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数年先の未来を見たレンズ

お盆休みのドライブ、初めてのデジタルカメラ。
美しい景色と、私の枯れた自信を観た。




今年のお盆のこと。

うちは前々からお盆休みだからといって特別何かをするような家ではないのだけれど、今年は家族みんなでドライブに出掛けた。

最近買い替えた家の車に、家族全員で乗り込んだのはたぶん初めて。
後部座席の左側、私はデジタルカメラを抱えていた。

何年か前に、父から貰ったデジタルカメラ。
カメラが欲しいなんて一言も口にしていないのに、ある日突然父がくれた。
何とも恩知らずな話だけど、そのまま貰ったことを忘れて一度も使っていなかった。

最近になって物を整理したとき、久々にカメラと再会した。
それで、家族ドライブの前夜、思い立ってバッテリーを充電した。


今年のお盆といえば悪天候で大変そうだったけれど、私たちがドライブに出たのは天候が荒れる少し前だった。
途中、昼間は少しだけ雨に降られたけれど、概ね天気が悪くなかった。

特に朝は、昼間と見紛うほどの灼熱の晴天。
高速道路の渋滞を予測して降りた下道、知らない田舎。
手前に田畑、奥に山。
その間を時折横切る電車。
被写体として微塵の文句もない景色だった。


数年前に貰ったカメラを、初めて構えた。


シャッターボタンを半押しして、ピントを合わせる。
そのままボタンを押し込むと、写真は撮れる。

しかし走行中の車の中。
景色は次々と後ろへ流れていく。
シャッターを切るタイミングは、今なのか。

撮ろうとピントを合わせては、やめる。
ピントを合わせる、やめる。
合わせる、やめる。


そうしていたって、「今」は訪れなかった。
シャッターを切るタイミングへの迷いだけじゃない。
いくら美しい風景とはいえ、家族でドライブ中の景色を撮るために写真素人がわざわざデジタルカメラを構えて撮るようなものなのかということにすら迷いを抱いてシャッターを切れなかった。

普段だったら、絶対スマホで撮る。
いや、そもそも撮りもしないかもしれない。

急にちゃんとしたカメラで写真を撮る自分を、どういうわけか良しとしない自分がいた。
ただ美しい景色を見ては、撮る手前でやめ続けた。
こんなことですら、一歩が出なかった。

そういうところだな、自分。


私の横で妹がカメラを面白がった、カメラを貸した。
妹は、おそらく私よりも写真のことを何も知らない。

シャッターの切り方を教える。
すると、窓を開ける。
カメラを構える。
ピントを合わせる。
迷わず、シャッターを切る。

妹が撮ったその景色は、私が狙った景色とは反対側。
ぶっちゃけ、そんなわざわざ撮るほどの景色でもなかったと思う。
だけどその写真には、写真を撮ることにすら躊躇してしまう私と迷いなくシャッターを切る妹の姿が、映ってはいないのに映っていた。


結局、車を降りた展望台で私は写真を撮った。
観るための景色を撮った写真。
けれど、妹の撮った写真が一番美しく見える。



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