【クリスマス企画】2022年中間選挙の出口調査から見るアメリカ世論
こんにちは。雪だるま@選挙です。Twitterではクリスマスに中間選挙の出口調査を分析しましたが、noteの記事でも時折補足を挟みながらアーカイブを残していきます。
出口調査は、NEP(National Election Pool)の調査を使用しています。NEPは、ABC、CNN、CBS、NBCによる合同調査であり、基本的にはどの社のデータを用いても同様の結果ですが、今回はレイアウトが好みだったためNBCを用いることとしました。
出口調査の分析
1) 性別・人種別の結果
男性は共和党優勢、女性は民主党優勢の傾向が強くなっています。人種では白人が共和党優位、黒人やヒスパニック、アジア系では民主党優位の傾向です。民主党にとっての黒人はまさに岩盤支持層で、圧倒的な支持を得ています。
2) 性別×人種
白人男性は共和党支持が濃くなる一方、白人女性ではほぼ拮抗の状況です。同様に、ヒスパニック/ラテン系の女性では民主党支持が多いですが、男性では拮抗する状況です。黒人はほとんど差がなく民主党優位で、岩盤支持層と呼ぶにふさわしい状況です。
3) 年代別の投票行動
基本的には若年層ほどリベラルな価値観をもち、民主党支持の傾向が強まっていると考えられ、保守化が進む州ではその背景に高齢化があることも多く、フロリダ州はこの典型例だと指摘されています 。若年層が次々に投票権を得るため今後は民主党が勢力を強める可能性が指摘されていますが、実際にどうなるかは見通せません。
4) 学歴別の投票行動
学歴が上がると民主党支持の傾向が強まり、大卒かどうかで多数派かどうかが変わっています。学歴による政治的志向の変化は、政治的環境を考える上では大きな分岐点といえ、人種や所得など伝統的な対立軸が相対的に弱められたり、複雑化したりする可能性がありそうです。
5) 白人×性別×学歴
共和党支持が優勢の白人ですが、性別×学歴のフィルターをかけると中身はここまでグラデーションが付きます。白人大卒女性では民主党が優勢ですが、白人の非大卒男性では共和党がかなり優位です。中絶問題の強調は、特に民主党支持が強い白人大卒女性を固めるのに効果的な戦略でした。
6) 政党支持×性別
共和党は男女比が同じくらいなのに対し、民主党では女性のほうが多い傾向があります(有権者全体の中で、民主党支持の男性は12%、民主党支持の女性は21%です)。
これは中絶問題の影響である可能性も検討しましたが、2018年の中間選挙でも同様の傾向だったため、中絶問題以前から続く一般的な傾向とみなしたほうがよいと結論付けています。
7) 政治的志向
リベラルはそこまで多くなく、保守に比べて少ない傾向です。民主党はmoderate(穏健層)の取り込みを必要とする一方、共和党は保守の支持で票をある程度賄えることが示唆されます。2016年に共和党予備選でトランプ氏が指名された一方、民主党予備選では急進左派のサンダース氏が敗退した理由は、民主党のほうが穏健派の占める割合が高いからという見方も出来そうです。
8) 所得
所得が上がると共和党支持が強まる、というのが大まかな流れですが、中間層がどちらに振れるのかで選挙結果は大きく左右されます。ただ、この傾向には長期的に見れば変化の余地があると分析しています。
9) 婚姻
結婚している人の間では共和党支持が強く、そうでない人では民主党が強い傾向があります。婚姻の有無によって支持政党が変わっているのか、それとも婚姻の選択と支持する政党の決定に共通の要因があり、両者に因果関係があるように見えているだけなのかについては、次の設問から考えます。
10) 婚姻の続き
このデータからは、未婚の有権者で民主党が優勢な理由は、未婚の女性で民主党支持が強いからだと考えられます。この背景として、都市に居住しリベラル価値観を持つような女性がこの層の中心になっている仮説が考えられそうです。
一方で、子供の有無が政党支持に関与していないため、婚姻や出産に伴う経済的事情がファクターである可能性は低いということも出来そうです。
すなわち、婚姻の有無が支持政党を変えているのではなく、婚姻の選択と支持する政党の決定に共通の要因があり、両者に因果関係があるように見えているだけであると分析しています。
11) 宗教行事への参加
