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映像作品「瞼の裏で見る夢」のこと

私は東京で生まれ、東京で育ち、東京に住んでいる。もっと正確に言うと港区で生まれ育った。こういうと、ものすごく都会だと、キラキラしたところだと思われることがしばしばある。でもそうじゃない。「港区女子」という言葉があるように、たしかに港区にはそういう側面がある。けれど、私が生まれ育った高輪はそうじゃない。寺町と言われているくらいだから、少し歩くだけでとにかくお寺がたくさんあるし、どちらかといえば昭和的な、郷愁を感じさせてくれるエリアだ。東京タワーも虎ノ門ヒルズも遠くない。だけど、そういう場所とはまるで違う。パッと思いつくような目立つ観光地はない。地味だし、滋味がある。そして、そんな高輪が、私は大好きなのだ。

子供の頃、私はよく怯えていた。だって、なにか別の生き物がすぐ近くにいそうだったから。妖怪?そうかも。おばけ?そうかも。子供の空想。多分そう。でも、夕方になって空の向こうから紺色が押し寄せてくると、たしかに別の生き物の時間が始まるような気がした。私は走って家に帰った。うしろを振り返らない様にしながら。
いつも怯えていたから、私は引っ込み思案な子になっていった。もしかしたら、それは私の幼少期にとってあまりいいことじゃなかったのかもしれない。でも、そのお陰で私の想像力はたくましくなっていった。人間以外の存在をいまだにすっと信じられるし、それらの感情に勝手に共感できる。今、日本神話を歌っているのだって、そんな幼少期を過ごしたお陰なのかもしれない。

港区にはいろんな側面がある。「都会」だけじゃない。けれど、それがいい。画一的な場所なんて、つまらない。どの町もどんどん変わってゆくこの時代において、もう少しこのままでいてほしい、どこにも真似できない場所で、想像力を育む場所でいてほしいと願うのは、私の勝手な押し付けなのだろうか。

高輪にはビッグな目立つ観光地はない。だけど、町の空気感、それ自体が感じる価値があるものだ。何年も何十年もかけて培われたもの。たやすくコピー&ペーストできないもの。暖かくなったら、目的もなくふらふら歩いてみてほしい。ずっと昔に落としたなにかがみつかるかもしれない。


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このミュージックビデオは私自身の思い出を探索し再構築した作品です。妊娠・出産は、自分自身の子供の頃を頻繁に、そして深く思い出させてくれています。叶わなかった想いや、幼さゆえにしてしまった後悔、当時は意味がわからなかった出来事などをたどるかのように、出産後の初の映像作品として、生まれ育ち、慣れ親しんだ地で撮影を行いました。港区高輪エリア。駅は、都営浅草線泉岳寺駅、高輪台駅、JR線高輪ゲートウェイ駅、南北線白金高輪駅付近です。

*本事業は、MINATOシティプロモーションクルー認定事業の認定を受け、港区の魅力発信をしております。
港区 産業・地域振興支援部 産業振興課 シティプロモーション担当


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