーとやってるんだけど、TRCとは完全に分離している。ただ事のおこりとして、2016年にTRCでギグをオーガナイズしたんだ。その時はグレイト・ソングブックを演奏する企画でシャバカ・ハッチングスダン・リーヴァーズマクスウェル・ハレットをはじめ、何人かのミュージシャンが出演して、ユセフ・ラティーフジョー・ヘンダーソンハービー・ハンコックの曲をやった。ただ、そこで音がうるさいって近所からクレームが出てたんだ。クレームが来てギグがもう出来ないっていう時に(宗教的なイベントとは別に)日曜日にイースト・ロンドン・チャーチって教会でオルガンを弾いていたランチ・マネー・ライフスペンサー・マーティンに話したら「じゃ、教会でやればいいんじゃない?」って話になって、TRCでやっていたギグをチャーチ(教会)でやることになったんだ。

ちょうど新しいUKのエキサイティングな連中が出てきたタイミングだったから、カバー曲をやるとか、僕らのレコードのコレクションからマテリアルを引っ張って来たりして、企画を立てていたんだ。

僕らの最初のギグにはユセフ・カマールが出演したんだ。ユセフ・デイズがTRCのスタジオでレコーディングを行った縁もあってね。彼らが初めてアルバムを出したころだったからアルバムの曲もやっていたし、イドリス・ムハンマドの音楽もやってもらった。2016年のユセフ・カマールのアルバム『Black Focus』はすごく大きなインパクトがあって、世界的にも高く評価された。あのアルバムにはイドリス・ムハンマドのイスラム教経由の美学も入っているんだ。彼らの成功のいい影響がTRCとCOSにもあったってわけだ。

http://churchofsound.co.uk/archive/yussef-dayes-kamaal-williams/

◉チャーチ・オブ・サウンドが大事にしていること

――COSのコンセプトには、まず教会で行なうっていうことが一つあると思うんですが、それ以外に大事にしている要素はありますか?

全てを大事にしているんだけど(会場に関して言うと)まず会場は丸く、円形になっていて、その真ん中にスピーカーがトーテムポールのようにタワー状に立っていて、360度音が行き渡る仕組みになっているんだ。それを取り囲むようにお客さんは観る。ステージと客席の高さも同じだから、お客さんとの距離がすごく近くなっていて、親密感があるんだ。だから座る位置によって見え方も(演者との)近づき方も違うんだけど、そこも面白いと思う。来るたびに別の楽しみかたがあるんじゃないかな。

サウンドから照明、提供する食べ物まで本当にすべてこだわってるよ。働いてる人たちも、ドアに立って入場の整理する人、チケットを切る人、エンジニアに至るまで、皆がそこでイベントをやることを大事に考えてる。なぜならこのイベントが大好きだからやっているという人たちばかりだからね。

そこで人と出会って、話をして、似たような考えの人たちが集っているので、それを楽しむこと……それを大事にしている人ばかりだから、コミュニティ的なバイブスがある。それが好きだ、という人がどんどん集まってくるから、お客さんだった人がスタッフになって、お客さんとスタッフが全員顔見知りだったりするんだ(笑)

大体7時半にオープンして、ライブは9時からスタートするんだけど、その間に食事をしたり話をしたり、新しい知り合いもそこで出来るし、そういう時間、スペース自体を楽しむ人も多くいる。

サム・ウィルクスジェイコブ・マンってカリフォルニアから来た人たちのギグをやったんだけど、そもそも僕らは知り合いじゃなくて、その時に初めて一緒にやったんだ。でも、彼らは僕らのキュレーションなら信頼できるから一緒にやることにしたって言ってくれた。そういう信頼感を出演者だけじゃなくてお客さんも持ってくれてるから、動員も硬くて 僕らのやり方も含めて評価してくれている人たちが集まってる。

だから、純然たる信頼と愛情で僕らは成り立ってる。これは凄いことだと思うし、有名だろうが有名じゃなかろうが、その基準として持っているのは、自分たちがその人たちに敬意を持ってるかどうか、まず自分たちが(ギグを)観たいかどうか、それだけなんだ。だから自分たちの好きな人だけをブッキングしているね。

◉チャーチ・オブ・サウンドならではのブッキング

――若手からベテランまでいろんな人がブッキングされていますが、COSらしさみたいなものって、どういう所にあると思いますか?

