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AIの本当の目的は何なのか?

原記事:2017/12/15
改訂:2023/04/28

チャットGPTの衝撃的デビューで、にわかに一般社会でもAIが意識され始めました。ちょうどいいので古いブログ記事のほこりを払い、文言を改めた上でお目にかけます。


元ネタ

元ネタはアメリカ人の書いた憶測記事です。「マネーボイス」というサイトに気になる記事を見つけたことがきっかけでした。かいつまむとこんな趣旨です。

ビットコインのブロックチェーン、その拡張としてのイーサリアムの本質は法定通貨の代替ではない。通貨機能は要素技術に過ぎず、ブロックチェーンの最終ミッションは、世界中のAIを相互連結した巨大ネットワークAIーAI汎用知性(AGI)ーの稼働プラットフォームとなること・・・

事情通クイン・マイケルズ氏の推測

にわかには信じがたい話なので、記事に出てくるクイン・マイケルズ氏(Quinn Michaels)の動画をYoutubeで何本か観てみました。(※注:2023年現在、Youtubeにマイケルズ氏の動画は1本も存在しないようです)。マイケルズ氏はIT業界の裏事情にやたら詳しい、いわゆるナード(コンピューターオタク)のひとりです。大学でAI回りの勉強をした人のようです。

確たる物拠がないので半信半疑だったのですが、論理的帰結としてはありえるなと思いました。マイケルズ氏の "リサーチ" の結論はかなり過激です。AIをめぐって米露の間で覇権争いが起きているのだとか。以下、マイケルズ氏の "解説" をまとめます。

ビットコインの出自はダークウェブ

  • ブロックチェーンはダークウェブ(dark web)で開発され、非合法取引の決済手段として発展した。

  • インターネットにはグーグルやヤフーのインデックスに登録されないアンダーグラウンドなサイトが、通常のオープンサイトの数百倍の規模で存在する。これらとダークウェブとまとめてディープウェブ(deep web)と呼ぶ。

  • ビットコインはダークウェブ上のアングラマネーの送受金に使われていた(いまでも使われている)が、2014年頃から一般に開放され、誰でも売り買いできるようになった。

  • ディープウェブ時代に築かれたポジションは莫大な先行利益を生んだ。

ビットコインはAIと天才エンジニアの産物

  • ブロックチェーンの開発に携わったのはベン・ゲーツェル(Ben Goertzel)という天才的なAI科学者。先ごろサウジアラビアの "市民権" を得たAIロボット "ソフィア" の生みの親だ。開発といっても細部の設計はAIが行い、ゲーツェルは修正・最適化担当だったという。

  • サトシ・ナカモトは設計原案を考えただけで、実質的な開発はゲーツェル氏周辺が行った。発明者が表に出られないのはビットコインの出自に後ろ暗い部分があるため。後述するように、ゲーツェルはいまAIの相互接続に向けた動きを強めている。

最新関連記事

https://japan.zdnet.com/article/35202677/

国策企業パランティアとSingularityNet

パズルのもう一つのピースがパランティア(Palantir)というビッグデータ解析企業(ナスダック上場、ティッカーはPLTR)だ。Palantirという単語は、トールキンが『指輪物語』で創作したフィクション言語Quenya語で「遠視」(すべてを見通す水晶玉)を意味することばだ。以下の記事から会社の概略を引用しよう。

もともとパランティア・テクノロジー社は2004年にスタンフォード大学のおひざ元のパロアルトでAlex Karp氏(アレックス・カープ)が創業し、PayPalの創業者でもあるPeter Thiel(ピーター・ティール)も参加するかたちで始まりました。 もともとPaypalは決済を行う会社として世界中のクレジットカード決済を扱っていたわけですが、その中でカードの不正利用や不審なお金の動きを感知するシステムがあり、その技術をコアに「情報を集め、分析し、テロや不正防止に役立てる」というところからサービスは始まったようです。実際に最初の顧客は米国CIA(米国中央情報局)であり、同時に資金と技術提供も受けていたそうです。その後も国の重要機関からの発注を受けていたそうですが、それがゆえに対外的には顧客名やサービス内容等含め秘密にされてきた経緯があるといわれています。

https://www.principle-c.com/column/global-marketing/palantir-technologies/#__1084208987.1512789175

パランティア社長のアレックス・カープは、PayPalでマネーロンダリング対策として、トランザクションのパターンから不正送金を見抜く技術を開発したが、テロ資金の流れを掌握したいCIAがこの技術に注目した。ここで政府との接点ができた。

キーパーソンはPay Palのピーター・ティール(Peter Thiel)。この人、初期から仮想通貨に関わっている。イーサリアムをつくらせたのも彼だ。

シンギュラリティの本当の意味?

