海外だけじゃない、日本のショコラトリーとチョコレート菓子の魅力
寒い冬がやって来ると、どういうわけかチョコレートが無性に恋しくなる。ひとかじりしただけで満たされていく、頭の中から溶かされていくような甘い魔法のお菓子。
宝石みたいなボンボンショコラや、冬の散歩で飲む贅沢なホットチョコレート、温かい飲み物と一緒に食べたい密度の高いガトーショコラ。冷えた空気を感じながら口の中でチョコレートを溶かす時間のなんと甘美なことか。
年が明けてすぐの1月、2月はバレンタインデーに向けて世の中がチョコレート一色になる。百貨店の催事場や商業施設には特設コーナーが設けられ、かく言う私もそのお祭りモードに当てられるうちの一人。
今回はチョコレートシーズンの真っ最中!ということで、数あるバレンタインデー前の日本のチョコレート売り場でも特に人気を誇る、サロンデュショコラというチョコレートの祭典のお話をはじめ、日本のショコラトリー&日本のめずらしいチョコレート菓子のお話をしたいと思います。
◯サロンデュショコラとは
年に一度行われるフランス、パリ発のチョコレートの祭典。毎年1月中旬から2月の上旬まで行われているチョコレートの販売イベントです。(この数年は新宿伊勢丹で開催、今期は終了しています)
普段日本では買うことができない世界中のチョコレートをはじめ、日本のショコラトリーも多く出店しています。
宝石のような色とりどりのボンボンショコラ(一粒のチョコレートの中に半生食感のガナッシュが入ったりしている二段構えの構造が多い)や、サブレやパウンドケーキのようなチョコレートを使った焼き菓子などが各お店のショーケースに並びます。
私はこの5、6年とほぼ続けてサロンデュショコラに足を運んでいるのですが、今回は今年を含め直近3年間にサロンデュショコラ東京会場で出会った日本のチョコレートたちのお話をしたいと思います。
なぜ海外のチョコレートじゃなくて日本のチョコレートに絞って紹介するの?と疑問に思われた方もいるかもしれません。
毎年サロンデュショコラでは、どちらかというと普段買う機会が少ない海外のショコラトリーに人気が集中し、長蛇の列ができていることも多い状況です。
私は海外国内問わず気になるものがあったら購入するというスタンスなのですが、せっかくならば同じく魅力的なチョコレート菓子がたくさんある日本のショコラトリーにも興味をもってくれる人が増えたらいいなと思い、今回は日本のチョコレートに焦点を当てさせていただきました。
チョコレートをメインに扱うショコラトリーはケーキ屋さんに比べると数が少なく、どちらかというと日本ではケーキ屋さんの一角で販売されている率の方が高いかもしれません。
けれど日本にも百貨店に入っているようなお店以外にも個人店としてチョコレート専門店をやっている素敵なお店が実はたくさんあるのです。
◯le bonbon et chocolat (ボンボンショコラ、滋賀県)
滋賀県長浜市で営むお店。店舗ではチョコレートだけではなく、ケーキや焼き菓子も販売しているそう。そんな中でも今回思わず食べてみたい!と購入を即決したのはチョコレートでコーティングされたオレンジサブレ。
オランジェット(オレンジのコンフィにチョコレートをかけたもの)はよく見かけるけれど、サブレにオレンジを混ぜてチョコレートコーティングするなんて聞いたことがない。
なんとサブレに混ぜ込んだオレンジの皮と果肉は稀少な国産のバレンシアオレンジを使っているそうで俄然興味津々。
食べてみると控えめながらも爽やかなオレンジの香りが口の中で漂って、ビターなチョコレートの風味が鼻に抜ける。ザクザクとした粒が大きめのサブレの食感も相まって、何枚でも食べられてしまいそうな癖になる味です。
◯PRESQUILE chocolaterie(プレスキルショコラトリー、東京都)
東京都武蔵野市にあるショコラトリー。カカオ豆の状態から作り上げるビーントゥーバーチョコレートのお店でもあり、自社ワイナリーのワインを使ったボンボンショコラを作るなどユニークなお店。
