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~10年の淡い恋~(だいたい2000字小説)

私は当時17歳のアイドルの子に恋をしていた
彼はまだ芸能界に入ったばかり、デビューして間もない
初々しさの中にも凛としたものを感じさせる
そんな彼を見たのは某テレビ番組だった

私は一目見て彼の事を好きになってしまっていた
毎日テレビ番組やネットなどで彼の情報を探し回っていた
彼はSNSをやっていたので、すぐにフォローをした

やり取りなんて出来るはずはない
そう思っていた
ある日、私は彼の好きなアーティストの事をツイートした
すぐにイイネがついた
なんとそれは彼からだった
私は嬉しさのあまり、スクショまでして画像を保存した
心臓がドキドキした

ある日、彼の生配信があると言うお知らせが
これはどんな事をしても「リアルタイムで観たい!」そう思った

配信がはじまった
チャット欄が激しく動く
私も一生懸命に文字を打つが、流れが早くて目が追い付いて行かない
そんな中、突然体がビクンと波打った

彼が私の名前とコメントを読んでくれた

彼の好きなアーティストの事を話したのを覚えていてくれていた
私はもう彼の虜になった

何年も何年も彼を追った
そして、彼は手の届かない位までのスターになっていた

年月は過ぎ、10年近くたった頃
彼はアイドルからアーティストを経て立派な俳優になっていた
人気のドラマや映画の主演も務めるまでに……

私は変わらず、彼の応援をしていた
ファンクラブに入り、イベントなどにも足を運んだ事もあった
ツイッターにも毎日コメントを残した

ある日の朝、DMが届いた

「いつも ありがとう」

彼からだった!
思わず返事を書いた

「こちらこそ ありがとうございます」

彼からの返事は期待しないで待っていた
すぐに返事が来た

「ずっと応援してくれててうれしいよ。君の言葉にいつも勇気と元気をもらっていたんだ」

私は嬉しくて涙が出た

「いえ、こちらこそいつも元気をもらっています!お体に気を付けてこれからも頑張ってください」

涙で文字を間違わないように慎重に打ち直した
それからは毎日のように、彼とメールをした
本当に夢のような幸せな日々を過ごしていた

励まし、慰め、褒めて、愛情の全てを注いだ
私は10年間恋をしていた

彼の言動にも少しずつ変化がおきてきていた
どうやら、彼も……いや、期待はしないようにしよう

私は、あーちゃんと言う子と仲良くなった
いつもメールで話をしている
彼女はもちろん私よりも年下だ
いつも私の活動に積極的に協力をしてくれた
私のツイートのリツイート、彼へのリプへのイイネなど
私の知らない情報も色々と教えてくれた
彼女はずっと若いので彼のファンではなかったが、私の応援をしてくれていた
私も彼女には絶大な信頼を置いていた

「ねぇ彼、絶対に好きだと思うよ」
彼女の言葉に私は頬を染めた

意識をすればするほど、心が締め付けられる思いをした
叶わない夢……叶えてはいけない夢……
大きく深呼吸をして、毎日を過ごした
彼が楽しそうに他のファンと話をしていれば、辛くなった

(ダメダメ、こんなんじゃ!)

彼は遠回しに私に愛を注いでくれていた
私と会いたいのだという事も感じていた
そのたびに私はそれとなく、気がつかないふりをした

友達のあーちゃんは私に

「会えばいいのに」と言ってくれたが、私はそれだけは出来ないと言った

彼はますます忙しくなり、私との連絡もあまり出来ない状態になっていた

(そろそろ、夢から覚める頃かしら)

私はそう思っていた
覚悟を決めないといけないと思うと同時に、胸が苦しくなった
毎日、訳のわからない涙が出た
家族の前では明るく振る舞っていたが、一人になるとこらえられない涙が出た

あーちゃんはそんな私に

「好きになるのって、そんなに悪い事なの?」と聞いた
「そんな事はないわ。あーちゃんは思う存分恋をしてね」

私は彼女にそう言った

「変なの。好きは好きでいいじゃない!会いたかったら会えばいいのよ」

彼は海外の映画に出るために日本を離れていた
慣れない海外の撮影はかなり彼のメンタルをダウンさせていた
私は何度か彼に励ましのメールをした
彼からは返事ともとれるようなアクションしかなかった
返事らしきものがないのは、すごく寂しかったが、彼の仕事の忙しさも想像できたので、我慢出来た

そして、彼が海外にいるという事は、別の意味で安心感があった

(会う会わないで悩む事は今はしなくてすむ)

もう少しだけ彼の事を思っていられる

もう少しだけ……もう少しだけ

終わりが近い恋は、待っているだけで辛い
このまま、違う世界に行ってしまいたい

海外の仕事を終え、彼は帰国した
すぐに彼から会いたいと連絡が来た
私は迷った末、今は忙しいので会う事は出来ないとお断りをした

それ以降、彼からのお誘いのメールには色々と理由をつけては断った
そろそろタイムリミットが近づいてきたのかもしれない
本当に楽しい、幸せな10年間だった
彼に別れを言うのは本当に辛い事だったが、最後の言葉を考える事にした

家の階段をトントンとあがってくる音がした

「ばぁば!ご飯だって」
孫のアキコが呼びに来た
「はいはい、今行くよ」

アキコはドアを閉めようとして、振り返った

「好きなら好きでいいじゃん」
「えっ!?」
「会いたかったら会えばいいじゃん」
そう言うとアキコは階段をトントンと降りて行った

涙があふれてきた

仲良くしてくれてた“あーちゃん”は孫のアキコだった!
何故、今まで気がつかなかったのだろう
あんなに親身に相談に乗ってくれていたのに……あの子は私をずっと応援してくれていた

私はその喜びに彼との10年間も幸せに終わらせる事が出来そうだと本心で思った

彼27歳、私57歳の淡い恋は終わった

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