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より良いビジネスモデルはより良い企業戦略に繋がる。


ビジネスにおけるより優れた戦略とは何か?

他の企業より優れたリソースを獲得し、それらをうまく利用する能力を身につけ、優れた製品やサービスを作り出すことでしょうか?

市場を見極め、特定のターゲットに対して、魅力的な価値を提供することで、その市場でシェアを獲得することでしょうか?

どちらの問いに対しても私の答えは「はい」です。

以上の二つの疑問はより優れた戦略を構築するのに重要なことであることは間違いありません。

今まで企業戦略において重要なフレームワークや考え方は多く生み出されてきました。

例えば、上記で挙げた二つのうちの最初の疑問文は、Resource Based View(以下、RBV)といい、この理論の提唱者であるバーニーは、企業の持つ資源と能力が他の競合企業にとってどれほど模倣しにくいものなのか?という観点より、その企業の強みを見出すことができるフレームワークを確立させました。

企業戦略において重要なものはその企業の競合優位性とは何かです。

企業は、自身のビジネスをより成長させる、もしくは、より利益を生み出すために競合優位性を重視します。

現時点で、ビジネスで広く使われているRBVやマーケット・ポジショニングの考え方はこの競争優位性について議論する上で非常に重要なツールとして使われています。

例えば、RBVに基づき、企業の資産や能力を分析すると、それらが他の企業と比べて、どれほど優位なものになるのか、また、他の企業に比べて、どれほど優れた能力を持っているのかが見えてきます。

しかし、実際のケースを見ると、今まで私たちが使ってきた戦略のフレームワークだけでは見えないものがあります。

それは、ある企業の持っている資源や能力に競争優位性がなく、すぐにでもパクられる可能性があるのに、その企業はずっと市場の中で一定の成果を残し続けているパターンです。

言い換えると、今までのフレームワークでは、競争優位性がないと判断していたものが、市場の中で目覚ましい成果を残しているという場合です。

今回は、Gianvito LanzollaとConstantionos Markidesにより執筆された論文『A Business Model View of Strategy』を紹介します。

彼らの論文によると、企業戦略において、これまでの既存のフレームワークを改善させるのでなく、ビジネスモデルの概念が企業戦略の新たな見方として活用できると述べています。

特に上記で述べたように、企業の持つ資源や能力が他の競合と比べて目立った点がなく、市場参入障壁も低いといった、あまり競争優位性があるとは言えない状態で卓越したパフォーマンスを示しているケースを説明するのにビジネスモデルの視点は有益であると述べています。

ビジネスモデルとは何か?

ビジネスモデルの定義は存在しない!?

まず、ビジネスモデルについて説明します。

その前に、みなさん、ビジネスモデルはご存知でしょうか?

私は、ビジネスモデルと言われたら、「その企業はどのように儲けているのか?」という収益のシステムのことを連想します。
おそらくは、みなさんの思うビジネスモデルも私の考えるビジネスモデルのイメージとほぼほぼ一緒なのではないかな?と思っています。

実は、戦略理論、マネジメント理論の研究の界隈では、ビジネスモデルの明確な定義というのは実在しません。

ある学者は、ビジネスモデルはValue Proposition, Value Creation, Value Capturingといった要素で構成されているという意見を述べていますし、ビジネスモデル・キャンバスというフレームワークもビジネスモデルを表現するものとしてあげられます。

ビジネスモデルとは活動システム

未だに、ビジネスモデルに関しては様々な議論があります。
しかし、今回の内容においては、ビジネスモデルは「中心企業を中心に据え、内部と外部の境界を越え、価値創造と価値捕捉を繋ぐ活動システム」と定義します。


より噛み砕いて簡単に言えば、ビジネスモデルというのは、ある特定の企業を中心にして、様々なステークホルダーが関わる価値創造と価値捕捉に関連する一連の活動で構成されている。そして、それらの活動が相互作用することでビジネスモデルとして機能しているという意味です。

この組織の内外にまたがる価値提供と価値捕捉のための一連の企業活動間の相互依存関係は、戦略に対して新たな見方を与えるということです。

しかし、この相互依存関係についての議論が企業戦略の分野で展開されなかったわけではありません。
企業戦略とビジネスモデルの関係性を表す表現として、「企業戦略とビジネスモデルはコインの裏表である」と述べらます。ビジネスモデルのロジックは企業戦略を見ればわかるというほど、ビジネスモデルと企業戦略の密接な関係性にあるということは、すでに議論されています。

ビジネスモデルが戦略にもたらす新たな視点とは?

では、今回、ビジネスモデルの概念が新たな目線を企業戦略に与えるのでしょうか?

ここで、キーとなるのは複数の活動による相互作用によってビジネスモデルが成り立っているということです。
例えば、限られた種類の活動でも組み合わせ次第によっては多くのビジネスモデルの選択肢が存在します。

どのターゲットにどこでどの媒体で価値を提供するのかを考えるときに、それぞれに3つずつの選択肢がある場合、333で27通りのパターンが考えられます。
実際はもっと複雑であり、多様なビジネスモデルの存在の可能性が考えられます。

しかし、既存の戦略論に基づくと、それが限定されてしまう可能性が示唆されています。

何か新しいプロダクトを作る、新規事業をつくるときに何をするでしょうか?
おそらくですが、市場分析をし、どのターゲットにどのような価値を提供すべきかをという論理的なアプローチをとります。
それは、同時に多様なビジネスモデルの選択肢の可能性を限定的にし、似通った結論に達してしまう可能性を示しています。

この指摘は、戦略の分野における更なる理論やフレームワークの必要性を示しています。

より良いビジネスモデルがなぜ重要か?