宗教行事に頻繁に参加するほど、共和党支持が多くなるという結果になっています。人口構成を考慮すると、ここでいう「宗教行事」はキリスト教に関連した行事が大半であるとみなしてよいはずで、伝統的価値観を重視する宗教保守との関連があると考えられます。もう少し単純な点では、高齢者ほど宗教行事(やそれと密接に結びついた地域行事)を含む共同体にコミットメントすると仮定した場合、高齢者ほど共和党を支持するという傾向とも関係がありそうです。
12) 初めて投票した有権者
今回の選挙で新規参入した有権者では、実は共和党のほうが多く票を得ていたことが明らかになっています。 2016年以降、民主党が新規参入者の中では優勢で、これは若年層のリベラル化と関連づけて理解されていましたが、今回の選挙はこの傾向から外れています。
これが今回に限った兆候である可能性は十分にありますが、その一方で若年層のリベラル化に伴って民主党が優勢になり続けるという従来の想定から何らかの変化が起きている可能性は否定できないデータです。
13) バイデン大統領を支持/不支持
注目すべきは、somewhat disapprove(日本の世論調査でいうと「どちらかといえば不支持」にあたります)の中で、民主党が上回っていることです。この設問からは、バイデン大統領への評価が投票行動に直接結びつかず、政権への審判には必ずしもならなかったことを示していると考えられます。
14) 中絶への態度
中絶権擁護に賛成が59%となっていて、民主党だけでなく無党派層もかなり中絶には親和的な態度を示しています。また、共和党支持層の一部も厳格な禁止には難色を示している場合が多くあります。 赤い州でも中絶禁止の住民投票が否決される背景には、このような事情があります。
15) 社会の分断に対する態度
民主党・共和党の双方が極端な態度を取っている、というのが世論の見方だと言えるでしょう。 注目すべきは、分極化は共和党だけでなく民主党にも当てはまる現象だと世論が認識しているということです。
共和党のトランプ氏を中心とし、保守に分極化のベクトルが向いているのが事実である一方、同様にリベラルでも分極化は進んでいるというのがアメリカ世論の認識になっています。政治学や社会学の立場から、これが正しいのかどうかについては様々な議論がありますが、選挙予測や社会の現状を観測する上では「このように世論が現状を認識している」ということ自体が重要です。
16) 居住地域
都市になるほど民主党優位の傾向です。これはリベラルで都市的な価値観と民主党の親和性が高いことが背景で、さらに大卒からの支持獲得で民主党は都市で強い支持を得ています。共和党は地方で強く、これは非大卒人口や高齢化と関連しています。
近年の選挙結果では、都市では民主党が勢力を伸ばし、地方では共和党が勢力を伸ばす傾向があります。一般的に、州全体がどちらの方向に動くかはどちらの傾向がより濃く出るかによって左右されていることが多いです。
今後のアメリカの社会で起き得ること
今後も、学歴が大きな対立軸となっていくことが予想されます。学歴×性別のフィルターを掛けると、全体としては共和党支持の傾向がある白人の中でも、投票行動に大きな差が生じていることが可視化されました。
このことは、どのような変化をもたらすでしょうか。8) 所得の補足部分でも言及したように、低所得者は民主党支持で、高所得者ほど共和党支持という構図が影響を受ける可能性を想定すべきでしょう。
ただし、影響は限定的になる可能性があります。というのも、低所得者層には黒人が多く、所得や学歴、性別などの動きとは別次元で民主党の岩盤支持層となっています。低所得者層に共和党が浸透するためには、黒人層での低支持率という高いハードルを乗り越える必要があります。
また、民主党も大卒教育を受けた有権者でも白人男性では依然としてリードできておらず、高所得者の中での支持拡大には課題が残ります。
また、16) 居住地域でも言及したように、都市では民主党が勢力を伸ばし、地方では共和党が勢力を伸ばし、州全体がどちらの方向に動くかはどちらの傾向がより濃く出るかによって左右されています。
全米規模の動きはしばらくこのトレンドに沿って動きそうですが、中間選挙結果の検証③で述べたように、一部の州では都市で民主党が伸ばせていない場合があるなど、例外が存在することには留意が必要です。
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