正直者の高橋みえ

誰もが通る道というほどでもなく、普通に通らざる得ない道。
そんなに重い道ではないが、学校という義務教育で人は教育から社会で役にたつ人間に生まれ変わる。

いつもと変わらない日常の風景。小学校の点呼、いわゆる出席をとっていた先生。

「おはよう!これから出席をとります。体調の変化や具合が悪い等、正直になんでも良いから名前を呼ばれた時に答えなさい!」

何も変わらない日常。
先生は次々と名前を呼んで出席をとっていく。

「安藤!」

「はい元気です!」

「井上!」

「はい!ちょっと風邪気味です!」

聞き慣れた先生の声が廊下にまで響きわたっていた。

「斉藤!」

「はい!お腹が痛いです!」

先生は少し心配そうに斉藤さんを気にかけていた。

「斉藤!お腹が調子悪かったら保健室に行きなさい!」

先生は出席をとると同時に生徒の顔色を伺い一人一人と接していく。大変な仕事でもある。

「高田!」

「はい元気です!」

斉藤さんの後はテンポよく出席が取れることを先生は感じつつあった。
しかしそこで正直者の高橋さんが突拍子もないことを発言してしまった。

いくら体調の変化やなんでも良いから正直にいうといっても、出席をとりながら体調を確認していくことの意味を考えれば、いって良いことと言う必要がないことぐらい分かりそうなものだ。

小学生とまだまだ社会人には程遠い年齢だが、小学4年生であれば、冗談だったら理解はできるが真剣にその発言をしてしまうことは考えにくいことのように思えた。

しかも正直者の高橋さんは、頭もよく、お嬢様育ちなので、そんな冗談を言うキャラではないことはクラス中のみんながわかっていた。

「高橋!」

この後突拍子もない発言を高橋さんがするとも知らずにテンポよく出席をとって行った。

「はい!背中がかゆいです!

先生が静止してしまった。

いくら正直になんでも良いからと言われたとしても、体調の変化のように学校生活に支障をきたす内容ではなく、今の自分の体に起こっている現象を正直に発言してしまった高橋さんであった。

「そうかそうか!先生もなんでも良いからと言ったからな!高橋は背中がかゆいということで先生認識しておくぞ!」

クラスメイトも笑いをこらえていたが、高橋さんのあまりに真剣に発言した様から、誰もツッコミを入れずに出席が継続された。

社会に出ると色々な人と出会い、自分が常識であると思っていたことが覆されることが多々ある。
今思えば、幼少期に恥を知らずに思ったことを発言できたことの幸せを感じる、高橋さんからのメッセージでもあった。

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