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東大推薦入試受験記(2024・工学部)
(先日はてなブログに投稿した内容とほぼ同じです。)
今年,幸いにも大学入試を終えることができました。合格発表から約半年が経ち,少しずつ大学生活に慣れてきています。
私が受験した入試はネット上の情報が少なく,受験前に感覚をほとんどつかむことができなかったので,今後受験を検討する方に向けて記録を残そうと思い記事を書きました。
1. 出願情報
入試方式:東京大学学校推薦型選抜
受験学部:工学部
志望学科:学科群5(第一志望),学科群3(第二志望),第三志望は空欄
2. 書類選考
工学部の推薦入試では「志願書」「学校長の推薦書」の他に「説明書」「学校長以外の推薦書」が求められます。
「志願書」の志望理由記入欄では,自分の今までの活動についてざっと触れ,自分のやりたい事をやるためには東大工学部でなければいけないというのが最大限伝わるように書きました。
勉強したい内容の記入欄には,主にパワエレ,電磁気,制御工学の三つについて,上記の志望理由で言った事に絡めて書きました。
拙い文章なので原文は公開しませんが,高校の教員からは「身も蓋もない」と言われた気がします。
「説明書」に活動実績として書いたことは主に以下の5つです。
・コイルガンの製作
・未踏ジュニア採択
・ものづくり0.THK賞採択
・荏原製作所賞採択
・SRモーターの製作
もちろん,これらに関連する発表,表彰などについても書きました。
私はコイルガンを中学生の時から作っていますが,この入試では高校時代の活動のみが評価対象なので,4号機と5号機について説明しました。また,書類では「コイルガン」とは書かずに「電磁加速機」と言い換えました。
コイルガン含め全ての製作物のCAD図面や回路図,完成物全体はもちろん制御基板やマガジン等の写真,マイコンのプログラム,発表資料など,PCに残っているデータを探し出して,できる限り添付しました。
そして,これは必須ではありませんが英語能力を示せるものを提出したかったので,出願締切の直前にIELTSの試験を無対策で受け,マイページに出た結果のスクリーンショットを添付しました。(正式な紙の証明書が届くまで待つ時間は当然無かった)
「学校長以外の推薦書」の執筆は,未踏ジュニア採択時にメンターをしていただいた方に依頼しました。
書類完成は締切ギリギリでしたが,なんとか書類選考は通過しました。
3. 面接
12月前半の休日に面接がありました。
面接ではSRモーターについて聞かれると予想していたので,書類選考通過後にSRモーター関連の本を一冊買って読んだり,ネットで調べたりして少しだけ勉強していました。
また,学校の理科教員数人に出願書類を読んでもらったうえで模擬面接を一度だけ行いましたが,深い内容までは理解してもらえず,薄い内容の話しかできなかった気がします。ただ,緊張せず楽しそうに話して雰囲気よく面接を終わらせた方が良いという教員からのアドバイスは,少し役に立ったと思います。
以下は面接当日の話です。面接でのやり取りは,記憶に残っている限りで書き出しました。
3.1. 待機~入室
まず待合室に行き,そこでしばらく待機しました。時間になると誘導係の方が来て,荷物と一緒に面接部屋の前まで連れていかれます。
面接部屋は第一志望の学科群で分かれているようで,私は学科群5の部屋に行きました。部屋の前の椅子に座って少しの間待たされ,準備ができると誘導係が部屋を開けます。
入って右に教授が5人座っており,荷物を置いて左の席につきます。座った席の隣にはホワイトボードがありました。
3.2. 面接
(受験生側から見て一番左の教授が司会役だった)
・[教授の質問]
>[私の回答]
・受験番号と名前を教えて
・東大工学部の志望理由は?
>(なぜ東大)教養課程で理系科目以外も学びたい。特に政治経済とか芸術とかに興味ある。
>(なぜ工学部)自分の技術と情熱で科学技術を発展させて社会に貢献したい。自分の興味がある研究室が多く存在する。研究設備が豊富。
・学科群5の志望理由は?
