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50年前のITエンジニア ~エンジニアとしてのスタート~

株式会社アイネの安永です。
私は今から56年前にコンピュータ業界で働き始め、今は株式会社アイネの顧問をしている。私がコンピュータ業界に入ってからの56年間をその時々のエピソードを交えて話そうと思う。

かくして私は米国系ソフトウェア企業に就職した

私が関西の大学を卒業して、コンピュータエンジニアとしての第一歩を踏み出したのは、1967年4月のことである。それに先立つこと半年前、卒業を翌年3月に控えて、まだ自分の希望する就職先が見つからず、修士課程への進学も考え始めていた頃のことである。就職担当係からの貼り紙を学内で見つけ、一人のアメリカ人事業家が来春の卒業生を採用したいと言うことなので、時間がある学生は是非参加してほしいとのことだった。社長自ら単身で大学に乗り込んでくるなんて面白そうな人だなと思い、話を聞いてみることにした。
そのアメリカ人はバーストンといった。「自分はアメリカ人で、日本で初めての外資系のソフトウェア会社を始めたいので学生を採用したい。アメリカからソフトウェアの製作を受注し、優秀な日本人の頭脳でプログラミングを行い、再びアメリカへ輸出する仕事をしたい。日本が得意とする加工技術をプログラミングに応用したい。」とのことであった。
私が専攻していた制御工学科はコンピュータに一番近い学科であったとはいえ、ソフトウェアの勉強をしたことはなかった。コンピュータと言えば大型汎用機を指し、ソフトウェアといってもハードウェアの付属品にしか過ぎなかった時代であり、日本初の独立系ソフトウェア開発企業であるCSKもまだ設立されていなかった(CSK設立は1968年)。
そのような時代にソフトウェア企業を日本に設立し、日本人の若い頭脳を開発したい、是非諸君に協力して頂きたいと熱く語りかけるバーストン社長の姿は、初心な学生の目を見開かせるには充分な衝撃を与えてくれた。
ソフトウェア企業とは何なのか、アメリカのソフトウェア開発とはどういうことなのか、わからないことだらけだった。それでもバーストン社長を信じ、日本に全く基盤や実績のない、アメリカ資本のソフトウェア会社の一員となるべく、上京したのであった。

Meta コンパイラとの格闘

全国の大学から無知で無謀な学生達を約10名集めてきたバーストン社長は、世田谷にある大きな民家を借りて、寮兼学習室として、毎日英会話の勉強をさせていた。社内には社長以外には、秘書の女性と勤続1年にならない社員の2名がいただけである。午前中は英国人の教師を相手に英会話の勉強をし、午後はコンピュータ関係の英文書籍を片手に明け暮れる日々であった。社内及び寮内(同じ場所であるが)では、日本語の使用が禁止であり、英語漬けの日々であった。三食付きの寮で、通常の会話はもちろんのこと、夕食後のフリータイムに麻雀をするときでさえ、英語しか使えない。ポン(pung)、チー(chow)はそのままとしても、One Bamboo(一索)、Two  Dots(二筒)等など、苦労をしながらの日々であった。
そして、その3ヶ月後、横浜山下公園近くの真新しいビルの7階の一室を借り、仕事を始めることになった。山下公園と横浜港を眼下に見下ろす素晴らしい眺望、そして真新しい木製の机と椅子に、バーストン社長がこれからやろうとしているソフトウェア企業への意気込みが感じられた。と言ってもアメリカからの受注があるわけでもなく、最初の仕事はこれまでの勉強の継続である。ACM(*1)が発行した機関誌の記事を翻訳して内容を理解すると言う のが最初の課題であった。その中に出てきたキーワーが“MetaCompiler”(*2)である。何の基礎知識もない、コンパイラが何なのかも判らない新人に最先端の論文の中で出てきた"Meta Compiler"を理解せよ、と言うのだから、無謀もいいところである。小グループに分かれて、辞書を引き引き、理解に努めたが、結局、"Meta Compiler"が何であるかは、数ヶ月かかっても全く理解できなかった。今になって思うには、現在の米科学誌「サイエンス」や総合科学誌「Nature」に掲載されている量子コンピュータに関する論文を独学で勉強するようなものだから、所詮、無理な話である。とにかく英語に慣れろ、と言うことだったのかもしれない。
英語漬けの勉強は更に数ヶ月続くが、その後、いよいよアメリカからのソフトウェア開発の仕事を受注し、始めることになる。それについては次号に続く。

*1)ACM(Automation for Computing Machinery)
コンピュータ科学や情報技術に関連する専門家や研究者のための国際的な学術組織、アメリカのコンピュータ業界で最高の地位を占めている。

*2)Meta Compiler
コンパイラを生成するためのツールで、メタ言語と呼ばれる特定の言語を使用して新しいコンパイラの動作や機能を記述する。メタコンパイラを使用することで、新しいコンパイラを比較的簡単に作成することができる。特定のプログラミング言語に特化したコンパイラの開発や、コンパイラの最適化、拡張機能の追加などにも役立つ。一般的に、メタコンパイラはコンパイラ設計の研究や教育の分野で使用される。


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