そして、ここで言いたいこととして、考えるべきはより良いビジネスモデルをどう構築するかです。
言い換えると、より優れた活動の相互作用の関係性を構築することです。

執筆者は、このことについて、例を使って述べています。

企業Bが新たなビジネスモデルを導入した。それは、強力なビジネスモデルで企業Bに競争優位性をもたらした。しかし、そのビジネスモデルは容易に模倣することができ、他の競合がすぐにでも実践できるものである。
企業Aは企業Bと同じ市場にいて、企業Bの新たなビジネスモデルをまね、適応したが、企業Bがいまだに競争優位性を保っている。

それは、なぜか?

理由は3つです。

  1. 企業Aの元々のビジネスモデルとカニバっているから。いわゆる共食いです。企業Bのビジネスモデルを採用することで、企業Aが持つ元々のビジネスモデルに悪影響を及ぼしてしまいました。

  2. 企業A自体と合わない。両利きの経営という、全く異なるユニットをもう一つ作ることで、異なるロジックのビジネスモデルを一つの組織に両立させることができるという考え方がありますが、既存のビジネスモデルと新たなビジネスモデルの相性が合わずに、その企業では新たなビジネスモデルは効果的ではない場合があります。両利きの経営によって二つの異なるビジネスモデルによる対立は軽減できても、それを消し去ることはできません。

  3. 以上の二つが同時に起こることがあり、それはBにとっては好都合。企業Bの存在感をより際立たせることに繋がります。

AMBIDEXTROUS AS A NEW PARADIGM OF ORGANIZATIONAL SUCCESS

そして、これによって、競合となる企業を考慮してビジネスモデルのデザインを行うことで、競争優位性を獲得することができることが示唆されます。

ビジネスモデルの概念を戦略に組み込むことは企業のパフォーマンス向上に繋がるのか?

ここまで、ビジネスモデルとは何か?ビジネスモデルが戦略にどのような影響を与えられるのか?競争優位性の獲得にも関係するのか?といった問いに対して述べてきました。

最後は、企業のパフォーマンスについてです。

より良い企業活動の成果を残す上で、ビジネスモデルの概念を持ち込むことがどれだけ有益かを見ていきます。

より良いパフォーマンスを発揮する上で、既存の戦略論の場合、自分たちのいる市場のポジション、どのターゲットに対してどのような価値を提供するのかを明確にすることと、市場分析だけでなく、企業独自の資産や能力を保有していることで他社よりも優れたパフォーマンスを見せることができると考えられてきました。

しかし、既存の理論では、先ほどの例のような、ある企業が独自の変わったリソースや能力を有してなく、市場への参入障壁が低い場合でもその企業に競争優位性が状況の説明ができません。

筆者はファストファッション業界を例にこのように説明しています。

ZaraとH&Mという二つのリテールショップがあり、二つともファストファッションという同じ市場で、彼らの市場における人材や地理的な市場、ITのシステムに至るまで、特別なものはありません。
しかし、ZaraはH&Mとは明らかに異なるパフォーマンスを見せています。
このような状況において、ビジネスモデルによるアプローチは有効となります。

ZaraとH&Mのビジネスモデルは大きく異なります。

Zaraは垂直統合型のビジネスモデルを採用しているのに対して、H&Mはアウトソーシングよる他社へ依存するビジネスモデルを構築しています。

Zaraのケースは企業戦略の根幹にビジネスモデルのデザインを置いている例として挙げることができます。


企業が独自の変わったリソースや能力を有してなく、市場への参入障壁が低い場合においては、企業はビジネスモデルによって競争優位性を築いています。

実際に別の研究者の研究で、12年間の欧州小売業のパネルデータを用いて分析を行った結果、ビジネスモデルが企業のROA (資本利益率) と市場シェアのばらつきの5.1%と7.9%を説明できることを発見しました。
この研究は、欧州小売業において、ビジネスモデルが企業の収益性と市場シェアを決定する重要な要因であることを示唆しています。

まとめ

従来のフレームワークでは説明できない競争優位性の源泉
従来の戦略論では、企業の強みは独自の資源や能力、市場参入障壁の高さに求められてきました。しかし、模倣しやすいリソースや能力で高いパフォーマンスを発揮する企業が存在します。

ビジネスモデルがもたらす新しい視点
ビジネスモデルは、価値創造と価値捕捉を繋ぐ活動システムとして捉えられます。複数の活動の相互作用によって、多様な選択肢が生み出され、競争優位性を獲得できる可能性があります。

競合を考慮したビジネスモデル設計
競合企業との相互作用を考慮することで、より効果的なビジネスモデルを構築できます。既存のビジネスモデルとの共食い、両利きの経営との相性などを考慮することが重要です。

企業パフォーマンスへの貢献
ビジネスモデルは、企業のパフォーマンス向上に貢献します。特に、独自の資源や能力を持たない企業にとって、競争優位性を築くための重要なツールとなります。

事例:Zara vs. H&M
ファストファッション業界におけるZaraとH&Mの例は、ビジネスモデルが企業パフォーマンスに与える影響を示しています。垂直統合型のビジネスモデルを採用するZaraは、H&Mと比べて高い収益性と市場シェアを獲得しています。

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