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【読書記録と紹介】「第2言語ユーザのことばと心 マルチコンピテンスからの提言」


従来の言語研究は、「人間は一つの言語しか操れない」(いわゆるモノリンガル)前提で成り立っており、「母語話者」と「第2言語の学習者」という捉え方が根本にありました。
またその第二言語学習者は「母語話者(ネイティブスピーカー)と常に比較され、母語話者(ネイティブスピーカー)が常に正しく、言語に関連する全ての面において「第2言語学習者の目標」とされてきました。
第2言語自体があくまでも「永久的に学習の過程にある言語」で、母語とは脳内で独立した存在だという考え方が目立っていました。
つまり「(程度に差があっても)第2言語を駆使する使用者」という視点が抜けていたわけです。

これとは対照に、第2言語習得研究、応用言語学、言語教育等の分野で1990年代以降に出てきたのが「マルチコンピテンス」、つまり「複合的言語能力」の考え方です。
この考え方では、母語と第2言語は脳内で独立した状態で存在していなく、一つのシステムであるというのが根底にあります。
そして第2言語を操る者を広義に捉え、「永久的な学習者」として定義せずに、「ユーザ(使用者)」として定義されています。
(人によっては、その言語の学習をする事があっても、その人個人が生活の全てにおいて学習状態にはないため。)

それまでは、言語間での影響も「第一から第二」(しかも主に母語の影響による「学習者」の間違い)しか存在しない前提でありましたが、近年は相互的な影響についての研究が進められています。その影響は必ずしも悪影響ではなく、非常に些細であるものの、統計的有意性があるとされています。
また文科省の英語教育方針や英語教育についても触れており、実際行われている教育は「複合的言語能力」の概念とはほど遠いと指摘されています。(内的要因の軽視傾向、コミュニケーション重視傾向、母語話者と常に比べる傾向、学習環境における母語による指導の否定等)

所感:
英語に関して言えば、母語話者よりも第二言語使用者の方が多いので、尚更この複合的言語能力に基づいた考え方が重要になってきているのではないかと思います。また英語に限らず、人間と言語そのものに関してまだ解明されていない部分が多いという点で、従来の考え方とは違った考え方によって研究が行われているという事を知る事が出来る書籍だと思います。

余談ですが、2か国語が操れる脳内において、各言語が完全に独立した状態ではないというのは、「夜に見る夢」で実際に体感しています。
自分自身の場合、夢の中で日本語を喋っている時もあれば、英語を喋っている時もありますし、両方が出てきている夢も見たりします。夢の中の自分と夢に出てきた別人(他人)がどちらも違う言語(片方は日本語、片方は英語)で会話をし、なぜか普通に会話が成り立っているという、現実ではありえない事もあったりします。
夢の中での言語は、当然ながら寝る前に決める事は出来ないわけです。(バイリンガルも非バイリンガルも、夢の内容を事前に決める事が出来ないというのと同じですね。)




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