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トーハクとネズ Vol. 1

大学の用事で東京に行ってきました。春学期真っ最中に、オンラインで講義を受けながら、カナダから東京への弾丸帰国ではありましたが、色々楽しいこともありました。東京で働く従姉妹の娘たちに会ったり、日本へ帰ってしまったプロダクション・デザイナーに会ったり、短いながらも会いたい人とはちょっといい時間を過ごしました。

そして、何よりこの旅での初体験は、東京国立博物館根津美術館を訪れたこと。短大生の頃、何年も東京に住んでいながら、なぜ一度も訪れたことがなかったのか不思議でならないけれど、トーハクとネズを訪れたのは、ある理由がありました。

日本美術史入門

今春学期、ちょっと違った楽しい勉強(学部の勉強も楽しいけれど)もしてみたいと「日本美術史入門」というオンデマンド科目を履修しました。もともと美術は大好きだし、好きなことを学んで単位が取れるならこんな良い事はない。しかし、一つ気になるのが、最終課題の「日本美術の展覧会レポート」。うーん、カナダに住んでいて、これは難関。大学に問い合わせてみると、カナダに居ながらできる範囲でいいよ、という好意的なお返事。

どうしても必要なら、日本美術コレクションが豊富なボストン美術館(Museum of Fine Arts Boston)に行けばいいや、と考えながら日本美術史入門の講義は始まりました。「入門」というだけに、この科目は縄文・弥生時代、日本美術の原点から、「ゲージツはバクハツ」の岡本太郎が先陣する現代美術まで、歴史を辿って日本美術のすべてを見せてくれる、なんとも盛り沢山なお勉強でした。「美術」といったら、やたら西洋美術しか頭に浮かばない私に、言われてみれば美術の教科書でみたことあるなあ、という日本画作品の数々は日本美術の奥深さを教えてくれ、改めてその美しさに感心する学びでした。

そして、アマゾンジャパンで取り寄せた指定教科書『日本美術史』(美術出版社 第6版)は、本体と送料がほぼ同じ金額の痛い出費であるものの、そのずっしりした装丁と全ページカラーのグラフィックの美しいこと。学生の頃、美術の教科書を飽きるほど見ていたな、と懐かしく思い出すことしきりでした。

表紙は伊藤若冲『紫陽花双鶏図(部分)』裏表紙は長谷川等伯『松林図屏風(部分)』
若冲はエツコ&ジョー・プライスコレクション

東京国立博物館 親しみをこめてトーハク

上野駅を出て、上野公園方面へ、上野動物園くらいしか来たことのないこの界隈。しかし、今回上野公園内の地図をよくよく眺めてみるとトーハクこと東京国立博物館にはじまり、最近クラファンで話題になった国立科学博物館、黒田清輝作品を保存する黒田記念館、ロゴがおしゃれな国立西洋美術館、ぐっとモダンな雰囲気の漂う東京都美術館、日本を代表する芸術家を輩出し続ける東京藝術大学大学美術館(1万点をこえる卒業制作品所蔵、「買上」制度あり)などなど、博物館と美術館が立ち並ぶ文化の杜。

ここに書き記すにはあまりに盛り沢山な国立博物館150年の歴史は、博物館ウェブサイトの「創立150周年記念特設サイト」でじっくりと辿ることができます。特に動画「ファミリーツアー トーハク劇場へようこそ」は、子どもにもわかりやすい博物館の歴史をユーレイ(!)のお二人と一緒に紹介してくれます。

初代館長 町田久成は、薩摩藩第一次英国留学生を率いて英国に渡った薩摩人。後に、アメリカ合衆国カリフォルニア州でワイン王と称賛された長澤鼎も、この第一次英国留学生として最年少で英国に渡った一人です。
町田久成は、1867年パリ万国博覧会に続き、1873年ウィーン万国博覧会へ公式参加した日本政府の出品物を、博覧会に先駆けて湯島聖堂博覧会で披露することに尽力し、名古屋城の金鯱などを展示しました。

横山松三郎撮影 明治5年聖堂博覧会関係者の記念写真 
前列左から3人目が町田久成
(出典:ウィキメディアコモンズ / Staff of the Yushima Seido Exposition in Meiji 5.jpg)

第2次世界大戦下で戦禍をのがれた本館の重厚なセンターホールの階段を上り、2階にある展示物を、まさに日本美術史入門と同じく歴史を辿って観賞します。日本美術のあけぼのから浮世絵まで、縄文・弥生・古墳時代から江戸時代を、仏教、水墨画、茶の湯、屏風と襖絵など、それぞれ違うテーマで取り上げた展示作品の数々が並びます。

レトロな雰囲気のセンターホール大階段
手の込んだ照明の光と格天井から入る自然光の美しい空間
時代、テーマごとに分けた展示品説明パネル

小津安二郎ファンは、原節子演じる間宮紀子が「お母様はお父様と博物館」と親友アヤに伝える『麦秋』の台詞を思い出すかもしれません。本館前の池の淵に座ってサンドイッチを食べる、周吉(菅井一郎)と志げ(東山千栄子)。池の周りの様子は今とは違っているけれど、1946年、戦後まもなく再開された東京国立博物館の当時の様子が見て取れます。

仏教美術にはどこか、昨年イタリア各地でみた宗教画(Summer in Italy 2022/Vol. 1~3 記事はこちらから)に似たテーマや流れを感じるのは私だけかもしれませんが、トーハクでも日本美術史入門でも、一番関心が傾いたのが仏教美術。その仏教美術をちょっと変わった展覧会から堪能する根津美術館はまた後ほど。

All Photos on this article by Eiko Kawabe Brown 


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