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2020年5月の記事一覧
#6-1 ハンドドリップ
今日の目覚めの一杯は、ブラジルのニブラだ。酸味と苦みのバランスが程よく、まだ眠気のある身体には心地よく沁みる。
時計に目をやると、6時15分だった。早朝からミルを使って挽くのは気が引ける。萩中と中岡はまだ寝ているだろう。今朝は粉でのドリップになりそうだな、そう思いながら、金丸はキッチンに続くドアを開けた。
「おはよう」リビングの奥から声が聞こえる。中岡の声だ。
「驚いたな。寝てないのか
#4-2 プロジェクト
会見まで5分を切った。
恐らく金丸はすべてを説明するようなことはしない。萩中に対してもそうだ。わざと余白を作り、こちらの思考を刺激する。
あの時も同じ。核心に迫ろうとしたところで、「またお前の意見も聞かせてよ」とかわされた。いよいよ計画が大詰めになってきた時も、中岡さんを招き入れる旨は聞かされたが、「やりたいと思ったらいつでも言ってきて」と肩を叩かれた。こちらが意思を示すまで、金丸はじっ
#4-1 コンセプト
萩中は、商店街を歩いていた。
この地に来たのは3年前のことだが、その時と比較しても、個人経営の店の数が格段に増えた。感染症以降、都会に住むリスクや意味を考え、地方に移住した人は多いと聞く。この場所も例外ではない。商店街に活気が戻ってきた、という地元の人の話からも、その影響が覗えた。
都会のような、デジタル化されたスピード感はない。しかし一方で、アナログの持つ身体性のようなものをこの商店街