比較的都心に近くてアクセスしやすい場所にあるので、ずっと気になっていはいたのですが食べるのは今回が初めて。
選んだのは2023年の新作「インスピレーション」ボンボンショコラが4つ入ったコレクション。長野県で栽培されたオールドローズ、熊本県でつくられた金木犀、徳島県産の木頭柚子、石垣島で栽培されたバニラ。
メインとなる素材はすべて国産のものを選び、それぞれに合うようなカカオを選んで作られているそう。
国産のフルーツを使ったチョコレートはいろんなお店で見かけるけれど、このコレクションに使っている素材が一度に食べられる詰め合わせはきっと中々出会えない。
オールドローズのチョコレートってどんな味!?日本でバニラって栽培できたんだ!と興味津々で購入して、まず一番最初に食べたのは木頭柚子。
無添加の木頭柚子(粉末状)の入浴剤の匂いを嗅いだことがあるのですが、本当にそのままで、いい意味で青くささの残る柚子の鮮烈な風味。チョコレートがしっかりと土台を守っているけれど、柚子のシャワーを浴びているかのように前面に出るのは柑橘のフレッシュさ。
フルーツを使ったチョコレートはかなり出回っているけれど、ここまでの鮮烈さを保ったまま口に届けることができるなんて完全に不意打ちでした。まだ食べていないフレーバーも食べるのが楽しみです。
◯NaomiMizuno(ナオミミズノ、京都府)
一口食べて感動したあの日から「杏と塩」というチョコレートを毎年買い続けている。
まだサロンデュショコラに行き始めたてのころ、同じく会場に行った友人が知り合いから勧められたからと買ってきたチョコレートを一つ分けてくれた。(一粒そのままくれた友人の懐の広さよ……)
半分かじって口に入れた瞬間、ぶわっと花が開くように杏の香りが広がってミルクチョコレートの甘さ、合間でアクセントの塩が引き締める。
角がなくどこまでもやさしいチョコレートだった。うっとりとした夢見心地の状態からなかなか帰ってこれなくて、いつまでも口の中の余韻を味わっていたかった。
初めての感覚が忘れられなくて、それ以降ずっとこのチョコレートを買い続けている。お気に入りの味です。
◯meiji(メイジ)
2016年に行われたリニューアルをきっかけに大ブレイクした「meiji THE chocolate」大手メーカーがカカオ豆の選定から口に入れた時の風味の広がり方を考え、タブレットの形状を変えるなど目新しいチャレンジはかなりのインパクトを残しました。
そんなmeijiさんもサロンデュショコラに出店していて、私が2021年に購入したのはホワイトカカオと水で作られたガナッシュのボンボンショコラと、カカオパルプ(近年注目されているカカオの果肉)のソースが入ったボンボンショコラの詰め合わせというなんともユニークな掛け合わせ。
カカオパルプは初めて口にしたけれど、酸味が強くてフルーツの果汁を連想させる味だった。
meijiはサロンデュショコラでのブース作りや企画の仕方がおもしろいと思っていて、企業ならではの立ち位置というか研究者目線というか毎回独特の視点でチョコレートの魅力を紹介している。
ある年は、カカオが産地、発酵、焙煎でどう変化するか、やカカオ農園〜チョコレートができるまでの様子がわかるジオラマ展示、ホワイトカカオの発酵をコントロールし白の色味を残すことに成功したプラントベース(植物性)ミルクの提供など思わず興味をもつような仕掛け作りにハッとさせられました。
◯W,Bolero(ドゥブルベボレロ、本店は滋賀県)
チョコレートだけではなく、ケーキや焼き菓子、パンなども販売しているフランス洋菓子専門店。滋賀県の本店は童話の中に出てきそうな一軒家のすてきなお店。喫茶利用も可能で、テラス席もあるそう。
ギモーブ(生まれたてのマシュマロのようなもの)にパリッとした薄いチョコレートでコーティングした「ギモーブショコラ」に、酸味さえ感じるほどにカカオが濃い「ガレットカカオ」
どちらもチョコレート、というよりかは一歩手前に戻った(加工する前のカカオ!)という具合にほろ苦の大人味。使うカカオ豆や合わせるお菓子の作り方でチョコレートは180度表情を変えるからおもしろい。
