いつかイチョウの木の下で。
秋の終わりの少し前のこと。近所にあったとてもきれいなイチョウの木を、彼女はほんのひととき、楽しみにしていたらしい。
うちの奥さんは、パート先の店まで自転車で行くのだけど、毎朝、その途中にあるイチョウの木を眺めつつも、急いでるので、どうしてもそのまま通りすぎてしまう。
いつかちゃんとペダルを止めて、その木の下から見上げるように眺めてみたいと、いつも心に思っていたそうだ。
「だってね、すごくきれいなのよ。そのイチョウの木はね、赤く染まったところと黄色く華やいだところとがあっ