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2020年に読んだ本たち

1冊目 斉須政雄『調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論』幻冬社文庫

23歳の若さでフランスへ渡り料理を修行した斉須政雄氏の人生を通じて得た人生哲学や教訓がやさしい文で書いてある。学生でも社会人でも「絶対ミスできない仕事と向き合ったことがある人」には特に響くと思う。料理に全く関係ない人でもこの本から得られるものはあると感じた。「留学に行く前にこれを読め」と父に言われ読んだが、留学前の忙しくも不安な時期の僕の背中を押してくれ、読んで良かったと思える一冊だった。以下、引用。


だから、「危うさや独創性のようなものを自分で持って、なおかつ調理場に溶け込んでしかも違うものを生み出せるように」という、そんなバランスを保っているのが最高ですね。 

2冊目 ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社

イギリス在住であるブレイディみかこ氏の息子の学校生活を描いたノンフィクションエッセイ。日本にも「多様性」は存在することは重々承知で書くけれど、僕の小学校時代はクラスメイト全員が肌の色も一緒で同じ言語を話している環境だったから「そうでない環境」をなかなかイメージしづらい。この本では、小学生独特の素朴な疑問によって切り取られたイギリスの小学校ならではの様々な問題が描かれている。母でもある著者が、息子の純粋な疑問に答えながらも時に矛盾に気づいたりする場面がいくつかあった(と記憶している)のが印象的。平易な表現で書かれているがメッセージはとても示唆に富んでいるし考えさせられる。以下、引用。

PM2・5が飛んでいることより、日本経済が中国に抜かれることより、自分が生まれた国の人が言った言葉を息子に訳してあげられないことのほうが、わたしにはよっぽど悲しかった。

3冊目 太宰治『正義と微笑』 青空文庫

義務教育で『走れメロス』を読んで以来、太宰の作品をを読んだことがなかった。この本を読んだきっかけはTwitterで少し話題になったこの本の中の名言に興味を持ったから。内容は、斜に構えた思春期の少年の日常を綴るお話。主人公の絶妙なダメさ加減は「自分はこんなものではない」と燻っているが自堕落な生活を送ってしまっている大学生のよう。主人公像には既視感を覚えるし共感もできた。太宰というと暗いイメージを持つかもしれないが、軽い気分で読める一作だと思う。以下、引用。

勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!これだけだ、俺の言いたいのは。
まじめに努力して行くだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らない事は、知らないと言おう。出来ない事は、出来ないと言おう。思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦なところらしい。

4冊目 安宅和人『イシューからはじめよ -知的生産のシンプルな本質』英治出版

コロナウイルスの流行が始まって世界中があたふたしていた時期に読んだ本。当時は毎日大量の情報を浴びて疲れ切っていて「もっと物事の本質を見れる人間になれたら人生楽だろうな」と本気で思っていたので、面白そうなので読んでみた。結果的には読めてよかった本の1つだけどまあ俺には難しすぎた。ビジネスマン向けの書籍という印象だけど、しっかり研究活動に勤しむ学生なら共感できる部分や学べる部分は多いと思う。これを見ると研究とビジネスって共通項があるのではと思わされる。以下、引用。

問題はまず「解く」ものと考えがちだが、まずすべきは本当に解くべき問題、すなわちイシューを「見極める」ことだ。

4冊目 苫米地英人『「頭のゴミ」を捨てれば、脳は一瞬で目覚める!』

表紙のデザインが良さげでKindle unlimited で無料で読んだけど、頭に残る内容がなかったので書くことは無い。べき論が多かった印象。

5冊目  山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』SBクリエイティブ

高校の地歴の選択科目は地理だったので世界史は門外漢だった。でも周りは世界史履修者が多くて話題についていけないし、大学の勉強でも世界史の下知識があること前提で授業が進むので肩身が狭かった。「いずれ世界史は勉強しなきゃなー」なんて思ってはいたものの手をつけずにいたので、いい機会だと隔離期間にKindleで読んだ。一度読んだだけでは普通に忘れるけれどとても面白い本だったし、流れの中ですんなり理解できた良書だと思う。しっかり定着させたいなら何度でも読むべき。半年以上読み返していないので今僕が覚えているのは神聖ローマ帝国とローマ帝国の違いだけ。以下、引用。

