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西和賀で生きるということ

西和賀で感じる違和感と可能性

人口の都市への一極集中、地方の過疎化が避けられない中、地域の存続or廃止にあたってはその地域住民の主体性・未来へのビジョンが問われることになります。自分が住んでいる西和賀町はこれまで行政依存、補助金・交付金依存体質が強かったが、これは、自分たちの暮らし・幸せを自分たちでつくるという主体性の欠如によるものだと考えます。また、その裏には、ふるさとへの誇りや自信のなさ、あるいは愛着を(時代遅れだからと)子どもたちには伝えてこなかったという背景があると思います。人口減少で税収が減り、行政サービスが縮小される中、西和賀でこれから子育てして生きて行こうとする若者にとって障壁になるのは、自分の手から離してしまった今の暮らし・生き方全般そのものです。住民たちが自らの意志で、必要な行政サービス、インフラ、暮らし方を取捨選択すること、すなわち自治の意識を育むことが今まさに必要で、その過程において様々な諸問題を解決する行動力が生まれ、持続可能な地域社会につながると考えます。

地方は本来「つくる」ことで溢れています。人口減少が激しい西和賀町は、例えば空き家問題一つとってみても他人事ではありません。私は昨年から、10年くらい空き家だったところを借りて暮らしていますが、隣も空き家で、去年雪の重みで家が崩れ、持ち主と連絡がつかず今も瓦礫のままになっています。裏は錦秋湖というダム湖があり、四季折々の景色が美しい。ロケーションが良く、観光客もよく通る駅前通りなので、役場に「暮らしの安全の面でも瓦礫を撤去してほしい」と頼んだところ、「一度例外を作ってしまうと他にも同様の事例が出てきてしまう恐れがある(隣の家のガレキ撤去費用は工務店見積もりで200万円)ため行政代執行は認められない」と言われました。他にも町内には持ち主と連絡がつかない危険な“特定空き家”がそのままになっています。近隣住民は見て見ぬ振り状態です。行政も住民もやらないと言うから、持ち主と直接やり取りをして自分たちで片付けることを決意しました。具体的な事例ではありますが、こういうところに暮らしの主体性を自らの手に持ってくる可能性があると感じています。実際、これから動き出そうとしているところではありますが、地域内でのコミュニケーションは以前より増えた気がします。多分似たような問題は、全国にあり、崩れた空き家の撤去問題は身近な地域課題の教材になるでしょう。そして、自分の頭で考え、創意工夫した先に豊かな生き方があると直感しています。


もう少し広い視点で考えてみます。自分たちの暮らしは自分たちでつくるという主体性の欠如は、地方だけでの問題ではありません。格差社会・リスク社会の日本において、大学進学・就職ではもはや幸せになれるとは限りませんが、他の選択肢が見えづらいため、若い人は可能性を求めて都市に出て行きます。ですが、都市に出たら幸せになれるのでしょうか。高校生の進路指導では、高卒と大卒の生涯年収の違いを見せられ「だから大学に行け」と言われてショックを受けたことがあります。就職してからは「その給料では結婚できない」と言われ、結婚したら「子供を育てないとわからない」と言われ、一体どこにゴールがあるのか、いくらあれば生きていけるのか、いまの自分のまま幸せでいてはいけないのか、ずっと疑問でした。そうやって、お金がなくては幸せになれない、西和賀町では幸せになれない、というのは本当にそうなのでしょうか。幸せを外に求めるのではなく、自分たちの頭で考え手を動かし、小さくても幸せに生きる活路を見出すチカラこそが必要ではないのでしょうか。

西和賀町は日本でも有数の豪雪地帯ということがあり、その厳しさ故に、開発から取り残された貴重な自然があります。圧倒的豪雪とブナの森は豊富な水の源であり、美味しい山菜・野草・農産物をもたらします。また冬が厳しいほど春の喜びは強く、暮らす人々の感受性を開花させ、自然が魅せる一瞬の煌めきは、足元にある幸福の大切さを教えてくれます。日々、絶景の中で暮らしていると小さな悩みは気にならなくなるものです。実際に70歳以上の方々と話していると「西和賀は良い町だ」「綺麗だ」「自然が豊かだ」と言った声が聞かれます。ここに、お金ではない、暮らしの豊かさのヒントがあるのではないかと感じているのです。自分の考える暮らしの豊かさとは、無いものを無駄に欲しがらず、そこの土地にあるもので、頭と手、人と人との関係性を活用した、求めすぎないシンプルな暮らしの営みのことです。人口規模が小さく、豪雪地帯という厳しい自然は人々に不便を与えますが、裏を返せば独自の価値観で生きることが可能であり(雪を活用した冷房装置による農産物の高付加価値化、夏働いて冬は遊ぶ等)、自分の頭で考え行動した人が大小あれども幸せに生きられる生き方を西和賀から発信していきたいのです。

また、西和賀町に暮らす一人一人が、「この町に住んでいてよかった」と自信と誇りを実感できる町にしていきたい。そのためにはまず、足元の価値に気づくこと、自分の半径5mを良くしようと主体的に動く人を増やすことが、様々な諸問題を解決し、持続可能な地域社会につながると考えます。岩手県で真っ先に消滅すると言われている西和賀町ではありますが、人口密度が低いからこそ農家さえいれば自給経済が成立する可能性があり、災害に強い町づくりができるはずです。人が減って税収が減り行政サービスが縮小する中で、自分たちの頭と手で小さくても幸せに生きる活路を見出すことができれば、岩手県だけでなく、日本全国の過疎で危機と言われる自治体へのロールモデルを作ることができます。そのことがやがて、西和賀で暮らす人々の自信や誇りに繋がるのではないでしょうか。

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