もちろんバジェット次第ではこっちがかなりの金額を払わなきゃいけないこともあるんだけど、最も安くまとまった例を話すよ。この間、ストラタイースト・レーベルからのリリースで知られるレジェンドのチャールズ・トリヴァーがビッグバンドのプロジェクトでヨーロッパ・ツアーをやっていたんだ。でも、僕らには(ビッグバンド全員をロンドンに呼ぶ)予算はさすがになかった。でも、僕はクインテットでのギグを見たいと思ったから「僕のところでクインテットのギグを二日間だけ出来ないだろうか?こちらでピアノやベース、ドラムに関してはロンドンの素晴らしいプレイヤーを呼んでおくから、TRCでリハをして、そのままライブするのはどうだろう?そこでしか出来ない、一度限りのラインナップで出来るから」と連絡したんだ。

僕らには、それが出来るんだよね。ヨーロッパ・ツアーのように、各所を回る大御所のアーティストのギグでも、僕らの所でしかできない方法でやることはできる。例えば久々に活動を再開することになった人がいて、バンドを結成できない事情があって、だから94年以降、その人のライブを聴くことができなかった状況がわかれば、「じゃ、バンドはこちらで用意するから」という提案なら出来る。僕らは自分たちの熱意でオーガナイズができるから、特殊なギグができるんだ。そのことは意識してやってる。

もちろん、好きなミュージシャンだからね、そこはお金をちゃんと用意して(普通に?)ブッキングすることもあるけれど、この場所だけでの、一回だけのショーというものを意識してやってる。

――なるほど。

この前、ソングブック・シリーズの企画でオルフェイ・ロビンソンにお願いして、ヴィブラフォンのレジェンドのボビー・ハッチャーソンの曲で90分のショーをやったんだ。そのままカヴァーをやるのもあれば、独自のアレンジに変えて演奏するのもあり、みたいな形でオリジナリティのあるやり方でやってもらっている。そういうソングブック的な要素のあるライブを僕は意識的に企画しているんだ。

http://churchofsound.co.uk/archive/orphy-robinson-all-stars/

それはアーティストにとっても面白いみたいで、こういうソングブック的な形のライブをしばらくやっていこうという話になって、彼らが自分たちのツアーをソングブック形式で組むようになったりもしてる。あるいは、こっちで用意したバンドが良かったから、この組み合わせでまたやろうという話になって、そのバンドでもう一度ライブをやったこともあるしね。

リハなしで、ぶっつけ本番でやる事もあって、それが凄いエネルギーになる場合もあったね。ブラザース・ムーブ・オンという南アフリカのアーティストがビザの都合で2人のメンバーが前乗りが出来ないことがあった。ロンドンからはチェルシー・カーマイケルトム・ハーバートが駆けつけてくれたりした日で、着いてすぐにぶっつけ本番でやったら凄いライブになったよ(笑)そういう事も含めて、他ではあり得ないコンテクストで、クリエイティブな、あるいは極限ギリギリの状態でやるライブを組むということは意識しているよ。

――COSはお客さんも入っているし、シーンへの影響力も大きいイベントだと思うのですが、ロンドンのコミュニティにとって、どんな影響を及ぼしたと自分では思っていますか?

うーん、お客さんに対しては、素晴らしい音楽が聴けるという点で貢献できていると思う。若いアーティストにとっては、大きなフェスなどにもまだ出演していないような、キャリアの早い段階で、きちんとしたお金を貰ってそういう所に出られるっていう状況を与えられたって所は、アーティストにとってもボーナスだったと思う。

それと、やはり新しいアーティストの発掘、あと、お客さんにとっては知らなかった曲をソングブック的なライブによって紹介できたこと……ただ、根本的に僕らは自分たちが好きなものしか追いかけないから、他の人がどういうことをやっているのか、あまり知らないんだ(笑)だから他と比べて自分たちがどうか、っていうのもあまりわからないんだけど、そもそも他の誰かが既にやっていることなら、僕らとしてはやっても面白くないからね。誰もやっていない新しいことを追いかけながらここまで来ているから、他と比べてどうというのはわからないけど、お客さんに対しても、あるいはこの業界で働いてる人にとっても、未知のもの、知らないものをどんどん紹介してきた、っていうのはあると思うな。

その結果として、自分たちの紹介するものの中で女性のミュージシャンが多かったりもするし、ダイバーシティ的な部分でも貢献できていると思う。影響力を持てる段階、注目される段階に来て、今までになかった顔ぶれ、女性も含めて幅広く(多様なミュージシャンを世に)紹介できているのかなと思う。

◉コミュニティのためのスペースであること

――TRCにせよ、COSにせよ、お互いに知り合ってることが大事だと思うんですけど、逆に言うと、人こそやっかいだったりする。コミュニティを作る上でいろんな人がいるけどいいヴァイブスが生まれるためにどんなことをしているんでしょうか?