今から1万年前、それまで寒冷であった地球が温暖化したことにより、地球が現在とほぼ同じ気候になりました。そのタイミングで、人類も暖かくなった気候に合わせて生活をしなければならなくなったのです。この「1万年前」というタイミングが、現在の人類の「ライフスタイルの出発点」といえます。

6冊目 堀辰雄『風立ちぬ』青空文庫

2020年の春は海外のNetflixではジブリが見放題だったのでジブリの中でも好きな作品である「風立ちぬ」を見た。ついでに堀辰雄の原作も読んだ。映画と原作はだいぶ違うストーリーだったと記憶している。体を患った節子の息苦しさが分から伝わってきたのは鮮明に覚えている。

風立ちぬ、いざ生きめやも。

7冊目 村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』文藝春秋

名古屋が舞台の作品でゆかりがあるので読んでみた。村上春樹作品の言葉の使い方が上手だし好き。表現が目新しいのに浮いていなくて、すんなり溶け込んでいるように見える。彼の作品の主人公は気怠い性格の人が多いけど、それは物事の本質を見た上で悟ってしまっているからだと思う。自分の言葉ではいえないような思いをうまく表現してくれる作家の作品を読むのは心地よいものだ。

嫉妬とは──つくるが夢の中で理解したところでは──世界で最も絶望的な牢獄だった。なぜならそれは囚人が自らを閉じ込めた牢獄であるからだ。誰かに力尽くで入れられたわけではない。自らそこに入り、内側から鍵をかけ、その鍵を自ら鉄格子の外に投げ捨てたのだ。そして彼がそこに幽閉されていることを知る者は、この世界に誰一人いない。もちろん出ていこうと本人が決心さえすれば、そこから出ていける。その牢獄は彼の心の中にあるのだから。しかしその決心ができない。彼の心は石壁のように硬くなっている。それこそがまさに嫉妬の本質なのだ。
「自由を奪われた人間は必ず誰かを憎むようになります。そう思いませんか?僕はそういう生き方をしたくない」
正しい言葉はなぜかいつも遅れてあとからやってくる。

8冊目 新渡戸稲造『武士道』PHP研究所

言わずと知れた日本の名著。日本には西洋を手放しに賞賛する風土があるけれど、一方で日本文化の魅力も当然ある。隣の芝生は青く見えるものだ。この本は日本の精神について数々の引用を踏まえながら論じている。最も現代の日本を正確に描写している本では無いので多少ズレもあるし文体も堅めで読みやすい本では無いけど、まあ留学や駐在を控える人なら読んでおいて損はない。SAMURAIは少なくとも僕が行った国ではポピュラーな単語だった。

ヨーロッパ人はバラの花を賞賛するが、私たち日本人はそれを共有する感覚は持ち合わせていない。バラには桜花の持つ簡素な純真さに欠けている。それだけではない、バラはその甘美さの陰にトゲを隠し、執拗に生命にしがみつく。まるで死を怖れるがごとく、散り果てるよりも、枝についたまま朽ちることを好むかのようにである。しかもバラは華美な色彩と濃厚な香を漂わせる。いずれをとっても桜花にはない特性である。
しかし、それにしても武士道で育った新渡戸や内村らが、なぜいとも簡単にキリスト教に入信したのか。一見、不思議な気もするが、プロテスタントの精神というものを調べてみると、それはむしろ当然だったというべきかも知れない。なぜなら、プロテスタントの精神というのは質素倹約を旨として、自律・自助・勤勉・正直をモットーとする「自己の確立」を養成するもので、それは武士道の精神と根本的に相通じるものがあったからだ。

