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ノキア失敗の原因は感情


破壊的イノベーションの被害者ノキア

かつては「北欧の巨人」と呼ばれ、携帯電話市場で圧倒的な存在感を表していたフィンランドの企業であるノキア。
しかし、2007年にAppleがiPhoneを発表して以降、ノキアは急速にその地位を失いました。

結果的に、ノキアは数年で携帯電話市場シェア40%から破産寸前に至ったことは、業界の破壊の危険性についてのよく知られた警告の物語となっている。

本記事では、ノキアがなぜiPhoneに敗れたのか、フランスのビジネススクールであるINSEADの教授であるQuy Huy氏の意見をもとに、その背後にある本質的な原因について考察します。

ノキアの低迷の要因は、「Appleに競争で負けた」ことではあるが、、、

スマホが普及したことによって、ノキアが今まで提供していたデバイスが市場から求められなくなった。
その市場の変化に対してノキアが対応しきれなかった。

しかし、Appleというゲームチェンジャーが現れ、なぜノキアが急激に変化した市場環境に対応できず衰退したのか?

ノキアの失敗の背後には、内部機能不全による社内の戦略的意思決定の問題がありました。それは、トップマネージャーの権威主義と全社での恐怖の文化がノキアに様々な問題を引き起こしました。このような環境では、適切な戦略を策定することは困難でした。

栄光から低迷への転落


iPhoneの登場

iPhoneの登場により、携帯電話市場は急激に変化しました。タッチスクリーン、アプリストア、エコシステムなど、iPhoneはそれまでの携帯電話とは一線を画すものでした。ノキアはこの変化に迅速に対応できず、市場でのシェアを急速に失いました。

Nokiaの低迷に関する詳しい記事はこの方のnoteの記事で綺麗にまとめられていたので、こちらを参照ください。

戦略的意思決定の失敗

ノキアの失敗の背後には、社内の戦略的意思決定プロセスに問題がありました。

トップマネージャーの権威主義と恐怖支配によって、適切な意思決定と社内の適切なコミュニケーションが阻害されていました。このような環境では、適切な戦略を策定することは困難でした。

ノキアの関係者へのインタビューで明らかになったのは、ノキアに存在する2つの恐怖である。

1つ目は、経営陣が感じる恐怖である。それは、外的要因によるノキアへの影響と会社の目標を達成できないことに対する恐怖心である。

この恐怖は経営陣をはじめとするトップマネージャーの気性を荒くし、社内に存在した恐怖の文化と相まってトップマネージャーと接する中間管理職に対して失敗できないプレッシャーを与えていました。

当時のノキアにはAppleのiOSに匹敵するほどのOSを作る必要性がありました。しかし、それだとすでにノキアが持っていたOSであるSymbianがiOSに劣っていることを公に認めることとなります。そうすることで、ノキアがAppleより劣っているとステークホルダーたちに思われることを恐れたのです。

2つ目は、中間管理職が感じる恐怖である。会社のトップマネージャーに対して恐怖を感じていた。社内のインタビューでトップマネージャーについて「気性が荒い」「大声で怒鳴る」といった、トップマネージャーに対するネガティブなイメージが挙げられた。

「挑戦的なプロジェクトに対して、チャレンジしたいが、失敗できない。自分には養わないといけない家族がいる。」

Who Killed Nokia? Nokia Did

当時の社内では、毎日解雇や降格の恐怖にさらされていたと述べられている。

負の感情のダイナミックス

Appleの成功に対する恐怖が、Nokiaのトップマネージャーに心理的な圧力をかけました。これにより、彼らはミドルマネージャーに対してさらに厳しい態度を取るようになり、恐怖と不安が社内に蔓延しました。この負の感情の連鎖が、戦略的意思決定の質をさらに低下させました。

恐怖と不安の影響

戦略の意思決定をするトップマネージャーに対する恐怖は企業にInertia(慣性)を生み出しました。このInertiaというのは、そのまま状態を維持する。という意味を持ち、ビジネスにおいては、過去の成功や考え方に固執し、停滞することを意味します。

Appleとの競争において、Appleより劣っているという現状を見ずに適切な戦略的意思決定ができなかったこと。言い方を変えると、Inertiaによって適切に状況を分析し、意思決定を下す機会が作れない環境ができていました。トップマネージャーが抱いていた恐怖が大きな要因の一つとして考えられます。

権威的な文化の支配

トップ層での否定的な感情のダイナミクスがコミュニケーションと戦略的意思決定にどのように悪影響を与えることが明らかになりました。

トップマネージャーはミドルマネージャーに対して失望させることを恐れさせるようにプレッシャーを日々与えていました。これにより、ノキアの社員たちが自己防衛に走ることになります。

企業の挑戦的なプロジェクトに対して、やる気や野心を持った社員が減ってしまったことは、企業が新たな試みをする可能性を低下させてしまいました。

ミドルマネージャーとトップマネージャーとのコミュニケーションはトップマネージャーにとって都合の良いものだけを伝えるものになってしまいました。

ミドルマネージャーが自分自身の立場を守るためにトップマネージャーを失望させないことが何よりの優先事項になっていました。
それは、上層部には、悪いニュースを含む企業の現状が全て伝わることはありません。さらには、情報を歪めて、ポジティブなことを伝える。言い換えると、ミドルマネージャーがトップマネージャーに対して嘘をつき、いい印象のみを伝えることを行なっていました。