>電磁気に関連する活動をやってきて,電気電子工学科に行きたい。制御やモビリティ関連の研究室に興味がある。
・入学後にやりたい勉強や活動は?
>電磁気や制御工学を特に学びたい。
>入学後は今やっているモーターの研究を続けるが,ドローン輸送とかに興味があるのでそういう方面にも行きたい。
(ここまでのやり取りでは,こちらが答えるときに教授たちがメモを取っていた)
(ここで司会役が他の4人に質問を促すが,質問が出なかった)
・高校時代の活動で作った電磁加速機(=コイルガン)の仕組みを説明してください
>ホワイトボードでコイルガンの図を書いて説明した
・どういうところで工夫できる?
>加速する鉄心の素材選定
>電流立下りを高速にして効率向上
>コイルの周りにヨークをつける
・鉄心の位置検知はどうやっている?
>フォトトランジスタと赤外線LEDを使ったフォトインタラプタ方式で行っている。(回路図を書きながら説明した。)
・その鉄心検知回路を直接MOSFETにつながずマイコンに入力する理由は?
>電源を入れたときに,赤外線 LED の光が途切れているとか,その他の異常がないかを確認することができる。あと,直接つなぐと鉄心がいる間は常に電流が流れる状態になりリスクがある。仮に鉄心が詰まった場合,コイルに大電流が流れ続けて表面のエナメルが蒸発して故障する。マイコン側で最大通電時間を設定して安全設計ができる。
・検知回路でフォトトランジスタが電流を増幅するのはどういう仕組み?
>トランジスタの原理についての説明ということですか?
・そうなるのかな?
>部品の原理については,勉強はしたけど詳しく記憶していないので説明できない
・コイル電流の立下りはどれくらい早くできる?(時定数云々の質問)
>計算式とかはわからない
・電流立下りに一番影響しそうな部分はどこ?
>回生先のコンデンサーの電圧が高いとエネルギー放出が早い
>回収用のコンデンサーを別で用意して容量を小さくすればすぐに電圧上がって回収高速化できる
・弾のサイズとか質量,速度,効率はどれくらい?
>五号機は直径 10mm,質量 15g,速度は毎秒約 25m,効率は不明
>高電圧を使うタイプだと,電流が 400V くらいの時より 200V くらいの時のほうが効率が高い
・電圧が低いほうが効率が高いことの理由はわかる?
>効率に影響するパラメータが多すぎるので,わからない
・弾の素材は?
>SC45(S45C の言い間違い)の炭素鋼を使っている
・コイル内部の磁束密度はどれくらい?
>(ホワイトボードで説明しようとするが…今までこういうのはソフト任せだったので手計算の経験がない)
>巻き数と電流で起磁力はわかるけど,それ以外はわからない
・コイル内部の磁束密度のテスラ数はだいたいどれくらい?
>わからない
・じゃあ永久磁石のテスラ数はどれくらいかわかる?
>確認したことはあるが,磁力強度の規格の番号しか記憶にない
・永久磁石とコイル内部の磁束密度はどっちが強いと思う?
>コイル内部のほうが強いのでは
・電磁加速機(=コイルガン)はどういう目的で作った?改善点は?
>目的とかはなく趣味の工作。部で製作して文化祭で展示するために製作しているので直接役にたつものではない。しかし,高2の時からはこれを役に立つものに転用させたいと思ったので,汎用加速機のような形のものを作り始めた。輸送ドローンが実現できるなら,きっとマルチコプターではなく固定翼になるはずだから,それを電磁加速機で加速できないかと思って作ったりしたが,コイルのピッチが広すぎてトルクが全然でなかったので失敗した。
(40分くらいたったところで,司会役が話を切り替え)
・IELTSのスコア(Band 6.0)を見る限りかなり高い(?)英語能力を持っているようだが,海外の人との交流などの経験はある?