9冊目 高村光太郎『智恵子抄』新潮文庫

「レモン哀歌」という詩が好きで手元に置きたいがために買って留学に持っていった。「死」を重苦しくも透明感のある様に描写していて言葉が綺麗。

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉(のど)に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん)でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

昭和一四・二

10冊目 中村隆之『はじめての経済思想史 アダム・スミスから現代まで』講談社現代新書

高校の時は政経に全く興味を持てずに倫理を受験科目にしたにも関わらずゼミでは学習しているのは政治経済分野という矛盾を抱えていてケインズやアダムスミスなどの経済学者の思想を1mmも理解していなかったので読んでみた。「お金儲け」という日常ありふれた行為を切り口に経済思想史を読み解いている。こうして読むと、経済学とはその時々の社会情勢に対応していく形で発展してきたのだとわかる。amazonのレビューにもある通り初学者用に切り口をわかりやすくしすぎたせいでハイエクやフリードマンの扱いが若干不当な感じはするけど、それを差し引いてもわかりやすく噛み砕かれた本だと感じた。そもそもこの手の新書の良し悪しがわかるならこの本を手に取っていない。

富める国とは、豊かな生産力を持ち、それを消費することで、人びとがよい暮らしができる国である。

11冊目 トイアンナ『確実内定』

留学から帰国して少し経って、ぼちぼち就活再開するかと思って興味本位で買ってみた。得るものもあったし損はしない本だと思う一方で、乱立する就活ノウハウの1つに過ぎないので自分に合うものを取り入れつつ自分なりに考えて動くしか無いのが就活だと思う。不安な方は一読どうぞ。あと、本著は就活へのコロナの影響は反映されていない。

12冊目 橋爪吉博『石油業界の動向とからくりがよ〜くわかる本』秀和システム

気になる業界だったので読んだ。コンパクトにまとまっているので読みやすい。

13冊目 前田祐二『メモの魔力』幻冬舎

自己分析の本として紹介されていて面白そうなので読んだ。メモという行為を通じて具体物を抽象化して、他に応用(転用)しようという事を主張している。何気なく閃く人ってのはこういう風に日常からヒントを掴んで他に応用できる人なんだなあと感じた。一読の価値あり。自己分析1000問もハードだけどこれをやり切れば頭の中がクリアになりそう。

自分を深く知っていれば、自分にまつわるあらゆる意思決定の場面において、ほとんど迷わなくなります。

14,15,16冊目 ハーマン・メルヴィル『白鯨』(上),(中),(下)岩波文庫

人々の暮らしを照らす燃料にまだ鯨油が使われていた時代に、鯨油を求めて海へ繰り出し伝説の白鯨モビー・ディックと闘う船乗りたちの物語。エネルギー系の会社を探してネットサーフィンしていたらこの本を引き合いに出して会社紹介している社員がいて、面白そうだから手を出してみたら超巨編の小説で、読むのに丸二ヶ月要した。上巻と中巻は想像していた様な海でのダイナミックなシーンが少なくて挫折しかけたけど下巻は結構迫力のある捕鯨シーンがあってそれなりに楽しめた。読破には相当な体力と時間が必要な作品だけど格闘する価値はあると思う。ちなみに漫画ONE PIECEに登場する白ひげ海賊団の船モビー・ディック号はこの作品がモチーフだと作者尾田栄一郎氏がコメントしていた。また、作品に登場する航海士スターバックはスターバックス社の由来となっているとかいないとか。

それに、どこか滑稽なところを多分にそなえている人物は、かならずや予想外の美徳をそなえている人物なのである。

17冊目 池上彰『学び続ける力』講談社現代新書

実家の本棚にあって気になってはいたものの全く手をつけず数年経って、ようやく読んだ一冊。池上彰氏の半生を追う形で生涯学習について述べている。情報過多の現代社会を生きる術が書かれていて、さすが池上彰さんだなと思った。