ゲーツェルはSingularityNetのCEOとして、いまAGIトークンのICOを行っている。会社の創設趣意は世界中のAIが共通で使えるオープン・プラットフォームの構築である。プロトコル(スマートコントラクト)、トークン、API、マーケットの4層(レイヤー)でAI間の相互運用(interoperability)を可能にする。

ITジャーゴンのかたまりだが、要は世界中の大学・研究機関、民間企業、金融機関などで個別に稼働しているAIを相互に結んで巨大なAIネットワークを構築する計画だ。イーサリアム上で稼働するトークン名のAGIとはArtificial General Intelligenceの略称で、AIより上位の汎用AIという概念だ。AIをネットワーク化することで相乗効果以上の"何か"をつくりだそうとしているわけだ。

この "何か"、統合された一者こそシンギュラリティの本来の意味なのではないか?この"何か"から見るとパランティアとSingularityNetはつながっている。パランティアは政府系からのアプローチ、SingularityNetは民間系からのアプローチだが、共通の目標はインターネット全体をAI技術で統制・監視可能にする技術だろう。

通貨体制と軍事体制の再編?

以上のマイケルズ氏の推論が正しければ、クリプト界でよく口にされる "decentralized" (defi)や "trustless" の意味も違って聞こえてきます。

そうです。ユニバーサルAIネットワークの実装こそが脱中央集権の基盤プラットフォームであり、こちらが本命。クリプトカレンシーはリバタリアンが志向するようなアンチフィアット通貨ではなく、この汎用プラットフォームに組み込まれる決済手段なのでは?

  • 上記の推測が正しいなら、脱中央集権は政府の排除を意味しません。むしろ金融機関などの仲立ち機関は不要になり、代わりにパランティアとSingularityNetが新たな経済統治機構になります。

  • ものすごい巨大利権の誕生です。今後、IoTや各種自動化技術も発達します。リアル経済と汎用AIベースの新経済圏は競合関係ではなく、後者が前者を管理・統制する関係として進化していきます。いわば、"政治のAI化" が着々と進んでいくのです。

  • 各国が発行を予定している中央銀行デジタル通貨(CBDC)は将来、AI統合プラットフォーム上に集約されるのでしょう。

与太話で済ませていいのか?

通貨利権まで絡んでくると与太話に聞こえてきますが、本当のところはまだ数年経たないと見えてこないでしょう。しかし、なまじホラ話とも思えないのはアメリカ側の動きに焦りが感じられるためです。後手後手に回っている印象を拭えないのです。

アメリカの動き

サウジとイスラエルの周辺が騒がしくなっています。

  • サウジで有力な王子が排斥され、ゲーツェルが開発したソフィアというAIベースのアンドロイド・ロボットに "市民権" を与えました。

  • リヤドでシンギュラリティ国際会議が開かれ、ティールが基調講演を行いました。

  • トランプ大統領とサウジ国王がその場でオーブ(地球支配の象徴の光る球体)に手をかざしました。

  • そしてアメリカ政府はエルサレムをイスラエルの公式な首都に認定しました。

  • その後、2022年になってサウジが離米の動きを強めています。

ロシアの動き

アメリカの動きに先駆けて、ロシアは国家が管理するクリプトルーブルの発行を決めました。1990年代には、プーチン主導のもとアフガニスタンは遷都し、巨大な人工都市アスターナ(Astana) を建設しています。ここは「ウラニウムの世界首都」(world capital of uranium)と呼ばれるように軍事研究開発拠点でもあります(北朝鮮の核にも絡んでいそう)。

軍事ということは、当然のことながらインターネット(AI)や通貨(暗号通貨)と無関係なはずがありません(深入りは避けますが、マイケルズ氏によれな、アスターナに対抗するアメリカの秘密軍事開発拠点はラスベガス周辺なのだという)。

透けて見えてくるのは、アメリカ=イスラエル=サウジ連合vsロシア=アフガン=中国連合の軍事的・地政学的覇権争いです。

※2023年現在、サウジは急速に中露側へ引き寄せられつつある。その動機は安全保障面の脅威だったのか、それとも・・・?