>日本で生まれて,海外に行ったことは一度もないが,英会話の先生と興味のある分野について話したり,外国人の訪問客と英語で会話したことがある。
>英語の発音に興味を持ったので,発音を磨く努力をしてきた。あとアメリカ英語とイギリス英語のどちらも話せるように練習している。
・せっかくだから発音を聞きたい
>I’m so interested in electromagnetics since I was in junior high school, and I've developed several types of electromagnetic accelerators. Now I've been developing an SR motor, and I want to continue this research after entering university. (アメリカ発音,文法的に正しいかは不明)
>If you don’t follow the rules, the police will have the powers to enforce them.(イギリス発音,元英首相のビデオメッセージからの引用)
・何か他に高校時代の活動などアピールすることは?
>学校からの研究支援や外部の奨学金制度を利用してお金を集めて,新構造のSRモーターの研究をやっている。大学入学後もこれを続けたい。
>音楽活動(?)をやってたことがあり,それで絶対音感を得た。昇圧チョッパ回路のような発振音があるものは,スイッチング周波数を音から推定することができるので,この能力は工学にも応用できるのでは。(これで教授の笑いを取ることに成功)
>第二種電気工事士試験に合格していて,技能試験は制限時間40分だけど15分くらいで完璧に終わらせた。昔から手が器用で,こういう配線作業が得意。
3.3. 退室
退室後に待機室には戻れませんでした。持ってきた荷物と一緒に,誘導係の案内で出口へ直行し帰宅します。
4. 合格発表
2/13に大学HPで合格発表があり,なぜか合格していました。
その後に郵送されてくる書類で,第一志望の学科群5に内定していることがわかりました。
![](https://assets.st-note.com/img/1723028870215-lPr6KKcqoR.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1723028892834-df1bvX9z0l.png?width=1200)
5. 感想
入試という大事なイベントにも関わらず,締切ギリギリまで放置する癖が出てしまいました。とはいえ,書類作成に時間をかけたところで,どう評価されるのかわからないので推敲するにも限界があったと思います。
書類選考は提出して合否が通知されるだけなので,特に感想などはありません。ただ,コイルガン製作を実績として書いてこの入試を受けた人は多くないと思うので,私の提出書類を審査した人達が何を思ったのかは非常に気になるところではあります。
面接は,圧迫感はなく和やかな雰囲気だったので良かったです。しかし,電気系の大学教授ならモーターについて聞くだろうという予想が外れ,コイルガンの話だけでほぼ終わってしまいました。公募プログラム採択については一切話題に上がりませんでした。とはいえ,モーターについては少し予習しただけで深い知識は持っていませんし,聞かれて答えられることは多くなかったと思うので,話題がコイルガンの方に行ったのはむしろ良かったと思います。
振り返ってみると,専門的な質問にはほとんど答えられていません。作品製作の際に学んだことは全て答えていますが,それ以外の部分はさっぱりでした。そのため,面接終了後一か月くらいは答えられなかった質問のことが毎日頭をよぎり,精神的に追い詰められていました。合格発表が近づく2月頃には落ち着いていましたが,それは不合格を確信していたからでもあると思います。
合格発表で番号を見つけた時は驚きました。なぜ合格したのか今でもよくわかりません。
6. 最後に
コイルガン製作が評価されたのかはわかりませんが,それが電子工作やものづくりに没頭するきっかけとなったのは間違いない事実ですので,その意味では完全にコイルガン製作のおかげで推薦入試を突破したと言えると思います。
私のコイルガン製作やその関連活動を支えてくれた中高の部活動の先輩方や,ネット上に記事を投稿してくださった先人の方々,私の稚拙な質問に対応してくださった方々には本当に感謝しております。
この東大推薦入試については,受験生の参考になる正確な情報が少ない一方で根拠のないデマが多数流れており,残念に思っています。この記事を見て推薦入試を受けようと思う人が少しでも増えれば幸いです。
また,合格者を輩出した学校とそうでない学校との間の情報格差も問題だと感じております。この記事は,私が面接受験後すぐの記憶が鮮明なうちに作成して高校に提出した受験報告書の内容をほぼそのまま写したものですので,この入試を受験する方々の参考になれば幸いです。
質問等があれば,本記事のコメントやX(Twitter)のダイレクトメッセージ,匿名質問箱でも受け付けますので,お気軽にお寄せください。できる限り対応します。
最後まで記事を読んでくださりありがとうございました。
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