精神科医から学ぶ「うつ病回復の7つのステージ」
うつ病は治りにくい。
そんなイメージをもっている人も多いのではないでしょうか。
うつ病の回復にもプロセスがあり、どのステージにいるのかを意識することで、より効果的にアプローチすることができます。
不知火塾 第16回目は、スタジオリカクリニック 田中理香先生による「うつ病回復プロセス~自己実現をめざすために」がテーマでした。
ユングの「錬金術」、キューブラー・ロスの「死の受容過程」、ハーマンの「トラウマ回復過程」などの解釈とともに、臨床経験に裏打ちされた独自の回復ステージを、わかりやすい言葉で説明いただきました。
この記事ではその一部を紹介します。
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なぜうつは治りにくく再発しやすいのか
うつ病の回復過程の最終段階では、生きがいや喜びを見出すことが重要ですが「生きがい」をもって復職できる人がどれだけいるのでしょうか。
「生きがい」を持っていたとしても、復帰後に仕事で満足することが出来ず、予想外の困難に直面する人も多くいます。
この「生きがい」や「喜び」は、物質的な事では解決できないため、薬物療法は無効であり、情緒的な成熟度を促す関わりが必要です。
特に愛着障害やトラウマを持つ人々は回復傾向にあっても、階段から落ちるように症状が悪化し、急な再発・再燃(フラッシュバック)や自殺リスクもあります。
心身症であり、感情や内的な情動が自覚されず、身体症状として表出する、うつ病。
自分の陰性感情、身体的違和感がわからないために、問題解決が遅れる可能性もあります。
これは安心感や安全感を感じられる自己の存在、つまり内的対象が不十分がゆえです。
内的対象の不足や未熟さは、未完成の発達課題と関連している可能性があり、それを完了させることで安定化します。
田中先生のおっしゃる発達課題は”情緒的な成熟度”を指し「トラウマがある」「自分自身を客観視できない」「セルフケアの能力不足」なども含まれます。
自律性を確立し、未完成の発達課題を完了させることがうつ病の再発防止に繋がります。
回復プロセス~7つのステージ~
うつ病の回復プロセスを7つのステージで説明いただきました。
このプロセスは、うつ病患者の状態を考え治療する際のロケーターになる得るとおっしゃいます。
1つずつ解説していただきました。
ステージ1:PSポジション(妄想-分裂ポジション)
ステージ1で目指すのは、安全な場所を作る治療同盟の確立。
この段階の患者は孤立し、感情的に混乱した状態で、他者への投影や攻撃などの他責的な傾向が見られます。
実際には、治療同盟と呼べるまでの信頼関係の構築は難しいそうです。
ステージ2:Dポジション(抑うつポジション)
ここでは自己との和解がテーマの一つとなり、自己を死に至らしめる怒りや妄想的な考えが出現。
対立する要素が結合し、ネガティブケイパビリティ(どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える力)が拡大することによって、葛藤が解決されます。
足が重くなり、重荷を背負っているような感覚が現れ、元に戻りたい、全てを終わらせたい気持ちが強くなる非常に危険な時期です。
目標や進むべき方向が見えず、まさに道なき道を歩んでいる感覚だと説明されました。
ステージ3:万能感放棄
愛着が安定化するステージ。
うつ病患者のなかには愛着障害を抱えている人も多くいます。
あるリワークでは、子ども時代に「絵本の読み聞かせ」をしてもらった経験のある人がいなかったそう。
情緒的なコミュニケーションや自分の感情理解が難しい人々は、絵本を楽しむ、絵本を通して人と交流した経験が少なかった可能性があります。
田中先生は、デイケアで絵本の読み聞かせを試みたところ、驚くほど治療的だったと述べられました。
読み聞かせをすると、物語の解釈への歪みや通常とは異なる解釈がみられたものの、やりとりの中で物語を書き換えていく体験もあったとのこと。
ステージ3に達すると、このようなアプローチに対する理解が高まり、自己との向き合いが必要だと感じられます。
薬以外にも、仲間が必要性に気付き、困った時に助けを求める愛着が安定化し、わずかに指標が見えてきます。
ステージ4:影の受容と統合
自己との和解が続くステージで、テーマになるのは抑うつ。
自分が無視や抑圧してきた感情に向き合い、失ったものは還らないことを理解し、過去を変えられないという事実を受け入れられます。
患者にとって非常に辛い段階であるため、主治医やスタッフ、家族などの支えを実感できると良いでしょう。
ステージ5:ペルソナの放棄
ペルソナを外し、自分の素顔に自分自身で気付き対応していけるステージで、過去の出来事を思い出し、自分の解釈で物語を作り出せます。
体裁を保つために作っていた仮面を外し、自責や他責だった自己を客観視できるようになるのです。
ステージ6:元型からの解放
意識レベルが広がり、過去の感情や行動の根源を発見できるステージ。
過去の出来事や感情に対して、あらゆる解釈が許容されると気付き、元型から解放されていきます。
例として、過去の上司への憎しみは、父親への憎しみから来ていたことに気付くこと(投影の引き戻し)を挙げられました。
ステージ7:個性化・自己実現
過去の出来事を見直し、それに新しい意味を与えることができる個性化や自己実現のステージ。
何らかの形で自然との一体感を持つと、新しいレベルの自己理解が可能になることもあります。
過去の出来事や感情に向き合い、自己の弱さや影の部分も受け入れることで再出発できるのです。
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この1~7のプロセスは逆行したり、問題が一度解決したら、今度は別の問題が起こったりもすることもあります。
田中先生は、このサイクルを人間の成長とも捉えられていました。
患者だけでなく治療者としても、ネガティブな感情や問題を言語化し、適切に扱うことで、バーンアウトや問題の発生を避けられます。
講座内では、この回復プロセスに沿って症例を紹介いただきました。
どのステージにいるのか意識する
ステージが変わっていくプロセスは、綺麗に移行するわけではないものの回復モデルの理解は大切です。
ジュリス・ハーマンの著作には、治療者自身が安全性や回復のパターンについて理解していることが、トラウマ治療の成果に影響をもたらすことが示されています。
治療者が治療モデルやパターンを理解しておくことで、治療の効果が高まる可能性があると締めくくられました。
強いトラウマ経験ではなくとも、自分の「嫌だった経験」を思い返し、それにどう対処してきたかを振り返りながら拝聴いたしました。
やはり誰かのせいにしたり、無かったことのように振舞ったりしていたことがあったと気付きました。
いつのまにか「そういう時期もあった」と思えるようになりましたが、お話で出てきた「自分で物語を書き換える」という言葉がぴったりでした。
表面からは見えにくいトラウマや葛藤にも気付けるよう、回復プロセスを意識して患者さんに接していけるようになりたいと思います。
学びのあるお話をありがとうございました。
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