情報は上に流れませんでした。トップマネジメントには直接嘘がつかれていました…チャートを持っていて、上司がデータポイントを右に動かして良い印象を与えるように指示した例を覚えています。それから上司がそれを上層部の幹部に報告しました。みんなが状況が悪化していることを知っている状況もありましたが、『なぜトップマネージャーにこれを伝える必要があるのか?それで状況が良くなるわけではない』と考えていました。この種の選択についてはオープンに話し合いました」

Who Killed Nokia? Nokia Did

復活への道のり

ノキアの復活は他社の同様なケースと見比べても非常に珍しいです。
それは、ノキアほどの大規模の企業が短期間で建て直しに成功したこと、さらに、事業転換することで復活を可能にしたことはメイン事業を変化させて新たな価値提供を行うパターンが多い中で珍しいことでした。

低迷期を経て、ノキアがAppleに屈したのは、Appleほど優れたプロダクトを作れなかったというノキアのテクノロジーの弱さが一因であるのは間違いではありません。

しかし、ノキアは社内文化の見直しと改善が最優先事項でした。
結果的には、恐怖の文化から脱却し、オープンで協力的な文化を育むことに成功しました。さらに、メインフレーム強化ではなく、新たな事業への転換を図り、成功を収めました。

社内文化の見直し 

2012年に取締役会が改編され、社内文化の修正が急務となりました。
取締役会と経営陣の感情的な関係を根本的に改善することに焦点を当てた。彼はノキアの戦略的停滞がオープンネスの欠如に関連していることを認識していた。

取締役会は、「ニュースがないことは悪いニュース、悪いニュースは良いニュース、良いニュースはニュースではない」という原則を用いて、過度に慎重で自己防衛的なマネージャーを殻から引き出した。

防衛的な振る舞いの改善と感情のバイアスを軽減するために、オープンな会話で失敗の可能性について明確に提言。さらに、業績が改善されない際の合意された行動指針を確立。
将来の行動を後で議論の対象とするのではなく、客観的な業績データに基づけることで、取締役は次の戦略的ステップを計画する際の感情によるバイアスの役割を減少させました。

また、取締役は、体系的なプロセスに基づいて、将来のシナリオの範囲を提示することを要求しました。
多様な選択肢をバランスのよく評価することで洗練された感情の立場を獲得しました。
これにより新たな戦略の可能性を考案するだけでなく、良い悪い関係なく、客観的に結果を予測することが可能になりました。

戦略のシフト

携帯事業からの企業全体のシフトチェンジはノキアの恐怖の文化をはじめとする古いアイデンティティからの脱却が伴いました。
それは、企業にとって大きな変化を伴い、アイデンティティがなくなるというリスクがありましたが、新たな戦略策定のプロセスにおいて、マネージャーの感情が変化し、新たな戦略に支持するようになりました。これは、会社全体がまた新たな方向に向かって進んでいくことを可能しました。

まとめ

上記でも述べたように、Nokiaが復活したケースは稀有なケースであり、尚且つ、時代が進むにつれて市場競争が激化した現代において、Nokiaのケースから学ぶことを多いと感じます。

ノキアの失敗の要因はノキア自身によるノキア自体の弱体化によります。その大きな原因となったのは、ノキアの恐怖の文化であります。
その文化は、ノキアで働く人々を内向きにしたことで、組織自体が弱くなっていたのです。

要するに、Appleが素晴らしいプロダクトを世の中に生み出したことはノキアが低迷するきっかけにすぎず、組織的なノキアの脆さによってノキアは低迷したと考えます。

Quy Huy氏の意見で面白いと感じたのは、彼のInertiaについての考え方です。

「職場には感情の場所がない。そのため、感情的なバイアスを「合理的」な異議に隠すことを学び、それが健全な議論であると自己確信し、それを頑固に守ることがよくある。」

How Nokia Bounced back

今まで積み上げてきたものを壊して、1からまた積み上げるのは、とても骨の折れる作業です。私は、Inertiaというのをそのような人間が誰しも持つ感情がビジネスの世界でも作用していると理解していました。

しかし、Quy Huy氏の意見はInertiaがビジネスの世界においてどのように存在しているのか、そして私たちがなぜInertiaを受け入れているのかを深く理解するきっかけになった気がします。

Quy Huy氏の研究はイノベーションに関してだけではなく、リーダーシップは取締役やミドルマネージャーなどの各役職が果たす役割についても言及しています。

参考文献

Quy Huy , INSEAD Professor of Strategic Management, and Timo O. Vuori, Aalto University Assistant Professor of Strategic Management(2018): How Nokia Bounced Back (With the Help of the Board)

Quy Huy , INSEAD and Timo Vuori , Aalto University(2015): Who Killed Nokia? Nokia Did

中川 雅博 : 東洋経済 記者(2019): スマホで敗れた「ノキア」が再び復活できた理由-大変革を率いた現役会長が語る激動の日々-


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