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今日も僕は店員に聞けない。

うちの奥さんと近くのスーパーに行った。ある健康器具を買うのが目的だった。スマホの情報でこの店で商品を扱っているとのことだった。

「あれー?どこにもないわねー?」と彼女の声。

確かに健康器具の売場を見ても見つからない。あちこち探しても、お目当ての商品はどこにもなかった。

「ここは大型店舗じゃないからじゃない?」と私は言った。
大型店舗はちょっと遠いので、同じ系列の近くの店に来たのだった。

「きっとあるはずよ!私、ちょっとレジの店員に聞いてみるわ!」

そう言うと、彼女はそそくさとレジカウンターに向かって行った。
彼女はとにかく、何かわからないことがあると、すぐに店員に尋ねる。そんな彼女に、私はとても感心をする。

私はそんなことが出来ない。
店員に、気軽に何かを尋ねることが出来ないのだ。

理由としては、たぶん私も長いこと、同じ接客業の仕事をしていたからだと思う。

いや、それなら店は違うにしても同じ職種の店員同士、気も知れているし、何か物を尋ねるなんて、逆に聞きやすいだろうと思われるかもしれない。

それが更に逆なんだ。

気が知れているから聞けないんだ。

もしも忙しいときに聞いてしまったらどうしよう?何かの仕事の途中ではないだろうか?それとも別のお客さんの対応中ではないだろうか?もしや上司にミスを注意されてしまったり、前のお客さんが不機嫌になるような対応をしてしまい、落ち込みすぎて上の空じゃないだろうか?などなど、そんないらぬ心配をしてしまう。

気にしすぎではないだろうか?と思われるかもしれないけど、案外、店員には、しょっちゅうあることなのだ。

そんな私の心配をよそに、奥さんがレジの店員に聞いている。それを少し離れて見守る私。

ちゃんと笑顔ではきはきと答えている店員さん。

「こちらの店では注文になります」と
申し訳なさそうに丁寧にお辞儀をしている。

神様だ、私は思う。

「お客様は神様です」なんて言葉があるけれども「笑顔の店員は神様です」と、この際言い切ってもいいのではないだろうかとさえ思う。どんな仕事においても同じことは言えるけれど、いろんなストレスを抱えながら、私たちは日々の仕事をしている。接客業の仕事としては、その最たるもののひとつと言えるのだろう。

気の短いお客さんの対応に傷ついても、そのすぐ後には、笑顔で次のお客さんの対応をしなければならないんだ。まわりの人たちからすれば、それは当たり前に思うかもしれないけれど、私にとっては、それは本当に辛くも素敵なことなんだ。

「注文になるんだって、ざーんねん!」って彼女も笑顔で私に教えてくれた。本当は、とてもがっかりしたはずなのに、さっきの店員さんの笑顔が、彼女にそんな笑顔を作らせたのだろう。私も自然と笑顔になる。

なんて思っていたら、もう彼女は別の店員に何か別のことを尋ねている。ちょっと困り顔で答えている店員さん。何かはよくわからないけれども、あぁ、ごめんなさいと、申し訳なく思ってしまう。

そんなこんなで、今日も僕は店員に聞けない。

だから、わからないことは、みんな彼女が聞いてしまう。
いや、そんなんじゃダメだ。

いつかは私も店員に聞こう。

教えてくれた笑顔の天使に「ありがとう」と明るく答えるために。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一