「大学で教養を学び、社会に出ることに、人間としてどんな意味があるのか?」
究極の質問ですね。これに私はこう答えました。
「自分の存在が社会の中でどんな意味を持つのか、客観視できる力を身につけること」ができるのだ、と。そうでないと、ただやみくもに働いたり生きたりすることになります。そこで少し客観的になれるかどうか。視野が広げられるかどうか。枠の外側を眺められるかどうか。そういう力を身につけることが、大学で教養を学ぶということではないかと思います、と。

18冊目 『比較政治学の考え方』有斐閣ストゥディア

二年生時に履修した集中講義でオススメされていた本。ゼミの中心的な学問分野なだけにもう少し早めに読んでおけば...と思わずにはいられない。初学者用にコンパクトかつ平易にまとまった良書だと思う。まだ一回しか読んでないので本の内容はろくに頭に入っていない。繰り返し使っていきたいとは思っている。

19冊目 木下是雄『理科系の作文技術』中公新書

名著らしい。いずれ卒論も書くし損はするまいと思って読んでみたら、確かに名著と呼ばれる理由がわかった。著書全体を通して無駄な文が一切なく、ただ簡潔に主張に必要な文が羅列されている。「明快・簡潔な表現」をひたすら追求した文章術はタイトルにある理系のみならず文系にも有用だと思う。事実と意見を分けて考えることって大学生の必須スキルだと思うし必読書にしてもいいんじゃないか。強いていうなら少し文が堅い。

私の考えでは、以上のような性格を持った理科系の仕事の文書を書くときの心得は
(a)主題について述べるべき事実と意見を十分に精選し、
(b)それらを、事実と意見とを峻別しながら、順序よく、明快・簡潔に記述する
ことであると要約できる。

20冊目 柳川範之『東大教授が教える独学勉強法』

父の仕事の関係で海外から通信制の大学に通い独学を主たる勉強手段としていきてきた東大教授による独学勉強法の本。講義がほとんどない上に院試という大きい試験が控える来年に備えて得るものがあればと中古で購入。読んでみれば、受験期の自分と似通ったところがあってすんなり頭に入った。一方で「教えられたことを素直に受け入れずまずは疑問を持つこと」を説いていて、ここは自分の苦手なところだなと再認識した。「自分の意見ってその分野の下知識なかったら的外れでしかなくね?」という気持ちが強いけどなるべく持つようにしたいと思った。

学びや勉強のプロセスとは、実は、いったん押し返してみることです。
偉い先生が言ったことを鵜呑みにするのではなくて、教科書でも本でもそこで得た知識をもう一度自分なりに組み立ててみる。場合によっては、著者である偉い先生とは違う理屈を自分なりに語れるくらいにしてみる。本当に正しいのかどうかという反論も含めて頭の中で考えていくことが、学びの大事な過程なのです。

21冊目 秋吉貴雄『入門 公共政策学 社会問題を解決する新しい知』中央公論新社

大学院の試験対策の第一歩として買って読んでみた。入門書の割にはかなり歯ごたえがあった。公共政策学とはつまるところ「社会問題解決学」なんだと思う。Knowledge in process(政策に関する知識)とKnowledge of process(政策をいかに進めていくかの知識)があり、後者は従来の学問分野にない実務的なパート。ここが今の日本には不足しているのかなあなんて素人目には思う。良書。

通勤・通学ラッシュの問題のように、個人では解決しにくく、社会で対応すべき問題が「政策問題」とされる。その政策問題の解決案が「公共政策」である。

22冊目 鈴木光『夢を叶える勉強法』KADOKAWA

「プレバト!!」に出演してた鈴木光氏の著書。同い年だけど人間としての完成度がレベチなので天才型だと思ってたけど、結構地に足のついた努力型の人間なのかなと読んで思った。超わかりやすく結果の出る勉強法や習慣を解説していて、受験を控える中学生高校生がメインターゲットのように思える。にしてもこれだけ精緻に体系化されているのは脱帽。物事を簡単そうにやるのが一番難しいって誰かが言ってたけど、まさにそれな気がする。ただ、この本は机の上の勉強用の本なので、研究主体の大学生向けではない。

