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カレーと本と神保町(東京、本と巡る旅2)

 春の初めの東京で、本を巡る旅。昨年の夏、ゆっくり見ることができなかった神保町が目的地の一つ。本を持って旅に出て、帰りはやっぱり本が増えていた。

まずはカレーで腹ごしらえ

 昨年の夏に初めて神保町を訪れたものの、到着したのは夜で周囲の店はほとんど閉まっていた。「BOOK HOTEL 神保町」に滞在し、翌日は朝早く出発したので、開店前の店を外から眺めるだけで終わってしまった。立ち寄ったのはコンビニくらい。これはぜひともまた行かなくちゃ、と思っていた。

 久しぶりの空の旅。機内では本を読みながら過ごす。機内サービスのアップルジュースを飲みながら、長編小説の文庫本をめくった。
 羽田空港から京浜急行と地下鉄を乗り継ぎ、神保町の駅に到着。待ち合わせたのは先月、福岡で会ったばかりの友人Tさん。オンライン講座で出会った私たち、リアルで会うのはまだ3回目。オフィスがこの近くにあるそうで、方向音痴の私には心強い案内人だ。

 午後遅めの到着だったので、まずは腹ごしらえ。カレーの名店が多いという神保町。前回来た時には行けなかったので、今回は絶対食べたい。事前にTさんと相談して、数々の名店の中から欧風カレーの「ボンディ」を選んだ。

 ランチタイムを少し過ぎていたので、並んだもののそれほど待たずに店内へ。ライスの量が選べるので、Tさんに倣って少なめの150グラムにした。「いやいや、これはちょっと弱気なんじゃない?」と思っていたけれど、正解だった。その理由は、案内されたテーブルでスタンバイしていたジャガイモたち。ゴロリとしたジャガイモが2つ、とろりと柔らかいバターと共に待っていた。

 私はチキンを、Tさんはミックスカレーをチョイス。トッピングにチーズを追加した。ジャガイモにはバターを絡めたり、チーズとカレーを載せてみたり。テーブルにラッキョウ・福神漬け・レーズンが用意されているのもうれしい。ちょっと甘いレーズンがカレーに合う。

 チキンは皮目をパリッと焼き上げられていて香ばしく、スパイスの効いたカレーソースも好きな味。ジャガイモ2個のボリュームでお腹いっぱいになった。
 カレーを食べている間に私たちのスマートフォンにメッセージが。上京するとお知らせしていた講座の先輩Yさんが、仕事の合間に顔を出してくれるという連絡だった。

本の街で街歩き

 Tさんの案内で神田すずらん通りへ。商店街のWebサイトを見ると、学生の街として明治時代から書店が集まり、今では約150店舗を数える世界最大の書店街になったという。

 学生時代に歩いた早稲田通りの古書店街や、古本市に行ったことを思い出す。新刊書の書店に入り、古書店の入口に貼られたアーティスト(私たちの好きなスピッツも)の古いポスターを眺め、ぶらぶら歩く。そのまま歩いていると、Tさんが講座の先輩Yさんの姿を発見。待ち合わせの場所に着く前に会えてしまった。

 実際にお会いするのは、受講する2年ほど前にYさんが登壇したイベントで話を聞いて以来。本好きのYさんは、仲間と一緒にさまざまな企画に取り組んでいる。その一つに、本屋好きによるラジオ配信「ホンヤスキーラジオ」がある。今回の旅の前には、神保町の特集回を聞いて予習してきた。

本の街の共同書店

 今回、神保町へ来た目的の一つ、「PASSAGE by ALL REVIEWS」へ。2022年にオープンした共同書店で、一棚一棚に店主がいる。このPASSAGEの情報は、昨年、偶然見かけた店主の方のnoteで知った。プロデュースは仏文学者の鹿島茂さん。鹿島さんの書評は毎日新聞の書評欄で読んでいたので、さらに興味が高まった。

 この共同書店オープンのきっかけとなった「ALL REVIEWS(オール・レビューズ)」は、インターネット書評無料閲覧サイト。活字メディア(新聞、週刊誌、月刊誌)に発表された書評を再録するサイトだという。新聞や本で目にしていた書評家の皆さんの書評が並んでいて懐かしくなった。