サロンデュショコラでは物販だけでは無くイートインもあるので要チェックです。会場で仕上げられるパフェやアツアツの出来立てが食べられるのはイベントの醍醐味です。
他にもまだある、日本国内のショコラトリー&個性的なチョコレート菓子たち
◯nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO(ネルクラフトチョコレート、東京)
2019年に東京都中央区にオープンしたビーントゥーバーチョコレート(カカオ豆の状態からチョコレートを自分のお店で作ること)専門店。
「HAMACHO HOTEL」の一階に入っている店舗には、カカオポッドの形をした和紙で作られたランプシェードや温かみのある木が使われたショーケースなど日本の手仕事を感じさせる仕掛けが多い。
文様が施された印象的なボンボンショコラは「梅」や「山椒」などは変わったフレーバーもあり、飲み物のセットで頼むことができたり、自分で好きなタブレット(板チョコ)を選んで作ってもらえるショコラショー(ホットチョコレート)などもあって食べるだけではなく楽しませてくれます。
◯RAMS(ラムズチョコレート、北海道)
岩内の塩、旭川のラベンダー、羅臼の鮭節、厚真のハスカップと安平のチーズ、士別のほおずき、滝上のハッカと北竜のひまわり……。
RAMSチョコレートは自社のある北海道の食材にこだわったチョコレートを作るブランド。北海道と聞くとおいしい食材が豊富なイメージがあるけれど、RAMSがチョコレートに使うのはちょっと意外なものが多い。
おっかなびっくり食べた鮭節のチョコレートは燻したスモーキーな香りが鼻に抜けて、クセがあるのにクセがない(生臭さはなし)。
初めて食べるほおずきの味はジューシーで南国を思わせるフルーティーさがあった。他に使われている既に知っている食材も期待をさらに上回るような掛け合わせで作られていて、食べていておいしくて楽しい。
北海道の食材を責任もっておいしくチョコレートに落とし込む職人さんの気概に感服した。
知らない食材を食べて知る。回り回って漢字の読み方もわからなかったその地域のことを知ることになる、北海道の地域と外の世界を繋ぐおいしい架け橋になる。道外の人だけではなく、北海道に住んでいる人にも食べてほしいチョコレートです。
◯MAISON CACAO(メゾンカカオ、本店は神奈川)
神奈川県鎌倉市発祥、口に入れた瞬間香りが広がるアロマのような生チョコレート「アロマ生チョコレート」が看板商品のお店。
佐藤錦やメロンなどのチョコレート作りに必要な果物などの素材は日本各地に足を運び見つけたもの。ブランドサイトには農家さんや農園の写真も合わせて掲載されています。
MAISON CACAOはその行程を旅するメゾンと呼んでいて、ご縁のある農家さんの果物や鎌倉の食材などを月に一度茅ヶ崎にある工場でマルシェを開き販売もしているそう。
知れば知るほどにストーリーがある素敵なブランドです。
2021年の限定商品として出されていたのは、感情をテーマに生チョコレート×詩×音楽×アートワークで表現するというもの。
それぞれのチョコレートには感情をテーマにしたオリジナルの詩が印刷されたものが封入されていて、音楽は案内に従ってネットにアクセスして聴けるような仕組み。
MAISON CACAOならではのアートワークの印象的なうつくしさはさることながら、世界観に没入しながらチョコレートを食べる時間は他ではできない贅沢な体験。口の中に入れた瞬間とろけていく生チョコレートは至福のおいしさです。
◯資生堂パーラー(銀座本店)
デザートワゴンのある原宿の店舗、乙女のときめきを詰めたピンクのベロアのクッションや生花が活けてあるテーブルで食事ができる銀座本店の喫茶室。おめかしをして、背伸びして行きたいのは憧れの資生堂パーラー。
銀座本店の物販フロアでは生菓子や焼き菓子だけではなく、なんとボンボンショコラを買うことができるのです。