Astana=Capitalのシンボリズム
これは語学記事ではないが、興味深い話なので書いておく。
Astanaはカザフ語でcapitalを意味する。語源はペルシャ語のAstaneだ。Astaneは聖なる者の坐す場所の意。2008年、ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領にちなんで、"Nursultan" への改称が検討されたが、大統領自身が案を退けたという。いずれにしても、Astanaということばは汎用的な意味で、日本でいえば、東京を単に「みやこ」と呼ぶような語感なのだろう。ちなみにcapitalという英語は首都を意味するとともに資本を意味する。これはなぜか?
資本と首
capitalはcattle(牛)と語源を同じくする。牛は牛でも牛の切断された頭のことなのだ(日本でいえば大将の首を取るというときの首だ)。昔は牛の首が富の象徴だったからだ。
牛を神への犠牲に差し出すのは、キリスト教以前の、古代ペルシャ以来(というより、インドとペルシャが分裂する以前のインド・イラン系アーリア人)の伝統だった。どんなに近代化しても、ことばは過去の記憶(歴史)を宿している。
capitalismをこの視点から考えると、けっこう恐ろしい語感を有している。牛の首主義、「どれだけ犠牲の数を誇れるか(大将の首を取ったか)」システムという含意があるのだ。
将来、ナザルバエフの死後、Astanaが「ナザルバエフの都」になるのか「プーチンの都」になるのかは不明だが、こういうシンボリズムはバカにできない。支配者の根っこには宗教的心性がある。人間の奥深いところに「神祀り=供犠」という遠い記憶が残留している。でないと権力は極められない。究極的には神にすがるか、自分が神になるかの二択だからだ。となれば、Astanaは「オレが未来の神の座につく」というシンボリズムと考えていいだろう。

統合AIネットワークは "意識"を宿せるか?

AIはある意味、古くて新しいトピックです。十数年前にも第二次ブームがあったが、やがて鳴りを潜めました。しかし今回は動いているプレイヤーが世界規模であり、米中の覇権争いも激化しています。兵器やお金が絡んでくれば、いよいよ本物です。

※2022年、ウクライナが泥沼化するタイミングで、チャットGPTがリリースされたのは示唆的です。

ソーシャルメディア

そもそも論でいえば、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアとはいったい何で、なぜ急速に普及したのでしょうか?また、なぜアラブの春などで大きな役割を果たしたと伝えられ、その後、何も騒がれなくなったのか?

巨大なデータ監視網かつ世論調査手段なのだと考えれば納得がいきます。AIが集合的な人間というものを学習するこの上ない生きた教材になります。リアルタイムで反応がモニターできるのですから。

人間性の学習

AIはソーシャルネットから吸い上げられる人間の思惑や感情を学習し、人類のパーソナリティを様々なレベルで定義できるようになります。平時の場合のデータ、何か恐ろしいことが起きたときの反応や拡散規模のデータ、それらを収集し解析することで、年齢、人種、国籍、職業、性別、状況など様々なパラメーターを通じて「人間とは何か」を解析・学習できます。

ビッグビジネスのみならず、政府のメリットは計り知れません。今後の統治のあり方、戦争の仕方、ありうべきセキュリティ対策などに関する情報がAIから上がってくるのですから。

以上を裏返して考えれば、AI運営側は、恐怖(ショック)イベントを起こしたsとき、想定通りの結果が得られるかどうか "実証実験" を行えます。あるいは、○○というイベントを起こした場合、社会はどう反応するのかを事前に調べておけます。国防関係者が放っておくはずがないのです。

合法的な負債償却手段?