なんの努力もせずに勉強ができる人は私はいないと思っています。

23冊目 野村哲也『パタゴニアを行く - 世界で最も美しい大地』中公新書

パタゴニア地方を歩きたくてアルゼンチン留学したと言っても過言ではない僕に取って今回のコロナでの早期帰国はショックで「もう一生行けないかもな」と諦めかけてたけど、この本読んで気持ちが少し蘇った気がする。とにかく写真が綺麗。でも筆者はチリ側を旅しているのでアルゼンチンの情報は少なめ。それでも本棚に置いておきたい一冊。

24冊目 北野唯我『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』ダイヤモンド社

就職した先輩にオススメされた本。「自分の市場価値を意識する」というのは新卒既卒にかかわらず有用な考え方だと思うので就活生にもオススメしたい。半沢直樹風のストーリー形式でさくっと読める。

「いいか青野、転職とはな、単に名刺の住所や給料が変わるだけのものじゃない。世の中の人々に次のチャンスをもたらすものなんだよ。今の会社でや活躍できていなかったとしても、違う場所で輝ける人は本当にたくさんいる。それなのに、転職をタブー視して会社への忠誠という言葉で自分をごまかしている人間がどれだけ多いことか。そんな人間が増えると、いずれ会社そのものが立ち行かなくなる。そして人材の流動性が下がれば最終的には社会全体もダメになる。」

25冊目 伊賀泰代『採用基準』ダイヤモンド社

タイトルに興味を持って読んだ。外資系企業を目指す人なら必須の思考法が書かれている。英語ができる人でも地頭がいい人でもなく、マッキンゼーひいては社会が欲しているのはリーダーシップを持って自分で責任を負い自分で考えれる人であるらしい。日本ではリーダーシップという言葉が誤解されているという指摘はその通りだと思う。リーダー向きの人が多いチームは船頭多くして船山に登ると思われがちだが、リーダーができる人は結局チームの優れた構成員にもなれるのだ。

世の中には、「どうすればいいのか、みんなわかっているが、誰もやろうとしないために、解決できないまま放置されている問題」が溢れています。反対に、「答えさえわかればすぐに解決できるのだが、その答えが見えない」のは、技術的な問題など、人や組織が絡まない問題だけです。自分の言動を変えるのは自分一人でできるけれど、自分以外の人の言動は、リーダーシップなくしては変えられないのです。

26冊目 村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』文春文庫

村上春樹の紀行文集。文の上手い人が書く紀行文集ほど素晴らしいものもそうそうないと思ってる。特に村上春樹作品は情景描写が独特かつ綺麗なので読み応え満載。「である」と「ですます」の両方を使っているのも砕けていて好感を持った。肩肘張らずに読めるので手元に置いておくにぴったり。ぜひ一読を。

僕は思うのだけれど、たくさんの水を日常的に目にするというのは、人間にとってあるいは大事な意味を持つ行為なのではないだろうか。まあ「人間にとって」というのはいささかオーヴァーかもしれないが、でも少なくとも僕にとってはかなり大事なことであるような気がする。僕はしばらくのあいだ水を見ないでいると、自分が何かをちょっとずつ失い続けているような気持ちになってくる。それは音楽の大好きな人が、何かの事情で長いあいだ音楽から遠ざけられている時に感じる気持ちと、多少似ているのかもしれない。あるいはそれには、僕が海岸のすぐ近くで生まれて育ったということもいくらか関係しているのかもしれない。

以上です。2021年もお手柔らかに。

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