似たような考えの人が集まるとは言ったけど、もめることはないの?と聞かれれば、確かにそれはあるね(笑)ただ、イベントとして集まる時間は4~5時間とか、短い時間だから、取り立ててトラブルということは僕の知る限りでは起こらないと思うよ。集める人数にも限りがあるしね。

ただ、それがもっと長い時間一緒になるとすると、トラブルということもあり得るかも知れない。ただ自分がTRCを始める以前のことも思い出すと、先輩たちがやっていた深夜のクラブで、そこが長続きする理由としては、こんな事を言っていたんだ。自分が実際に(イベントや運営を)やるようになって、確かにその通りだなと、より思うようになったんだけど。

コミュニティの人たちが集まる場であるから、例えば、どんなに大勢の人が集まっても、昔からそこに来ていて、本当にそこを大事にしている10人くらいがいて、その人たちから見て『コイツはおかしいぞ?』と思う人は、すぐにわかるんだ。セキュリティはいるけど、セキュリティっていうのはゴタゴタが起こった後でようやく出てくる人であって、未然に防ぐという意味ではあまり期待できないんだよね。でも、昔からそこにいて、本当に踊ったりライブを楽しんでる人なら、おかしな奴はすぐにわかる。そういう人たちによってトラブルが起こる前に未然に防げる。これは実際にあることなんだよね。

だから本当に、「コミュニティのためのスペース」であって、自分たちが毎日のように通ってる場所だから大事にしたい、という人たちの思いが(コミュニティを)支えてるんだと僕は思う。コミュニティがコミュニティを支えてるということかな。

――COSで貸してくれる教会っていうのは、同じようなコミュニティに所属しているような人たちなんでしょうか?自分たちのヴァイブスに合うような教会だからCOSに貸してくれたのか、イギリスにおいてそもそも教会というのはそういうものという認識が広くあるのか。

ここ七年は同じ教会でやってるんだ。その教会を使うようになった理由は、さっきも話したオルガンを弾くミュージシャンを通じてなんだけど、聖ジェームス・グレイトという今やってる教会は、いわゆる英国教会(チャーチ・オブ・イングランド)。だからカトリックの教会とは性質が違うんだ。例えば他の宗派、エチオピア正教会みたいな人たちにも水曜日だったら使ってもらっていいよって感じですごくオープンに運営されていた。だから、そこでやらせてもらってるんだ。

なので、最初に話をした教会は、こういうイベントをやることにうんとは言ってくれなかった。でも、そこから紹介してもらった今の場所でもう七年もやってることになる。まぁ、それなりにお金も払ってるんだけどね。

◉日本でのテンプル・オブ・サウンドについて

――最後の質問ですが、今度、COSを日本のお寺でやるということですが、それはどんなものになりそうですか?

基本的にはロンドンでやってることをそのままやるつもりだけど、日本で僕らが何かをやること自体が初めてだし、いつもの場所以外でやることも初めてなんだ。東京の、しかもお寺でやることを僕らも凄く楽しみにしている。

ロンドンのレシピをそのままやって日本で再現したい。僕らがやっている内容自体は普遍的なものだと思うから。あと、他にいい言葉がないから使うけど「スピリチュアル」な体験をしてもらうことになるのかな?そういう意味ではお寺という場所は非常に合うのかな、と思うよ。

ロンドンでやっている時と同じように、食事も出したいし、先ほど話したようにトーテムポールのようなスピーカーも置く。僕らとしてはバンドや人との出会いというものを大事にしたいから、東京とロンドンをリンクすることが出来ればいいなと思ってるよ。

――僕の周りの若手のミュージシャン達にも、今度こういうイベントがあると伝えると、凄く楽しみだと言っていました。

グレイト!今回の、九月のイベントは絶対に成功させたい。会場のお寺も本当に素敵な場所のようだしね。これが上手くいって、継続的に、レギュラーでやれるようになったりしたら嬉しいよ。

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Temple of Sound at 築地本願寺
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日 時:2023 年 9 月 22 日(金)開場 17:00 / 開演 18:00
会 場:築地本願寺(東京)
出 演:Nala Sinephro / Soccer96 / ermhoi with The Attention Please /NAGAN SERVER and DANCEMBLE / 石橋英子(DJ Set)
料 金:7,500 円

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Temple of Sound for クラウドファンディング Jam Session
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日 時:2023 年 9 月 25 日(月)18:00- / 20:30-
会 場:晴れたら空に豆まいて(東京)
出 演:日英出演者らによるフリージャムセッション 二部制
料 金:5,000 円

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Temple of Sound at Billboard Live 大阪
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日 時:2023 年 9 月 26 日(火)1st 開場 17:00・開演 18:00 / 2nd 開場 20:00・開演 21:00
会 場:Billboard Live 大阪(大阪)
出 演:Soccer96 / Ghost In The Tapes with ermhoi, Julia Shortreed
料 金:サービスエリア 7,400 円/カジュアルエリア 6,900 円(1 ドリンク付)

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Temple of Sound at Billboard Live 横浜
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日 時:2023 年 9 月 27 日(水)1st 開場 17:00・開演 18:00 / 2nd 開場 20:00・開演 21:00
会 場:Billboard Live 横浜(神奈川)
出 演:Soccer96 / Ghost In The Tapes with Alabaster DePlume, ermhoi, Julia Shortreed
料 金:サービスエリア 7,400 円/カジュアルエリア 6,900 円(1 ドリンク付)

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Temple of Sound at Wall & Wall
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日 時:2023 年 9 月 30 日(土)開場・開演 17:00
会 場:Wall & Wall(東京)
出 演:Alabaster Deplume / Donna Leake / Rintaro and more
料 金:6,900 円

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