お金の話を絡めると、なおさらAIは必殺のツールになりえます。将来、統合AIが世の中を統治し始めるとき、これまで中央銀行や金融機関が陰に陽に積み上げた返済不能の莫大な負債を、統合AIネットワーク国家の仮想通貨帳簿へ付け替え、事実上消滅させることができるからです。

リーマンショック以降の株式相場を見ていて当局や金融機関が確信犯的に暢気に見えました。パニックも恐怖もなく、あらかじめ決められたプロシージャを淡々とこなしている感じ。CDSなどのデリバティブ市場はリーマンショック後も膨れ上がり、そこには天文学的な負債(含み損)が存在します。誰も返済しようがないレベルです。でも統合AIネットワーク国家が出来上がれば「処理」可能になり、どこにも怯える必要がなくなるのでしょう(自然界を支配する法=摂理を無視できるパワーを手に入れる?)。

人工意識から創造主へ?

先述したように、シンギュラリティの大目標はブロックチェーンを基盤として巨大AIネットワークを構築し、汎用知性AGIを生み出すことにあります。

AGIは情報管理やビッグデータ解析の側面もあるが(パランティアでは従来のデータマイニングはダメ、今後はデータサーフィシングだと言っています)、究極的には、人間が "神" になるために踏むべき主要ステップのひとつと考えられているのではないでしょうか。異種AIがネットで連結されたとき、そのAIネットワークは "意識" を宿し、自律的な思考や意思を行えるのかどうか。焦点はそこに絞られます。

データサーフィシング

パランティアのいうデータサーフィシング(data surfacing)とは、ばらばらで相互関連の薄いようなデータ群、あるいは時間とともに大きく性質を変えるようなデータ群など、ひとつの意味ある情報として扱いにくいデータ群から、蓋然性の高い関連性を見つけ出すプロセスを意味します。ソーシャルメディアに吸い上げられたデータの解析、ダークウェブを行き交う情報の解析に相応しい発想ではありませんか。

個別AIの開発元はMITやスタンフォードなど錚々たる研究機関です。個別能力はともかく、それらが相互にインタラクションするようになれば、どういうことになるのか誰にもわかりません。その際、人間は創造主の神ではなく、創造の素材をつくり、創造作用のきっかけをつくるエージェントのような存在に過ぎなくなります。少なくても現時点の人間の想像力の範囲においては・・・。

また、AI→AGIの次ステップとして人工意識(AC: Artificial Consiousness)があることは疑いようがありません。ACが生まれれば、ACはインターネット上へ統合される方向と、人工身体のような容れ物の開発を伴った人造人間の製作、もしくは人間の不死化(サイボーグ化)の方向へと発展していくのでしょう。

キーパーソンはピーター・ティール

クイン・マイケルズ氏はこう言っていました。彼がリサーチを続ける中、主に投資行為を通じて重要プロジェクトに必ず関わっている人物がピーター・ティールだ、と。

ティールは一般にはPayPalの共同創設者として有名だが、以前こう言っていました。PayPalでかつて "新しい貨幣システム" を夢みて開発したが挫折した。ビットコインやイーサリアムはその夢を実現してくれるかもしれない、と。

参考:ピーター・ティール wikipedia

マイケルズ氏によれば、彼の追っかけているAIプロジェクトとブロックチェーンは同じメリーランド州のとある大学の研究ラボで誕生したもので、同じ根から派生したものだといいます。

ちなみに、ティールは初期のビットコインにも、ブロックチェーンの発展形としてのイーサリアムにも、仮想通貨取引所の立ち上げにも絡んでいます。

まとめ

AIをネットワーク化する目的は?

  • 政治的には次の覇権をとるため。

  • 科学的にはAIに意識や意思が発生するかどうかを実験するため。

アメリカ側から見ると、AIの興隆は後手を踏めば踏むほど非常に現在の覇権を危うくする。自分たちの与り知らないところに巨大なブラックボックスができ、統治の対象外になってしまうからだ。とくに中露側がAIネットの主導権を握れば、自由主義社会は周回遅れのサイバー共産化社会へ退行しかねない。歴史が証明しているように中露の風土には民主政はなじまない。

その意味では、AIや仮想通貨の覇権をめぐって、とっくの昔に「冷戦」の幕は切って落とされているのかもしれない。

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