資生堂のシンボルマーク花椿がデザインされた色彩豊かなチョコレートは、シーリングスタンプのようで思わずコレクションしたくなる可愛さ。
定番に加えて季節限定の味もあって、訪れた時は秋だったのでキャラメルポワールトマロンを購入。喫茶室でお茶を楽しんで、おうちに帰ってからもときめきを味わえるのが喫茶室(レストラン)に物販があるお店の醍醐味だと思うのです。
◯LITTLE MOTHERHOUSE(リトルマザーハウス、実店舗は東京都)
初めて見たときに繊細な色づかいに思わず目を奪われたIRODORI CHOCOLATE。うつくしい日本語と色彩で日本の四季を一枚のタブレットで表現しています。
LITTLE MOTHERHOUSEは雑貨販売などを行なっているMOTHERHOUSEから登場したブランド。
京都のチョコレートブランドDariKとコラボレーションして作られているチョコレートは、こんなに色彩豊かな見た目をしているのに実は味付けや色付けはすべて自然由来のもので作られているというのだから驚きです。
私が選んだ「白銀」は(当時と今ではフレーバーが変わっているらしいのですが)ブルーベリーとジンジャーという意外性のある組み合わせ。だけど食べてみると不思議と気持ちが内側から溶かされる、アロマのような不思議なハーモニー。
他のフレーバーもヴィジュアルがとてもうつくしいので、もし気になった方がいたらホームページをご覧になってみてください。
◯KongenSweets(コンゲンスイーツ、長野県)
長野県を代表する七味唐辛子メーカーの八幡屋礒五郎から作られた菓子ブランドKongenSweets。お店の看板のスパイスを生かしたチョコレートやマカロンなどのお菓子を製造し、カフェではジェラートも提供しているそう。
七味唐辛子メーカーでありながらチョコレートはビーントゥバー製法でカカオ豆からチョコレートを作っているというから驚きです。さまざまなフレーバーがあるけれど、イチオシは7種類を味わうことができるアソート。
柚子、白胡麻、山椒 、生姜、紫蘇 、麻種 、唐辛子。食べ終わった後も口の中に辛さが残る唐辛子、プチプチ食感が楽しい白胡麻、鼻に香りが抜ける生姜。
食べた時の想像がつかない未知の味ばかりでワクワクちょっぴりヒヤヒヤさせてくれるチョコレート。
長野市にあるカフェではスパイスを使った料理が食べられるらしく、オーブンポテト 万願寺サムライソース添え、スパイスチーズケーキ、チリココア、七味クラフトコーラ……うーん、気になります。
◯RURU MARY’S(ルルメリー)
アンティークのアクセサリーケースのような、はたまた絵画のような洗練されたデザインのパッケージは一目ではお菓子が入っているなんて思わない。
チョコレート菓子ブランドルルメリーは、百貨店やショッピングセンターで一度は目にしたことがある人もいるだろう、実は「メリーチョコレート」の派生ブランドなのです。
お酒漬けされたさくらんぼが上にのったショコラテリーヌ、チョコレート掛けのサブレなどを始めとするチョコレート菓子をさらに素敵に見せるのは草花や風景が描かれたパッケージイラスト。食べ終わった後は思わず取っておきたくなるような可憐な菓子箱です。
バレンタイン目前というにはあまりにもギリギリの更新になってしまいましたが、日本国内12ブランドの魅力的なチョコレートたちのお話をさせていただきました。
少し敷居が高いと思われることもあるチョコレートの世界ですが、既にいろんなチョコレートのお店を知っているよ、という方や個人のチョコレート専門店があるなんて知らなかったという人にも、この記事が少しでも日本のチョコレート菓子に興味をもっていただけるきっかけになればうれしく思います。
バレンタイン目前となってしまい、百貨店の催事などは終わっているものもあるかもしれませんが、各店舗オンライン通販や実店舗をもっているお店もあるので、バレンタインが終わってもチョコレートドリームは続きます。
いつまででもおいしいチョコレートを食べていたいから、日本のショコラトリーの魅力がより深く広く知られて、日本のみならず世界のチョコレート文化も末長く続くように願っています!