オーソン・ウェルズ【黒い罠】|記憶に刻まれるスタイル
アメリカ映画|1958年|96分(劇場公開版)|Touch of Evil
U-NEXTで鑑賞
■オーソン・ウェルズ流、B級ノワール
芸術家肌でこだわり屋のオーソン・ウェルズが、B級フィルムノワールをそれに準じた期間と予算(いわば職人的に)で撮った映画です。
但し、撮影日数は超過したようですが、スタジオ側としては想定内だったようです。
ところで、私がこの映画を観たのは、今や愛読書となっている『B級ノワール論――ハリウッド転換期の巨匠たち』(吉田広明 著)で以下のテキストに出会ったからです。
■”スタイルのみで中空に浮き上がったような映画”
アメリカとメキシコ国境地帯を舞台に、メキシコ人麻薬捜査官が悪徳警官の不正捜査を追及する話です。
それぞれの街の刑事として、メキシコの刑事がチャールトン・ヘストン、アメリカ側の刑事がオーソン・ウェルズが演っています。
冒頭、メキシコ側の駐車場で、何者かかが地元の有力者の車に時限爆弾を仕掛ける。
間もなく、その車は発車し、街を移動し、やがて国境のゲートを潜り、アメリカ側の街で爆発する。
この冒頭から、爆発でカットが途切れるまで、長回しが持続します。
”スタイルのみで中空に浮き上がったような映画”とは正にといった感じで。
映画全体が、極端なあおりや、クローズアップ、パース、強いコントラス、劇画のような黒みで、グラフィカルな画面が展開します。
その後の撮影監督たちが多大な影響を受けたであろう画面に満ちているんです。
例えば、キャメラの動きや、人物の入れ替わりや、立体的な動きなんか、スピルバーグの映画が影響を受けているようにも感じました。
■スタイルは記憶に残る
実は、私はこの映画を観て、あまりにカッコいい画面の数々にも関わらず、内容はイマイチよくわからないところがありました。
また、切り返しの構図が歪んでいて、なにが起こっているのか、わからなかったのかもしれません。
にも関わらず、観てから時間が経過するほどに、面白い映画だったなとなるわけです。
これは、スタイルによるものではないかと思っています。
スタイルというは不思議です、映画がよく分からなくてもスタイルは記憶に残るもののようです。
■特別編集版の存在
当時、スタジオ側が無断で、映画の脚本変更と追加撮影・再編集を行なったものが劇場公開されトラブルに発展したと言います。。
その後、オーソン・ウェルズの意向に沿って編集された特別編集版(1998年)があります。
上記でわかりにくかったと書きましたが、どうやら私が観たのはかつての劇場公開バージョンだったようですので、改めて特別編集版を観る必要がありそうですね。
ということで、早速 特別編集版Blu-rayを購入しました。
また、観ましたら増補改定するか、改めて記事にします。
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