 子どものころ「本屋さんになりたい」と思ったことのある私にとって、共同書店というのはワクワクする企画。以前、本のイベントで同僚たちと1日だけの古本屋企画に参加したことも思い出した。棚主の一覧を見てみると、作家や歌人など著名な方のお名前もある。

 店内には壁沿いに棚があり、さまざまな本が並んでいる。それぞれの棚主の個性が感じられる本棚だ。オリジナルの本、写真集や作家自身の本、などいろいろなジャンルの本が並ぶ。3階に新たに完成したシェアラウンジ「PASSAGE bis!」も覗いてみた。入口に本棚が設置され、ここで新たに棚主を募集しているという。

思いがけない再会

 PASSAGEを後にし、コーヒーでも飲もうとYさんオススメの店に向かった。店構えがとても素敵だが、残念ながら満席。Tさんの好きなパンケーキが美味しい店には行列ができている。近くの有名な喫茶店はあいにくのお休み。

 これは戻ったほうがいいかもと、再びシェアラウンジ「PASSAGE bis!」へ。1階の「PASSAGE」で本を購入すると割引券がもらえるので、せっかくなので本を買っていくことにした。気になる本はいくつかあったけれど、この店をプロデュースされた鹿島茂さんの本を選んだ。サイン入りなのも良い記念だ。(ちなみに私はサイン本に弱い)。

 3階に上がり、奥の席へ。満席で入れなかったYさんオススメの店のコーヒー豆を使っているというので、迷わずコーヒーを選ぶ。

 近況を話しているうちに、全員甘いもの好きということが分かり、なぜかスマホのフォルダを開いてスイーツ写真自慢。Tさんのパンケーキ写真も美味しそうだったけれど、映え映えなアフタヌーンティー写真がいっぱいのYさんの一人勝ち(笑)。私もベリーのタルトや豆花写真を出してみるけれど、単品写真は弱い。シャインマスカットを使ったレーズンサンドの写真を出して頑張った(笑)。

 わいわい話していると、いろいろと説明をしてくれたスタッフの女性から話しかけられた。私と出身地が同じみたいだ。1階の棚主で本も出していると聞き、だから地元の本があったんだと思っていると、前に私と会ったことがあるのでは、と言われる。

 もう20年近く前、私が駆け出しライターとしてお世話になったタウン情報誌の編集長をしていた方だった。東京に行かれたと聞いていたが、まさかこんなところで再会するなんて、と二人して声が高くなる。店に戻って来なかったら、そして声をかけてもらえなかったら、気づかないままだった。

棚主募集中の本棚

 仕事のあるYさんはひと足さきに店を出るのでお見送り。その後、棚主募集についての話を聞き、空いている棚をチェックした。1階の棚は既に埋まっていて、なかなか空きが出ないようなので、ここならまだチャンスがある。遠方に住んでいても棚主になれると知り、次第にやってみたい気持ちが膨らんできて、思い切って応募してみた。

旅の友の文庫本

 今回の旅には、文庫本2冊を持参した。長編なので、時間のある時に読もうと思っていた山本文緒さんの小説『自転しながら公転する』。東京行きを決めてから、旅にはこの本を持っていこうと決めていた。

 空港に着いて搭乗を待ちながら読み始めた。電子書籍で試し読みしていたのだけれど、改めて最初から読んでいく。どんどん面白くなっていき、機内でも夢中で読み続けた。

ホテルでも読書

 もう一冊は村上春樹さんのエッセイ『使いみちのない風景』。写真と共に短い文章が連なり、旅先で読むのにぴったりだ。ホテルのベッドでパラパラめくった。村上さんの本は大体持っていると思っていたが、持っていない本が結構あることに気づき、まとめ買いした中の一冊だ。

 どちらも旅の間に読み終わらなくて、持参したKindle端末は出番なし。山本さんの小説は続きが気になり、帰宅してからも夜更かししながら読み続けた。
 一緒にこのnoteを作っているNorikoが「山本さんの集大成だ」と絶賛する長編小説。山本さんのオススメ作品を尋ねた時にも教えてもらっていた本を、ついに読了。とてもよかったけれど、楽しみが一つ減ってしまったようで、少しさびしい。

(Text & Photos:Shoko) ©️elia

▼Norikoの山本文緒さんへの想いがこもった記事

▼昨年夏の東京の旅



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